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燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の概要

燃え尽き症候群、別名バーンアウト症候群は、ひとつの物事に全力を注いでいた個人が、ある時点でその意欲を失い、社会的適応が困難になる状態を指します。この状態は、自らの内的エネルギーを使い果たしたかのように感じるため、燃え尽き症候群と称されます。典型的な症状としては、朝起きられない、職場に行きたくない、イライラするといった精神的および身体的な不調が挙げられます。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)は、アメリカの精神心理学者であるハーバート・フロイデンバーガーが1970年代に提唱した概念で、当初は医療職や介護職、接客サービス業といった顧客と直接コミュニケーションを取る職業の方々に多く見られるとされていました。しかし、近年では職種に関わらず、幅広い労働者がこの症状を経験するリスクがあると認識されています。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)は、2021年に改定された国際疾病分類(ICD-11)にも定義が初めて明記されました。ICD-11における燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の定義には、エネルギーの枯渇、仕事からの心理的距離の増大および否定的な感情、仕事の効率低下と達成感の喪失があります。これにより、燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)は適切に管理されていない慢性的な職場ストレスの結果として健康状態に影響を及ぼすものであるとされ、特に雇用や失業に関連する問題の一環として分類されています。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の原因

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)は、個人的要因と環境的要因から発症するとされています。

個人的要因

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の個人的要因は、性格特性や年齢が主に関連しています。職場のストレスにどのように反応するかが影響を及ぼすとされています。性格のBig-5モデルに基づく特性の研究がされており、神経症傾向が高い方は情緒的疲労や脱人格化と正の相関が見られたといいます。

一方、調和性、外向性、誠実性が高い方は、燃え尽き症候群のリスクが低いとされています。この特性を持つ方は、より社交的で、協調性があり、義務感が強いため、職場のストレスに対しても柔軟に対応できる傾向にあります。
そして、年齢が上がるにつれて燃え尽き症候群のリスクは低下するといわれています。

また、長年の経験から得られる自己効力感も、ストレス源となる状況に対する耐性を高める要因となります。

環境的要因

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)には環境的要因も深く関与しています。職場の長時間労働、過剰な責任、不明確な職務要求、不十分な報酬、社会的支援の欠如、そして対人関係の緊張などが主な環境的要因として挙げられます。環境的要因は、従業員の職場の日々の要求に対処する能力を超える場合、精神的な消耗感や感情的枯渇を引き起こし、最終的には燃え尽き症候群につながる可能性があります。

なかでも、サービス業界など、人の感情や問題と直接向き合う職業に従事する方は、顧客やクライアントからの感情的な要求に精神的なストレスが増加するとされています。また、職務の役割が明確でない場合や、組織内でのサポートが不十分な場合、従業員は自己効力感を低下させ、孤立感を感じやすくなります。
環境的ストレス要因を軽減するためには、組織が適切なワークライフバランスの促進、職務の明確化、適切な報酬と認識の提供、職場でのサポート体系の充実を図ることが重要です。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の前兆や初期症状について

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の初期症状として、情緒的消耗が挙げられます。情緒的消耗とは、長期間にわたる職業的ストレスにより、やる気や熱意が枯渇し、仕事への関心が著しく低下する状態です。職場での日常業務が負担と感じられ、朝起きるのが困難になる、職場に行きたくないという感情が強くなるなど、精神的疲労が顕著に現れます。

また、対人関係を避ける傾向が強まり、同僚やクライアントとのコミュニケーションが困難になります。さらに、イライラが募り、些細なことで怒りやすくなるなどの情緒的な不安定も見られます。

このような症状は、しばしばアルコールの過剰摂取や、不健康な生活習慣へとつながりやすく、バーンアウトが進行すると、自己効力感の低下や業務成果の質の低下にもつながります。最終的には、仕事に対する達成感が得られなくなり、仕事だけでなく私生活にも悪影響を及ぼす可能性があります。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の症状がある場合、精神科または心療内科を受診することが推奨されます。精神科や心療内科は、心身の疲労や意欲の喪失など、燃え尽き症候群の症状に対応する専門知識と経験を持つ医師が在籍しています。自身の健康状態について不安を感じた場合は、早めに医師の意見を求めましょう。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の検査・診断

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の診断には、心理的な評価ツールが用いられます。特に広く認知されているのが、Maslach Burnout Inventory(MBI)です。このツールは心理学者のクリスティーナ・マズラックによって開発され、バーンアウトの三大要素である情緒的消耗、脱人格化、個人的達成感の低下を評価するために設計されています。

MBIは、具体的な質問項目を通じて、定量的に評価します。情緒的消耗は、仕事に対する疲労感や無力感を示し、脱人格化は、仕事に対する冷淡な態度や他人に対する同情心の欠如を評価します。一方、個人的達成感の低下は、仕事に対する自己効力感の減退や成果に対する満足度の低下を測定します。

診断では、MBIを用いて患者さん自身に自己申告してもらい、スコアをもとに症状の程度を判断します。高いスコアが示された領域は、その方が経験しているバーンアウトの重度を示すため、治療計画や介入策を立てる際の重要な指標となります。
MBIだけでなく、患者さんの職場環境や生活背景、身体的な健康状態も考慮に入れることが重要です。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の治療

まず、燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)には、十分な休息が必要です。休息とは、しっかりとした睡眠の確保や、必要なタイミングでの休憩などです。さらに、治療計画には心理的サポートも大切で、カウンセリングや認知行動療法などのサポートが適しています。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)が深刻な場合には、抗うつ薬の使用が検討されることもあります。抗うつ薬の目的は、情緒の安定や不安の軽減を助けるためであり、すべての患者さんに適応されるわけではありませんが、症状によっては医師が処方することがあります。

環境的な調整も重要で、職場での過剰な負担を減らすために、仕事の内容や時間、期待の調整が必要です。仕事のペースを調整し、適切なサポートを受けることが大切です。また、趣味などにもっと時間を割くことで、日常のストレスから距離を置き、回復を促進することもよいでしょう。
燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の治療は、患者さんのライフスタイル、職場環境、心理的健康を総合的に考慮する必要があります。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)になりやすい人・予防の方法

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)は、長期にわたる職場でのストレスや過剰な負荷が原因で起こります。燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)は、常に高い成果を求められ、そのプレッシャーに耐え続けている方や、仕事と私生活の境界が曖昧で、仕事が生活の中心になっている方、完璧主義で、自身に厳しい目を向けがちな方、コミュニケーションが苦手で、ストレスを内に溜め込んでしまう方などがなりやすいです。

また、予防方法は、定期的にチームや上司とコミュニケーションを取り、業務の進行やプレッシャーを共有したり、定期的な休暇を取り、日々の業務の終わりにはしっかりとリラックスする時間を設けたり、業務時間外は仕事のことを考えず、趣味や家族との時間を大切にして、睡眠、栄養、運動など基本的な健康管理を怠らないよう心がけることなどがあります。

燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)の予防は、単にストレスの管理だけでなく、精神的、身体的健康を維持するための取り組みが求められます。職場の環境改善にも積極的に参加し、よい職場環境を構築することが、燃え尽き症候群の予防には不可欠です。


この記事の監修医師