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急性ストレス障害
大迫 鑑顕

監修医師
大迫 鑑顕(医師)

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千葉大学医学部卒業 。千葉大学医学部附属病院精神神経科、袖ヶ浦さつき台病院心療内科・精神科、総合病院国保旭中央病院神経精神科、国際医療福祉大学医学部精神医学教室、成田病院精神科助教、千葉大学大学院医学研究院精神医学教室特任助教(兼任)、Bellvitge University Hospital(Barcelona, Spain)。主な研究領域は 精神医学(摂食障害、せん妄)。

急性ストレス障害の概要

急性ストレス障害は、心的外傷的出来事が発生した3日後〜1ヶ月の期間に見られる心理的反応です。
心的外傷的出来事とは、暴力的な攻撃や重大な事故、自然災害、戦争、性的虐待などによって、精神的に大きな衝撃を与える体験を指します。
被災して生存した事例やレイプ被害、悲惨な場面の目撃、災害や事故による親しい人の死去などが当てはまります。

急性ストレス障害の症状は、強い不安や悪夢、フラッシュバック、体験に関連するものを避ける行動、感情的麻痺、現実感の消失、睡眠障害、過度の警戒心、集中困難などです。
これらの症状は対人関係に支障をきたし、社会生活や人生に重大な影響を与えます。

急性ストレス障害が適切に対処されず、1ヶ月以上症状が続いた場合は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)という長期的な精神問題として診断されます。

急性ストレス障害

急性ストレス障害の原因

急性ストレス障害の原因は心的外傷的出来事によるトラウマです。
原因となるのは自分で直接体験した出来事だけでなく、他者に起きた出来事を目撃する、親しい人(家族や友人、パートナーなど)に生じた出来事を知るなどの間接的な状態も当てはまります。

急性ストレス障害の前兆や初期症状について

急性ストレス障害の初期症状は、心的外傷後出来事の光景がよみがえったり、頭から離れない症状が多く見られます。
心的外傷後出来事を思い出させるようなものや場所も避けるようになります。

急性ストレス障害の検査・診断

急性ストレス障害を診断するときは、米国精神医学会の診断基準であるDSM-5で定められている5つの症状(侵入症状、陰性症状、解離症状、回避症状、覚醒症状)の有無を確かめます。
心的外傷的出来事があった3日後〜1ヶ月の間にこれらの症状を相当数認め、社会生活に支障をきたしていると、急性ストレス障害の診断がつきます。

侵入症状

侵入症状は、心的外傷的出来事が不快で苦痛な記憶として頻繁によみがえる状態です。 
日常生活でフラッシュバックが突然起こり、過去の出来事がリアルに再現されます。
心的外傷的出来事が悪夢によってよみがえることもあり、睡眠の質の低下や精神的な苦痛、動機、発汗などが見られることもあります。

陰性症状

陰性症状は心的外傷的出来事が原因で、感情や行動面で消失や抑制が見られる症状です。
幸福や満足感、愛情、興味、関心などが今まで通りに感じられなくなり、社会的な交流や趣味に対する意欲が落ちます。
何でも否定的にとらえてしまうため、必要以上に自分や他人を責めることもあり、日常生活で孤立感や疎外感も強くなります。

解離症状

解離症状は心的外傷的出来事から心を守るための防御機制で、現実感の喪失や、自己と環境の解離を伴います。
自分が現実の世界から切り離されて、この世に存在していないような感覚に襲われます。 
身体や感情、思考に対する感覚が鈍くなったり、特定の内容が思い出せなくなることもあります。 

回避症状

回避症状は、心的外傷的出来事を思い出すような人や場所、機会を意図的に避けて行動する症状です。
心的外傷的出来事に関わった者との関わりを断ったり、外出を控えようとするため、社会生活に影響を及ぼします。
心的外傷的出来事に関する感情や思考を無理やり抑えて、苦痛から逃れることもあります。

覚醒症状

覚醒症状は、身体面および心理面に過敏状態になることを指し、小さな音に驚きやすくなる、過剰な警戒心を持つ、イライラ感や不眠が続くなどの症状がみられます。
心的外傷的出来事に対するストレス反応として体が過度に活発な状態になっているため、長期間続くと健康に悪影響を及ぼします。

急性ストレス障害の治療

外傷的状況から離れ、周囲からの理解および共感が示され、外傷的出来事およびそれに対する患者の反応について周りの人に説明する機会が与えられれば、多くの患者が回復します。そのためには、家族や周囲の支援者に生活上で適切なサポートをしてもらうように指導します。
本人にはリラクゼーション法を指導して、強い感情がわきあがりそうになるときにコントロールできるようにします。
症状の悪化が想定される場合は、専門の支援機関にもつなげます。

周囲の支援

急性ストレス障害を治すためには、家族や周囲の支援者のサポートによって、本人が話をしたいときにいつでも話せる生活環境を整えることが大切です。 
家族や周囲の支援者には、本人の話を無理に引き出さず、共感して丁寧に聞くことを心がけてもらいます。

心理教育

本人や家族、周囲の支援者に、急性ストレス障害の病態や想定される症状について説明します。
急性ストレス障害は誰にでも起こりうる病気であることを理解してもらい、自分自身を必要以上に責めないようにさせます。

リラクゼーション法

リラクゼーション法を指導して、猛烈な不安やフラッシュバックが起きそうなときに、自分で感情をコントロールできるようにします。
リラクゼーション法は呼吸法や筋弛緩法、自律訓練法などで、強い感情を受け止めて落ち着かせる効果が期待できます。

専門の支援機関の連携

症状が長引く場合や解離症状が強い場合は、心的外傷後ストレス障害に移行させないために、専門家のケアにつなげます。
犯罪被害者支援や司法支援、DV被害者支援などでカウンセリングを受けてもらい、ひとりで悩みや感情を抱え込まないようにさせます。

急性ストレス障害になりやすい人・予防の方法

急性ストレス障害になりやすい人はわかっていませんが、心的外傷後ストレス障害は男性より女性に多いと言われています。
急性ストレス障害につながりそうな心的外傷的出来事を経験した後は、本人の家族や支援者が以下の行動をとり、予防につなげることが重要です。

  • 本人にいつもと違う様子がないかすぐ気がつくようにする
  • 本人に心的外傷的出来事に関わる情報(テレビ、インターネットなど)に触れさせない
  • 本人が抱えている悩みをいつでも話せる環境をつくる
  • 本人に規則正しい食事と十分な睡眠をとらせて疲れをためないようにする
  • 本人が安全で安心できる生活を送れるようにする


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