

監修医師:
大坂 貴史(医師)
精索水腫の概要
精索水腫は精巣水腫と似たような疾患で、精巣や精索の周囲に液体がたまって陰嚢がふくらむ病気です。胎児期に腹腔と陰嚢をつなぐ通路が閉じきらないことが原因で起こるタイプが一般的ですが、小児期以降では炎症や外傷、腫瘍により発症することがあります。症状としては痛みのない陰嚢の腫れが中心で、時間帯で大きさが変わる場合があります。診断には視診・触診に加え、透光試験や超音波検査が行われます。基本的に経過観察ですが、自然治癒しない場合や症状が強い場合には手術を検討します。精索水腫になる背景にヘルニアや腫瘍がある場合があるため、異変に気づいたら早めに医療機関を受診することが大切です。
精索水腫の原因
「精巣水腫」という類似疾患があるため、その疾患と絡めながら説明します。赤ちゃんの体ができるときに、精巣はお腹の中 (腹腔内) から消化管を包む腹膜と一緒に陰嚢の中に降りてくるため、最初は腹腔内と精巣の周りは腹膜鞘状突起 (ふくまくしょうじょうとっき) という通り道でつながっています。通常は生れてくるまでに腹膜鞘状突起は閉鎖されるのですが、何らかの原因でうまく閉じなかったりすることで液体がたまってしまうことがあります。 精巣の周りだけに水腫があるのであれば精巣水腫、腹膜鞘状突起が完全に閉鎖していない場合には精巣水腫に加えて精索水腫という病態を併発する場合があります。 この腹膜鞘状突起が閉じきらないことが原因となるタイプは小児の精巣水腫・精索水腫の原因のほとんどを占めています (参考文献 1) 。 なお、似た名前の「陰嚢水腫」「陰嚢水瘤」は精巣水腫と精索水腫が合わさったものとかんがえてください。
幼児〜大人の精索水腫は特別な原因が見つからないことも多いですが、陰嚢内部の炎症や精巣の捻転、外傷、腫瘍によっても起こることが知られています (参考文献 2-3) 。
お腹の中 (腹腔) と陰嚢の間の通路が大きく開いていた場合、そこから腸が飛び出すことがあります。これは「鼠径ヘルニア」とよばれ、別疾患としての管理が必要です。
精索水腫の前兆や初期症状について
精索水腫は、初めは痛みもなく、違和感すらないことがほとんどです。 多くの人は、鏡を見たときや入浴中に「陰嚢がふくらんでいる」と気づいて受診します。さわると、ぷよぷよとやわらかい感じがあり、押しても痛みはあまりありません (参考文献 1) 。 精索水腫をはじめとした交通性の陰嚢水腫では、朝方が一番陰嚢が小さく、夕方から夜にかけて大きくなるという特徴があります (参考文献 1, 2) いきんだ時に陰嚢のサイズが大きくなる場合には鼠径ヘルニアを疑います。赤ちゃんであれば泣いたとき、その他であればトイレでいきんだ時に陰嚢が大きくなります。痛みがあったり、嘔吐症状がある場合にも鼠径ヘルニアの可能性が高くなります。
急性の精索水腫・精巣水腫の原因に精巣炎や精巣上体炎があります。この場合には発熱や陰嚢内部の痛みが先に出ることがあります。
精索水腫を疑う症状がある場合、赤ちゃんは定期健診の際に医師に相談したり、次回の健診まで日にちが空く場合にはかかりつけの小児科外来を受診してください。鼠径ヘルニアを疑う症状がある場合には、すぐに小児科を受診してください。 生まれた後は症状がなかったのにだんだんと症状が出てきたり、ある程度成長してから精索水腫を疑う症状が出た場合には小児科か泌尿器科を受診するのがよいでしょう。この場合にも陰嚢が膨らむ以外の症状がある場合には、急ぎで受診してください。
精索水腫の検査・診断
診察では、まず陰嚢を見たり、手でやさしくさわったりしてふくらみの性質を確かめます。特に「透光試験 (とうこうしけん) 」という方法が役立ちます。これは陰嚢の後ろから光を当てる検査で、単純な精索水腫ならば中が水分なので光がすっと通り抜けます。
一方、もし中に腫瘍があったり、鼠径ヘルニアになっていて腸が落ち込んでいたりすれば光は通りません。
さらに正確に調べるため、超音波検査 (エコー検査) も行います。エコーでは陰嚢の中にたまっている液体の量、精巣自体の状態、内容物に血流があるかを確認します。水腫内に内容物があり、そこに血流があればヘルニアを疑います。
精索水腫の治療
他の疾患の症状として精索水腫が出ている場合や、鼠径ヘルニアを合併している場合を除いて、基本的には緊急での介入は必要ありません (参考文献 1-3) 。赤ちゃんの場合には1-2歳までの自然治癒が期待できます。 自然治癒しない場合や、不快な症状がある場合には外科的に修復します (参考文献 1-3) 。腹膜鞘状突起を鼠経部で処理する手術で、小さな切開で済む場合が多いです (参考文献 1) 。現在では日帰りでの手術をしている施設もあります。
精巣炎や精巣上体炎などの他の原因があって反応性に精索水腫になっている場合には、原疾患の治療が陰嚢水腫の治療になります。
精索水腫になりやすい人・予防の方法
赤ちゃんの精索水腫は、先天性疾患であるため予防は難しいです。大人の精索水腫も、多くは明確な予防法はありません。広く知られているリスク因子もありません。
精索水腫自体は症状が少なく、放置してしまう方もいます。陰嚢水腫の原因を精査する過程で治療が必要な他の病気が見つかる場合もあるため、他の病気の早期発見、重症化予防という意味でも早めに病院を受診しましょう。
参考文献
- 1. 日本小児泌尿器科学会. 陰のう水腫について.
- 2. Brenner JS, Ojo A. Causes of painless scrotal swelling in children and adolescents. UpToDate.May 20 2024.
- 3. Eyre RC. Nonacute scrotal conditions in adults. UpToDate.May 24 2024.




