

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
血精液症の概要
血精液症とは、射精時に精液に血液が混入する症状を指します。この症状は突然現れることが多く、患者は不安を感じることが一般的です。多くの場合、良性の一過性のものであり、数週間以内に自然に消失します。しかし、持続する場合や他の症状を伴う場合には、基礎疾患が関与している可能性があるため、適切な診断と管理が必要です。若年層では炎症や感染症が原因となることが多く、高齢者では悪性疾患の可能性も考慮する必要があります。
血精液症の原因
血精液症はさまざまな要因によって引き起こされる可能性があります。最も一般的な原因としては、炎症や感染症が挙げられます。前立腺炎や精囊炎、尿道炎、膀胱炎、精巣上体炎などが血精液症を引き起こすことがあります。特に細菌感染が関与している場合は、尿道の分泌物や排尿時の違和感を伴うことが多いです。また、性感染症であるクラミジアや淋菌が関連しているケースも報告されています。
精囊の血管が破れることによって出血が起こる場合もあり、MRI検査を行うと精囊内に出血が確認されることがあります。精囊内の結石や、前立腺正中線囊胞、射精管閉塞といった構造的な異常が原因となることもあります。悪性腫瘍が血精液症を引き起こすことは稀ですが、前立腺癌や精囊癌、精巣腫瘍、膀胱癌などの可能性を考慮する必要があります。特に50歳以上の男性では前立腺癌のスクリーニングを実施することが推奨されます。
血液凝固異常が原因で血精液症を発症することもあります。抗凝固薬や抗血小板薬を服用している場合、出血しやすい状態になるため、精路や尿道からの出血を引き起こすことがあります。その他の要因としては、精囊結石、尿道海綿状血管腫、前立腺小室囊胞、外傷、過度な性的活動などが報告されています。
血精液症の前兆や初期症状について
血精液症は通常、痛みを伴わず、突然精液が赤や茶色に変色することで気づかれることが多いです。炎症や感染が原因の場合は、排尿時の痛みや頻尿、尿道からの分泌物、下腹部や会陰部の痛み、精巣の腫れといった症状が現れることがあります。悪性疾患が関与している場合は、体重減少や血尿、排尿困難といった症状を伴うことがあります。特に症状が長期間持続する場合は、医療機関を受診することが推奨されます。
血精液症の検査・診断
診断には、問診と身体診察が重要です。血精液症が初めて発生したのか、繰り返し起こっているのか、血尿があるか、排尿痛や頻尿といった他の症状があるか、過去に性感染症の既往があるかといった情報を確認します。服薬歴についても詳しく調べ、抗凝固薬や抗血小板薬の影響が考えられる場合は慎重に評価を行います。
尿検査を実施し、尿路感染症の有無を確認します。血液検査では、炎症の指標である白血球数やC反応性タンパク(CRP)、前立腺特異抗原(PSA)の測定を行います。性感染症の疑いがある場合には、クラミジアや淋菌の検査を実施することが推奨されます。精液検査では、白血球の増加や細菌の存在を調べることで、感染症の有無を評価します。
経直腸的超音波検査(TRUS)を用いることで、前立腺や精囊の異常を検出することができます。MRIやCTを用いた詳細な画像診断によって、腫瘍や精囊内の出血の有無を確認することもあります。膀胱癌や尿道病変が疑われる場合には、尿道膀胱鏡検査を行い、より詳細な評価を行います。
血精液症の治療
血精液症の治療は原因に応じて異なりますが、大部分の特発性血精液症は自然に消失するため、治療を必要としないことも多いです。患者には、血精液症の多くは良性であり、自然に改善する可能性が高いことを説明し、不安を軽減することが重要です。
細菌性前立腺炎や尿道炎、精囊炎などが原因の場合は、起因菌に応じた抗菌薬を投与します。性感染症が原因である場合は、クラミジアや淋菌に有効な抗菌薬が処方されます。精囊出血が確認された場合、多くは時間とともに自然に吸収されるため、特別な治療は必要ありませんが、精囊結石や射精管閉塞が原因の場合は、経尿道的手術が検討されることもあります。
血液凝固異常が関与している場合は、抗凝固薬や抗血小板薬の使用状況を確認し、必要に応じて投与量の調整を行います。高血圧が関与している場合には、適切な降圧治療が推奨されます。悪性疾患が疑われる場合には、前立腺生検や追加の画像検査を実施し、腫瘍が確認された場合には外科的治療や放射線治療、化学療法を行います。
血精液症になりやすい人・予防の方法
血精液症を完全に予防する方法は確立されていませんが、いくつかの生活習慣の改善がリスク低減につながる可能性があります。性感染症の予防のためには、コンドームの使用を心がけ、複数のパートナーとの性的接触を控えることが推奨されます。前立腺や泌尿器の健康を維持するために、定期的な健康診断を受けることが望ましいです。
抗凝固薬を服用している場合は、医師と相談の上、適切な管理を行うことが重要です。バランスの取れた食生活や適度な運動を取り入れることで、生活習慣病を予防し、高血圧のコントロールに努めることが血精液症の発生を抑える可能性があります。ストレスの軽減や過度な性的活動を避けることも予防の一環となります。
参考文献
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