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嵌頓包茎
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

嵌頓包茎の概要

嵌頓包茎は、包茎の男性(特に真性包茎)において、包皮が亀頭の後方に引かれたまま戻らなくなる状態を指します。包皮が締め付け輪のようになって絞扼することにより血流障害が生じ、進行すると亀頭の浮腫、疼痛、壊死に至ることがあります。緊急処置が必要な泌尿器科的救急疾患の一つであり、迅速な対応が予後を左右します。治療は用手整復を行いますが、用手整復が困難な場合は外科的治療が必要となります。

嵌頓包茎の原因

陰茎は、陰茎体、亀頭、冠状溝(亀頭と陰茎体の境界部)、および包皮から構成されます。包皮は亀頭を物理的・免疫的に保護する役割を持ち、性的快感の増強や潤滑の補助も行います。出生時には、包皮と亀頭は癒着しており、自然には翻転できません(生理的包茎)。年齢とともに癒着は自然に解消され、翻転が可能となります。嵌頓包茎は包皮が冠状溝の後ろで締め付けを起こすことで発症します。この締め付けが血流やリンパの流れを阻害し、亀頭に腫脹と疼痛を引き起こします。包皮口に十分な進展性がないことが病因です。発症原因は年齢によって異なります。乳幼児や学童期では、保護者による無理な包皮の清拭が原因で発症することが多く、まだ自然にはむけない生理的包茎の状態で無理に包皮を剥こうとしたことによる損傷が引き金になります。一方、思春期以降の青年や成人では、性交時の包皮の後退後に自然に戻らなかったことが契機になる例が一般的です。その他、医療処置中に包皮を戻し忘れるケース(導尿後や膀胱鏡検査など)も報告されています。まれですがカンジダ感染や糖尿病に伴う包皮の炎症は、病的包茎を引き起こします。

嵌頓包茎の前兆や初期症状について

症状としては亀頭と包皮の著しい腫脹、疼痛、変色などが認められます。視診では、冠状溝部(亀頭の付け根)に輪状の締め付けが見られ、遠位部(亀頭および包皮)は鬱血して腫れあがり、紫色〜黒色の変色を呈することもあります。触診で亀頭が硬く冷たくなっている場合は虚血や壊死が進行しているサインであり、即時対応が必要です。乳幼児では、症状を上手く表現することができないため、原因不明の不機嫌や泣き叫びが初発症状となることもあります。

嵌頓包茎の検査・診断

診断は視診と触診により臨床的に確定されます。特別な画像検査は不要ですが、必要に応じて尿路閉塞の評価や感染の有無を確認するために検尿や血液検査が行われることもあります。

嵌頓包茎の治療

一刻を争う疾患であり、診断がついたらすぐに治療を行う必要があります。治療の基本は、用手整復です。両方の親指で亀頭に圧力をかけ、他の指で陰茎を固定しつつ、包皮を前方に押し出します。 腫脹が軽度で虚血の所見がなければ、用手整復による整復が第一選択です。浮腫軽減のための補助療法(30~60分要する)としては、冷却療法、圧迫包帯、浸透圧療法などを行った後、浮腫が軽減すれば、用手整復が容易になることがあります。非侵襲的手技で整復できない場合や、疼痛が強く不快感が強い患者には、全身麻酔あるいは局所麻酔下での手術的整復が考慮されます。

疼痛管理として、局所麻酔や鎮痛薬の使用が推奨されます。年齢により使用薬剤が異なり、成人では局所麻酔で対応できる場合が多いですが、小児では静脈麻酔や鎮静が必要な場合もあります。浮腫に対して穿刺や排液も有効となることもありますが、処置に激痛を伴い、原因が真性包茎であることも多いことから、処置に失敗したり虚血の兆候がある場合は、速やかに泌尿器科専門医にコンサルトし、手術下での処置が必要になります(包皮輪開大術や環状切開術など)。絞扼期間が長期になると亀頭壊死により陰茎部分切断などの更なる侵襲的処置が必要となることもあります。泌尿器科への緊急コンサルトが推奨される状態としては、陰茎壊死の兆候(皮膚の黒色変化、冷感)、 完全尿閉、用手整復困難、反復性嵌頓包茎や還納後の包皮損傷・裂傷があります。

治療後のケアと再発予防として、1週間は包皮の再牽引を行わないこと、亀頭部や包皮の洗浄は優しく行い、無理な清拭は避けることが挙げられます。また、還納後に小さな裂傷がある場合は、抗生物質の含まれた軟膏を塗布し、再度の牽引は避けることが重要です。感染徴候(発赤、腫脹、排膿など)がある場合は速やかに再受診する必要があります。泌尿器科専門医の紹介が原則ですが、浮腫が軽度で容易に還納でき、外傷がない場合は、かかりつけ小児科での経過観察も容認されます。青年・成人における再発予防として、再発や還納時の外傷が重度で瘢痕性包茎のリスクがある場合には、専門医による包茎手術を検討します。性交渉の再開は1週間以上経過し、治癒が確認された後が望ましいです。

嵌頓包茎になりやすい人・予防の方法

小児から高齢者に至るまですべての年齢層に生じます。乳幼児期から就学前では、保護者による包皮翻転で発症します。特に、ステロイド軟膏などで包茎治療を行っている場合は注意が必要です。



参考文献

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