監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
男性不妊の概要
男性不妊は、不妊の原因が男性側にある状態です。
不妊症とは、妊娠を希望した男女が避妊をせず性行為をしているのにも関わらず、1年以上妊娠しないことを指します。
妊娠のしやすさは女性の年齢によって大きく変化しますが、男性が生殖機能に問題を抱えている場合も不妊の原因になります。
不妊症カップルの50%は男性側に原因があると言われているため、不妊治療では男性側の原因も詳しく確かめて方針を決定させることが重要です。
男性不妊の原因
男性不妊の原因は、造精機能障害、性機能障害、精路通過障害の大きく3つにわけられます。
造精機能障害
造精機能障害とは精子の形成や成熟の障害により、精子の数や運動能力に問題がある状態です。
精子は精巣のなかでつくられ、精巣上体を通るときに受精に必要な運動能力が加わりますが、この過程に異常があると、精子の数や動きに影響して受精する力が落ちます。
造精機能障害が起こる原因はわかっていません。
性機能障害
男性の性機能障害は、勃起が上手く起こらず性行為ができない状態(勃起障害)や逆行性射精や無精液症などで射精ができない状態(射精障害)、勃起はできるものの膣内射精ができない状態(膣内射精障害)があります。
これらの原因は動脈硬化や糖尿病、薬物による副作用のほかに、性行為のプレッシャーなどによるストレスが影響しているケースもあります。
精路通過障害
精路通過障害は、精子が精巣でつくられた後に通過する精路に障害がある状態です。
精巣上体や精管、射精管、尿道に問題があるため、精液中に精子がでてこない(閉塞性無精子症)症状が起こります。
原因は先天性の両側精管欠損や精巣上体炎による閉塞、鼠径(そけい)ヘルニア手術などです。
男性不妊の前兆や初期症状について
男性不妊の前兆や初期症状はありません。
男性不妊の検査・診断
男性不妊の検査は精液と泌尿器科系の検査があり、婦人科と泌尿器科が連携しておこないます。
精液検査
精子の量や濃度、運動率、質、形態、感染の有無などを調べます。
検査の対象となる精子は質を落とさないために、2〜7日間射精を控えた後、マスターベーションで全量を採取します。
精索静脈瘤の検査
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)は精巣の静脈内で血液の逆流が起こり、精巣に瘤(こぶ)ができる病気で、触診や超音波検査を用いて診断します。
男性不妊の原因として最も頻度が高いと言われています。
内分泌検査
内分泌検査は、血液を採取してテストステロン(男性ホルモン)や性腺刺激ホルモン(LH、FSH)の値を調べます。
これらの値は、精液異常や勃起障害、射精障害の原因を特定する材料になります。
染色体・遺伝子検査
血液検査で、染色体や遺伝子の異常がないか確かめます。
染色体や遺伝子の異常は、精子形成障害につながるため、無精子症や精子数が極端に少ないケースで確かめることが多いです。
男性不妊の治療
男性不妊の治療は生活習慣を改善させるほか、原因に応じた薬物療法や手術などがおこなわれます。
生活習慣の改善
不妊の原因になる喫煙やアルコールの大量摂取、精子や射精に影響する薬剤を控えます。
精巣を長い時間、高温環境におくと精子の形成率や質が下がるため、サウナや長時間の入浴、膝上でのコンピューターの使用なども避けます。
薬物療法
逆流性射精には抗うつ薬、勃起不全にはPDE-5阻害薬という治療薬を用いる場合があります。
有効性は示されていませんが、精子の数が少なかったり、運動率が低い場合は、漢方やビタミン剤、血流改善薬を投与することがあります。
射精方法の改善
誤ったマスターベーションの習慣によって膣内射精ができない場合は、器具を用いて方法を矯正できるか試します。
改善が難しい場合は、人工授精が必要になる可能性があります。
内分泌療法
脳の視床下部や下垂体の機能不全によって起こる低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(精巣の機能不全)に対して、自己注射をおこないます。
hCGやFSHというホルモンを含む薬剤を、腹部や太ももに指定された量と頻度で注射することで、改善が期待できます。
顕微鏡下精索静脈瘤手術
顕微鏡下精索静脈瘤手術は下腹部を切開した後、顕微鏡を用いて瘤の原因となっている静脈を結紮(けっさつ)し、精索静脈瘤の改善を図る手術です。
精索静脈瘤によって精子形成障害があるケースなどでおこなわれます。
精子採取術・顕微授精
手術によって精巣の組織から精子を採取し、顕微授精によって体外受精させる方法です。
さまざまな方法をおこなっても精巣から精子が得られない場合に適応されます。
精路再建手術
精路再建手術は精子の通り道の閉塞部位を取り除いて、精路を再建させる手術です。
精管や精巣上体、射精管などの閉塞部位によって、方法が異なります。
男性不妊になりやすい人・予防の方法
男性不妊になりやすい人は、睾丸(こうがん)の形や固さが特徴的だったり、睾丸のはたらきが落ちる病気にかかった経験があります。
以下の状態に当てはまる人は医療機関に自己申告し、適切な治療や対処法の指示を受けてください。
不規則な食生活や睡眠不足、喫煙、肥満なども精液に影響するため、規則正しい生活や体重コントロールなども心がけましょう。
睾丸に瘤がある人
睾丸に瘤が触れる場合は、精索静脈瘤が起きている可能性があります。
精索静脈瘤では睾丸の温度が低く保てないため、精子をつくる機能が衰えます。
睾丸が陰嚢の上方にある人
睾丸が陰嚢(いんのう)の上方や鼠径部(そけいぶ)に位置しているケース(停留睾丸)でも、睾丸の温度が高くなるため、不妊につながりやすいです。
過去に停留睾丸の手術をした人でも、精液の所見が悪い場合があります。
鼠径ヘルニアの手術をした人
子どもの頃に鼠径ヘルニアの手術をした場合は、不妊につながる可能性があります。
手術をした鼠径管で精子が上手く通れなくなることがあるからです。
おたふく風邪で睾丸が腫れた人
おたふく風邪で睾丸が腫れると、睾丸炎によって精子をつくる力が落ちやすくなります。
副睾丸や前立腺の炎症が起きた経験がある場合も、睾丸のはたらきが悪くなることがあります。
抗がん剤や放射線の治療を受けた人
抗がん剤や放射線の治療を受けた経験がある人も、睾丸の状態が悪くなる可能性があります。
治療が終了した後でも精子が上手くつくれないことがあります。