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総動脈幹遺残症
弓場 智雄

監修医師
弓場 智雄(医師)

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2014大阪大学卒業、2014~2016 国立病院機構呉医療センター、2016大阪大学心臓血管外科、2017大阪大学麻酔科集中治療部、2018国立成育医療研究センター麻酔科、2019~大阪大学麻酔科集中治療部 医員。もともと心臓外科を研修していたが、担当した患者さんが集中治療室(ICU)の術後管理で劇的に回復したことをきっかけに麻酔科に転科。専門は集中治療、手術麻酔、ペインクリニック、無痛分娩。研究は酸化ストレス、慢性痛や術後せん妄、無痛分娩など。

総動脈幹遺残症の概要

総動脈幹遺残症(そうどうみゃくかんいざんしょう)は、生まれつき心臓の構造に異常がある先天性心疾患の一種です。

通常、心臓からは大動脈と肺動脈が別々に出ていますが、総動脈幹遺残症では大きな心室中隔欠損があり、左右の心室から出る血管が1本の大きな血管(総動脈幹)として存在しています。総動脈幹から冠動脈、肺動脈、大動脈に分岐する異常な構造を呈するのが特徴です。

こうした構造異常により、総動脈幹遺残症を発症している新生児の多くは、出生直後から心不全の症状がみられます。重症例では治療をおこなっても救命が難しいケースも珍しくなく、重篤な疾患として知られています。

治療は主にさまざまな心内修復手術によりおこなわれます。新生児期から幼児期におこなわれる手術に成功しても、再手術を要することがあり、生涯にわたり慎重な経過観察が必要とされる疾患です。患者さんは運動制限や生活制限を受ける可能性があります。

総動脈幹遺残症の発症率は出生数約10,000人に1人の割合とされ、まれな疾患です。厚生労働省の指定難病に登録されています。

出典:公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター「総動脈幹遺残症」

総動脈幹遺残症の原因

総動脈幹遺残症の原因は、赤ちゃんの心臓が発達する過程にあります。もともと1本の総動脈幹が大動脈と肺動脈に分かれるために必要ならせん状の壁が、うまく形成されないことが原因です。

壁の形成に重要な役割を持つ「心臓神経堤細胞」という細胞に問題があると考えられていますが、なぜその細胞に異常が生じるのか根本的な原因は解明されていません。

なお、総動脈幹遺残症は22q11.2欠失症候群という難病に合併しているケースが多いことも含め、まだ解明されていない因子が潜んでいる可能性があるため、今後さらなる研究が必要とされています。

総動脈幹遺残症の前兆や初期症状について

総動脈幹遺残症は通常、出生後間もない時期から心不全症状が現れます。状態によっては重篤な心不全症状を引き起こすことも少なくありません。

一般的な症状として、多呼吸と陥没呼吸(かんぼつこきゅう:息を吸う際に胸がへこむこと)がみられるケースが多いとされます。

赤ちゃんは息苦しさのため、授乳時に頻繁に休憩したり哺乳量が減少したりします。これにより、十分な栄養が摂れず、体重増加が不良となることがあります。

また、過度の発汗も特徴的な症状で、授乳中や安静にしているときでも汗をかくことがあります。頻脈や呼吸器感染症にかかりやすくなるといった症状もみられます。

総動脈幹遺残症の検査・診断

総動脈幹遺残症は、心臓超音波検査(心エコー)や胸部の画像検査、心臓カテーテル検査などによって診断します。

心臓超音波検査(心エコー)

心エコー検査では、総動脈幹が心臓の両心室から出ている様子や、その血管から肺へ行く血管が分かれている状態を確認できます。また、総動脈幹の入り口にある弁の状態や、血液の逆流の有無を調べられます。

画像検査

胸部X線検査では、心臓の拡大や肺血管陰影の増強が見られます。総動脈幹遺残症では大動脈弓の異常が認められることもあります。

より詳細に調べるために、MRIやCT検査をおこなうことがあります。これらの検査では、総動脈幹と心室中隔欠損の関係などを観察でき、手術前の解剖学的な評価における重要な情報となります。

心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査はカテーテルを総動脈幹から肺動脈や大動脈に挿入することで、血行動態を評価したり、造影剤を注入して血管の形態を詳しく観察したりすることができます。

総動脈幹遺残症の治療

総動脈幹遺残症では、形態異常の程度に応じてさまざまな外科的治療(心内修復手術)が試みられます。心不全症状のコントロールのために、補助的に薬物療法も用いられます。

内科的治療

内科的治療では心不全症状のコントロールのために薬物療法をおこないます。具体的には利尿薬により体内の余分な水分を排出させて心臓の負担を軽くしたり、心臓の収縮力を高める薬剤や血管を広げる薬を使ったりします。

しかし、これら内科的治療だけでは心不全の症状をすべてコントロールするのは難しく、根本的な問題は解決できません。

外科的治療

患者さんの症状や形態異常の程度に応じてさまざまな外科的治療(心内修復手術)がおこなわれます。最終的には、ラステリ手術(心臓の形態と機能を正常な状態に近づける手術)などの適切な外科的治療の実施を目標とします。

ラテスリ手術では、心室中隔欠損を塞ぐことや人工弁付きの導管を造設することで、酸素の少ない血液と酸素を含んだ血液が適切に分かれて流れるようにします。

総動脈幹の入り口にある弁に問題がある場合は、その弁を修復したり人工弁に置き換えたりすることもあります。

総動脈幹遺残症になりやすい人・予防の方法

総動脈幹遺残症は赤ちゃんが母親のおなかの中にいるときに、心臓が発育する過程で起こる先天性の病気です。

関係が深いとされているのは22q11.2欠失症候群です。22q11.2欠失症候群を患っている場合、総動脈幹遺残症が起こりやすいとの報告があります。そのため、家族歴がある場合は総動脈幹遺残症になるリスクがあるといえます。

現時点で総動脈幹遺残症を確実に予防する方法は確立されていません。ただし、妊娠中における適切な健康管理は、先天性心疾患全般のリスクを減らすための一般的な対策となり得ます。

具体的にはアルコールの摂取や喫煙しないことやバランスの良い食事を摂ること、定期的な妊婦健診は欠かさず受けることなどが大切です。

関連する病気

  • 心室中隔欠損
  • 肺動脈狭窄症

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