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ED(勃起障害)
村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

ED(勃起障害)の概要

ED(勃起障害)はErectile Dysfunctionの略称で、勃起しない、または勃起状態が維持できないために性交が行えなくなる病気です。 EDは軽度、中等度ED、完全EDと程度によって分類されます。日本では中等度EDと完全EDだけを合わせても、1,130万人程度の患者さんがいると考えられています。 EDは陰茎だけの障害ではなく、心理的な原因や生活習慣、全身疾患が原因の病気です。代表的な原因には、次のような疾患や生活習慣があります。
  • うつ病などの心理的疾患
  • 高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病
  • 加齢
  • 喫煙や飲酒、運動不足

ED(勃起障害)の原因

ED(勃起不全)は、陰茎だけの問題ではありません。EDの主な原因には以下のようなものがあります。
  • 男性器に通じる動脈の硬化
  • 糖尿病
  • 中枢神経に作用する薬剤(高血圧やうつ病治療に用いられる薬など)
  • 前立腺の手術
上記のほかにもEDの原因はさまざまです。また、EDは原因によって器質性EDと機能性EDに分類されます。

動脈性ED(流入系ED)

動脈性ED(流入系ED)は、勃起に必要な血液が十分に陰茎海綿体に流入しないことで起こります。動脈性EDの主な原因は動脈硬化です。動脈硬化は肥満や運動不足、喫煙や飲酒などが原因で起こります。動脈性ED(流入系ED)は器質性EDに分類されます。また睡眠時無呼吸症候群が睡眠時の勃起を妨げることで、陰茎海綿体が低酸素状態になることも動脈性EDの原因の一つです。

心因性ED

心因性EDは、うつ病などの精神疾患や性交に対するトラウマ・性的能力不安・ストレスから勃起不全になります。病気や疲労で活力が失われることも、EDの原因または一因です。心因性EDは、機能性EDに分類されます。

男性加齢性機能低下症候群(LOH症候群)

男性加齢性機能低下症候群(LOH症候群)は、男性ホルモンであるアンドロゲンの分泌量が減少することで起こります。男性更年期障害とも呼ばれ、この病気が原因で起こるEDは機能性EDです。この病気はさまざまな症状が見られ、不安や不眠といったEDに関わるうつ症状を引き起こす場合があります。性機能に関しては、次のような症状が挙げられます。
  • 勃起力の低下
  • 射精感の消失
  • 性欲の減退

薬剤性ED

病気を治すための薬でEDになることがあることに驚く人も少なくありません。機能性EDに分類される薬剤性EDでは、ほかの病気の治療薬が原因でEDになるケースがあります。非ステロイド性抗炎症薬や抗うつ薬、睡眠薬や高脂血症治療薬など、さまざまな薬で薬剤性EDの報告がされています。EDに悩んでいる方で常用薬がある方は、一度医師に確認してみるのがおすすめです。

静脈性ED(流出系ED)

静脈性ED(流出系ED)は動脈性EDと同じく、器質性EDに分類されます。血液を送り込む動脈に原因がある動脈性EDと異なり、血液を流出する静脈に原因があるケースです。静脈性EDでは陰茎に血液を保持することができず、硬さを保つことができません。静脈性EDは静脈閉鎖不全が原因で起こります。

神経性ED

神経性EDには中枢性EDと末梢神経性EDが含まれ、器質性EDに分類されます。脳からの神経伝達が陰茎まで達しないことが原因です。神経性EDは骨盤内手術などで末梢神経が傷ついたことや、脊髄損傷や脳血管障害などが原因として挙げられます。最後に、EDには陰茎性EDもあります。陰茎性EDはこれまで挙げてきた原因のどれでもなく、陰茎の障害でEDを発症するケースです。しかし陰茎性EDの割合は高くなく、陰茎以外の要因によるケースが少なくありません。

ED(勃起障害)の前兆や初期症状について

EDの前兆や初期症状に、朝立ちの消失があります。しかし朝立ちは毎朝欠かさず起こるものでもないため、頻度や状態から判断する必要があります。 EDは他人に相談しづらいと感じる方が少なくありません。早期発見のためには、一人で悩まずに泌尿器科を受診するか、医療機関が提示しているセルフチェックを実施しましょう。

ED(勃起障害)の検査・診断

ED(勃起障害)の検査・診断は、問診や血液検査で行います。EDの定義は満足のいく性交に十分な勃起状態にならない・維持できないことですので自己診断も可能です。 セルフチェックにも使用される国際勃起機能評価スコア(IIEF5スコア)は、医療機関での問診時にEDの程度を調べるためにも使用されています。 勃起の硬さスコア(日本語版EHS)というものもあり、EDの簡易的な診断や治療効果の確認が可能です。その他、EDの種類を判別するためにさまざまな問診やテストがあります。
  • ストレステスト
  • スタンプテスト
  • Aging Male’s Symptoms score(AMSスコア)
  • Audio-Visual Sexual Stimulation(AVSS=視聴覚性的刺激)
  • パパベリンテスト
上記のテストの結果から、心因性ED・機能性ED・LOH症候群の診断・神経系EDなどの診断が可能です。EDの診断方法は多様なため、ED治療を専門的に行う医療機関を受診するのがおすすめです。 血液検査では、勃起に関わるホルモンの量や血糖値などを検査します。また陰茎内の血流を確認するために超音波検査を行う場合もあります。

ED(勃起障害)の治療

ED治療は、思わぬ全身疾患の発見につながることもあります。 EDは泌尿器科で検査・治療を受けられます。主な治療方法は以下のとおりです。

原因となる疾患の治療

高血圧や糖尿病、うつ病などの疾患がEDの原因になることが少なくありません。そこでED治療では原因となる疾患の治療を実施します。肥満や乱れた生活習慣もEDの原因となるため、生活習慣の改善の指導を受ける場合もあります。

心理療法

EDの原因がうつ病やストレスなどの心因性EDの場合は、カウンセリング治療が重要です。心因性ED以外が原因の場合も、EDは精神的な負担が大きいことからカウンセリングなどの心理療法を並行して行います。

薬物療法

EDの薬物療法で処方されるのは、ED治療薬のPDE5阻害薬です。PDE5阻害薬の有効成分は、シルデナフィル・バルデナフィル・タダラフィルの3種類です。3種類はそれぞれ持続時間や即効性などに違いがあり、医師の判断により選択されます。EDの薬物療法で改善が見られるのは、全体の6〜8割の患者さんです。医療機関で処方される場合は、それぞれ商品名で表記される場合もあります。ほかにも薬剤性EDの場合は使用している薬剤の変更を行い、男性加齢性機能低下症候群(LOH症候群)が原因の場合は、男性ホルモン剤が処方されます。

陰圧式勃起補助具

陰圧式勃起補助具を用いた治療は、陰茎に吸引作用をかけて血液を集めて、根元にゴムバンドを巻いて勃起状態を維持させることが目的です。陰圧式勃起補助具は手で持てる大きさの装置で、この治療は医師の指導のもと行われます。自力で勃起まで至れるが勃起状態の維持ができない患者さんの場合は、根元につけるリングだけ使用します。

手術

ED治療には、主に以下の手術があります。
  • 動脈閉塞部拡張術
  • 動脈バイパス手術
  • 深陰茎背静脈結紮術
  • 陰茎海綿体脚部結紮術
  • 尿道海綿体剥離術
  • 陰茎プロステーシス挿入術
動脈性EDや静脈性EDの治療では、動脈閉塞部拡張術・動脈バイパス手術・深陰茎背静脈結紮術・陰茎海綿体脚部結紮術・尿道海綿体剥離術が行われます。EDの原因である血流を改善することが目的です。陰茎プロステーシス挿入術では、プロステーシスという器具を陰茎海綿体に埋め込みます。ほかの治療で改善が見られなかった場合など、最後の選択肢として選ばれる手術です。その他、陰茎性EDの治療には、陰茎海綿体に平滑筋弛緩剤を注射する方法もあります。

ED(勃起障害)になりやすい人・予防の方法

ED(勃起障害)になりやすい人は、EDの原因の項目で紹介した疾患や生活習慣を持つ人です。次のような疾患や生活習慣が挙げられます。
  • 動脈硬化
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 肥満
  • うつ病などの精神疾患
  • 喫煙
  • 飲酒
  • 乱れた食生活
上記のような疾患や生活習慣がある方は、早めに改善を目指しましょう。EDの原因になることはもちろんですが、ほかにも重大な疾患の原因になる可能性があります。

生活習慣の改善

EDの予防に大切なのは、生活習慣の改善です。高血圧や糖尿病をはじめとした生活習慣病が原因で、EDを発症することが少なくありません。肥満や運動不足がある方は、食生活の改善や運動習慣をつけるといった対応が必要です。適度な運動やバランスのよい食事、禁酒や禁煙を心がけましょう。

ストレス管理

精神面の健康もEDに関連するため、ストレスを感じる環境を避け、意識的にストレス解消につながる行動をとることも大切です。また、常用薬がある方は、EDの原因になる薬剤でないか医師に確認する必要があります。

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