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不安神経症
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

不安神経症の概要

不安神経症とは、自分自身でコントロールできない慢性的な不安が原因で心身や日常生活に支障をきたす状態です。近年では「全般不安障害」とも呼ばれています。

私たちの意識では、苦痛や不快な出来事を体験すると無意識に防御機能が働き、こころの安定を図ろうとします。

防御機能には、場面に応じて様々な種類があります。例えば、受け入れ難い出来事を経験したときに、負け惜しみを言ったりやせ我慢をしたりすることは、防御機能の一種で「合理化」と呼ばれています。

人間は、このような苦痛や不快な経験に対して防御機能を働かせることでこころの安定を図り、日常生活に適応しています。
しかし、快楽を得ようとする本能的な欲望と、それを押し殺そうとする力との葛藤が生じると、不安が生じます。

通常、不安が生じると防御機能が働くものの、過剰に働いたり正常に機能しなかったりすることで、精神や身体に何らかの症状が現れることがあります。

不安神経症では、抱えている不安が原因で眠れなくなったり、筋肉の緊張によって肩がこったりするなどさまざまな身体症状が現れます。

さらに、不安や身体症状によって集中力が低下し、仕事や日常生活に悪影響を及ぼすほか、他の精神疾患を併発する恐れもあります。重症の場合には希死念慮を抱くこともあり、注意が必要です。

不安神経症の原因

不安神経症の明確な原因は解明されていません。しかし、ストレスに対する反応に異常を認める場合や特定の薬剤の使用、遺伝的な体質、何らかの疾患、神経伝達物質の異常などの要因が複雑に絡み合って発症するものと考えられています。

不安神経症の発症に関わるリスク因子には以下のものが挙げられます。

  • 貧困
  • 女性
  • 幼少期の親の死
  • 親の精神疾患既往
  • 身体疾患(不整脈、心疾患、呼吸器疾患、脂質異常症、認知機能低下など)
  • 精神疾患(恐怖症、うつ病など)

不安神経症の前兆・初期症状について

不安神経症では、仕事や家庭環境などによる何らかの不安を抱えており、自律神経や筋肉の緊張を招いて以下のような精神・身体症状がみられます。

  • 集中力が続かない
  • 落ち着かない
  • 身震い
  • 発汗
  • 口渇
  • 筋肉の緊張、痛み
  • うずき
  • 動揺
  • めまい
  • 疲れやすい
  • 喉の異物感
  • 頻尿
  • 息苦しさ
  • 寝つきにくい
  • 中途覚醒

など

不安神経症の検査・診断

不安神経症が疑われる場合には、問診が中心に行われます。

問診では、家庭や経済面、仕事上で過剰な不安や心配がないか、不安や心配に加え、緊張感や落ち着かない感じ、筋肉の緊張などがないかなどを詳しく調べます。

不安神経症でみられる症状は他の精神疾患と似ていることもあり、場合によっては他の疾患との鑑別が困難なケースもあります。

また、患者さんが主に身体症状を訴え、精神科以外の一般診療科を受診し、診断が遅れるケースもあります。そのため、医師は精神症状だけでなく、身体症状も鑑みながら複合的に診断を行います。

不安神経症のチェックリスト(診断基準)

不安神経症の診断基準には、米国精神医学会の「精神障害の診断と統計の手引き第5版(DSM-V)」が用いられることが一般的です。
具体的には、以下に該当するような場合に不安神経症と診断されます。

  • 少なくとも6カ月間、家庭や仕事、学校生活などに対して過剰な不安や心配がある
  • 心配をコントロールすることができない
  • 不安や心配は以下の3つ以上を伴っている
    • 落ち着かない
    • 疲れやすい
    • 集中力が続かない
    • イライラする
    • 筋肉が緊張している
    • 睡眠障害がある
  • 不安や心配がパニック障害や分離不安障害、外傷後ストレス障害の発症中に生じるものではない
  • 不安や心配、身体症状が著しい苦痛を伴ったり、仕事や社会生活に支障を来したりしている
  • 不安や心配、身体症状がカフェインなどの特定の物質や何らかの疾患の作用によるものではなく、気分障害や広範性発達障害の発症中に生じるわけでもない

(出典:AMERICAN PSYCHIATRIC ASSOCIATION 「DIAGNOSTIC AND STATISTICAL MENTAL DISORDERS FIFTH EDITION DSM-5」 P222)

不安神経症の治療

不安神経症の治療の基本は薬物療法と精神療法です。一般的には、薬物療法と精神療法を併用して行われます。

薬物療法

不安神経症の薬物療法では、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬が中心に用いられます。

SNRIでは「ベンラファキシン」「デュロキセチン」が、SSRIでは「セルトラリン」や「パロキセチン」「エスシタロプラム」などが用いられています。
この他、抗ヒスタミン薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬、アザピロン系抗不安薬などが用いられることもあります。いずれの場合にも、不眠や抑うつなどの有無や、症状の重症度などを考慮して使用する薬剤を選択します。

SNRIやSSRIは副作用のリスクが低い一方、効果が現れるでにある程度の時間を要することがあります。治療開始後になかなか効果が現れないからと自己判断で内服をやめると症状の悪化を招く恐れがあります。医師の指示に従い正しく治療を受けることが重要です。

精神療法

不安神経症の精神療法では、認知行動療法の有効性が示されています。

認知行動療法とは、出来事に対する歪んだ考え方をご自身で改善できるよう働きかける心理療法の一種です。

ある出来事に対する捉え方を医師と患者さんが共同で確認することで、最終的に患者さん自身で幅広い捉え方を選択できるようアプローチしていきます。その結果、何か起きたときに不安になったり必要以上に落ち込んだりすることなく、柔軟な考え方で対処できることを目指します。

不安神経症になりやすい人・予防の方法

不安神経症のはっきりとした原因は解明されていないものの、不整脈や心疾患、呼吸器疾患などの全身疾患がある場合や、恐怖症、うつ病などの精神疾患がある場合、幼少期に親の死を経験した場合などで漠然とした不安を抱えているという場合には、発症のリスクがあるといえます。

このようなケースに該当する場合には、周囲の人に話を聞いてもらうなど、協力を依頼するなどして不安を解消し、リラックスできるよう対処することが重要です。

周りに相談できる人がいないという場合には、精神科医やカウンセラーに相談してみることも有効です。


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