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性機能障害(男性)
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

性機能障害(男性)の概要

男性の性機能障害として、勃起障害(ED:erectile sydfunction)、射精障害、性欲低下、性嫌悪障害があります。EDが最多で、続いて射精障害が多く見られます。EDは問診や身体所見から多くが診断可能で、リスクファクターとして加齢、心血管障害や糖尿病といった生活習慣が関わっています。治療は多くの場合薬物療法が選択されます。

性機能障害(男性)の原因

最も頻度の高い性機能障害がEDです。EDは器質性、心因性、混合性の3種類に分類されます。日本では40~70歳で34.5%の有病率で加齢とともに上昇します。EDのリスクファクターとして、心血管疾患、糖尿病、心疾患、高血圧、慢性腎臓病、肥満、睡眠時無呼吸症候群、脂質異常症、性腺機能低下症、喫煙、抑うつなどがあります。
神経学的異常(脳梗塞や脊髄損傷、背中の外傷、多発性硬化症、認知症、パーキンソン病など)、手術(前立腺摘出や骨盤への放射線照射)によりEDが出現することがあります。
薬物によるEDは、ED全体の25%を占めるとされ、一部の降圧薬、抗うつ薬(特にSSRI:選択的セロトニン阻害薬)、利尿薬、抗精神病薬、抗アンドロゲン薬、違法薬物、アルコールなどがあります。
ホルモン分泌の異常によりEDを発症することもあり、血清テストステロン値の低下、高プロラクチン血症、甲状腺機能亢進症・甲状腺機能低下症などがあります。
骨盤底機能低下、ポルノグラフティの多用による性的感受性低下、精神的なストレス、過去のトラウマやパートナーとの不和、心配・不安などからEDをきたすこともあります。
性欲減退は5~15%の男性に認められ、加齢、テストステロン不足、ストレス、疲労、人間関係の問題、うつ病、全身性疾患により出現します。薬剤による性欲減退として、SSRI、抗アンドロゲン薬、5αリダクターゼ阻害薬、オピオイド鎮痛薬、アルコール、違法ドラッグなどがあります。ホルモン異常による原因として、高プロラクチン血症、コルチゾール過剰、低エストラジオール血症、甲状腺機能異常などがあります。
射精障害は早発射精、遅発射精、逆行性射精、無オルガズム症に分類されます。早発射精は、定義としては膣内挿入後に1分以内の射精とされ、4%~30%の有病率とされます。遺伝的な要因による終生早発射精と、生理学的な要因による後天的早発射精に分類されます。射精障害はEDと関連することが多く、テストステロン低値、高齢者の下部尿路症状、各種薬剤は射精障害との関連が指摘されています。逆行性射精は前立腺肥大、糖尿病で膀胱括約筋の機能に異常がある場合に起こることがあります。前立腺切除や膀胱前立腺切除術により無射精症があります。

性機能障害(男性)の前兆や初期症状について

症状として性交時に勃起ができない、中折れする、勃起硬度が維持できない、性欲の減退、不妊などがあります。

性機能障害(男性)の検査・診断

EDの原因は、問診で57%、身体所見で13.9%、臨床検査6.2%、合計77.1%がプライマリケアの段階で診断可能です。病歴として、過去と現在の性的関係、現在の感情、発生と経過、治療歴、性的刺激時の勃起及び早朝勃起時の陰茎硬度と持続時間、性欲の有無、射精、オルガズムについて確認します。心理的要因の把握については自己記入式の心理テスト(CMI健康調査票、MAS、SRW-Dなど)が有用で、対人関係の把握も必要です。問診でSHIM(Sexual Health Inventory for Men)、IIEF(International Index of Erectile Function)、EHS(Erection Hardness Score)を用いることがあります。リスクファクターや手術歴・放射線治療歴、中枢神経疾患、排尿障害、睡眠障害、薬物や嗜好品、飲酒・喫煙、運動の有無についても確認します。身体所見として身長・体重、二次性徴のチェック、心血管系、神経学的所見、外陰部所見(陰茎の変形・硬結、精巣の萎縮)、50歳以上で前立腺の触診を検討します。
臨床検査では、検尿、随時血糖値などでリスクファクターに関連する項目を確認します。性腺機能低下を疑わせる所見がある場合にのみ、総テストステロン値が遊離テストステロン値のいずれかを測定します。テストステロンが低値の場合、プロラクチン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンの値を確認します。
上記で診断ができなかったED患者対しては、特殊検査として、夜間勃起現象の評価、プロスタグランジンE1の陰茎海綿体注射、カラードプラ検査、造影CT、血管造影、海綿体造影、精神医学的評価などを所見に応じて追加します。
射精障害については、不妊症(乏精子症)で性ホルモンの値が正常にも関わらず乏精子症をきたす場合は、射精後の尿検査で精子の量を確認することにより逆行性射精を診断します。尿中の精子が検出されない場合、閉塞性無精子症や造精機能障害の可能性があります。

性機能障害(男性)の治療

EDの治療として薬物療法があります。日本ではホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬として3剤(シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル)が使用可能であり、いずれも硝酸薬は併用禁忌です。
シルデナフィル(バイアグラ)は内服後30~60分で効果を発揮します。日本では25㎎、50㎎が認可されており、100㎎は日本を除く世界各国で認可されています。食事や飲酒の影響を受けやすいため、空腹時の内服が推奨されます。
バルデナフィル(レビトラ)は、内服後30分で効果を発揮します。10㎎と20㎎があり、用量依存性に有意に効果が強いとされます。食事の影響はシルデナフィルと比較して受けにくいですが、油ものの摂取は避けた方が無難です。
タダラフィル(シアリス)は、内服後30分から効果を発揮し、36時間持続します。食事の影響を受けにくいとされます。
PDE5阻害薬の副作用として、頭痛、ほてり、消化不良、鼻閉、めまい、眼症状などがあります。安全性の高い薬剤ですが、まれな重篤な副作用としてNAION(non-arteritic anterior ischemic optic neuropathy:非動脈炎性前部虚血性視神経症)、突発性難聴(内服後24時間以内に多い)、前立腺癌術後のPSA再発、メラノーマの発生率が僅かながら有意に上昇したとの報告があります。硝酸薬や、肺動脈性高血圧の治療薬であるリオシグアトは過降圧を引き起こす場合があり併用禁忌です。併用注意薬・条件としてはCYP3A4阻害薬、抗HIV薬、抗真菌薬、α遮断薬、降圧薬、アルコール、不整脈関連薬(特にアミオダロン)、65歳以上、腎機能障害、肝機能障害では注意が必要です。
PDE5阻害薬に反応しない場合は、まず患者が正規の薬剤を使用していたかどうか、正しい内服方法で使用していたか確認します。
テストステロン低下を伴ったEDの場合はテストステロン補充療法が推奨されます。
心因性EDに関してはPDE5阻害薬と心理療法の併用が推奨されます。
また、肥満に対して食事療法・運動療法、喫煙に対する禁煙指導が強く推奨されます。
睡眠時無呼吸の場合は持続的陽圧呼吸(CPAP)が治療の一助になる可能性があります。
薬剤性EDの場合は薬剤の変更や中止で改善する場合がありますが、変更、中止は困難な場合が多いです。
PDE5阻害薬が無効・禁忌の患者に対しては、陰圧式勃起補助具やプロスタグランジンE1の海綿体注射、陰茎プロテーゼの注射といった選択肢があります。

性機能障害(男性)になりやすい人・予防の方法

性機能障害は加齢により40代前半から現れることが多いです。年間発症人数は、40~49歳で12/1000人、50~59歳で30/1000人、60~69歳で46/1000人とされます。EDは心血管疾患、糖尿病、心疾患、高血圧、肥満、脂質異常症、喫煙などリスクファクターであり、禁煙・禁酒、運動(特に有酸素運動)による生活習慣の是正がEDの予防に繋がります。

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参考文献

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