

監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
エプスタイン病の概要
エプスタイン病はエプスタイン奇形と呼ばれることもある、生まれつき心臓の形が正常と異なる先天性心疾患で、心臓の三尖弁(さんせんべん)に異常がある疾患です。
正常な心臓は4つの部屋があり、血液は右心房から右心室へと通過してから心臓を出て肺に入り、再び心臓の左心房へ戻り左心室から大動脈へと流れてゆきます。4つの部屋は出口に逆流を防ぐ弁があり、三尖弁は右心房と右心室の間にあります。
この疾患では、三尖弁が正常に形成されず、正しく機能しません。そのため、血液が右心室から肺へ向かうのではなく、右心房に逆流してしまいます。この結果、血液の循環が悪くなり、酸素を十分に取り込めません。
エプスタイン病は出生約8,000人から10,000人にひとりと稀な病気ですが、重症度は人によって異なります。軽度の場合は、ほとんど症状がなく日常生活を送れることもありますが、重症の場合は心不全や不整脈(異常な心拍リズム)などの重大な健康問題を引き起こすことがあります。多くは乳幼児期や小児期に診断されますが、軽度の場合は成人になってから発見されることもあります。
なお、エプスタイン病は厚生労働省が定める指定難病(217番)であり、医療費の補助制度が整備されています。
エプスタイン病の症状、原因、診断、治療について理解を深めることで、早期の対処が可能となり、生活の質を向上させることができます。
エプスタイン病の原因
エプスタイン病の正確な原因はまだ完全には解明されていません。しかし、胎児の発育過程における遺伝的および環境的要因が関与していると考えられています。
1. 遺伝的要因
ほとんどのケースは偶発的に発生しますが、遺伝子変異や染色体異常が関与している可能性も指摘されています。家族に先天性心疾患の既往がある場合は、リスクがやや高まると考えられます。
2. 環境的要因
妊娠中の環境が影響を与える可能性があります。たとえば、妊婦が感染症にかかったり、アルコールや薬物を摂取した場合、胎児の発育に影響を及ぼす可能性があります。
特に躁うつ病の治療薬である炭酸リチウム製剤を妊娠早期に服用していることが発症リスクになるとする報告があります。
3. 弁の発育異常
胎児が発育する最初の8週間で三尖弁が正常に形成されないことが、直接の原因と考えられます。この疾患では、三尖弁の弁尖(べんせん)と呼ばれる部分が、本来の位置よりも右心室側にずれてしまいます。この異常により、弁が完全に閉じず、血液の逆流が発生します。
これらの要因が複合的に関与しているものの、多くの症例では明確な原因が特定されていません。
エプスタイン病の前兆や初期症状について
エプスタイン病は先天性心疾患であり、前兆とはいえませんが重症例は出生前に超音波検査で診断されることがあります。
初期症状は、異常の程度や発症時期によって大きく異なります。症状がほとんど現れない場合もあれば、乳児期や幼児期から顕著に現れる場合もあります。
出生前から産科で発見される場合は重症が多く、乳幼児期に小児科や検診などで見つかった場合は小児科を受診します。成人では症状により内科を受診して循環器内科で診断が確定することが多いでしょう。
1. 体重増加不良
新生児や乳幼児で哺乳不良や体重増加不良がみられ、これが乳幼児期に発見される場合もっとも多い初期症状となります。
2.チアノーゼ(皮膚の青紫色変化)
酸素不足によって皮膚や唇が青紫色になることがあります。特に新生児や乳児に多く見られる症状です。
3. 息切れや呼吸困難
身体を動かしたときや、重症の場合には安静時にも息苦しさを感じることがあります。
4. 疲労感
少し動いただけでも疲れやすく、活動量が低下することがあります。
5. 不整脈(ふせいみゃく)
心拍が不規則になり、動悸や胸のドキドキ感を感じることがあります。
6. 浮腫(ふしゅ)
心不全が進行すると、体内に水分がたまりやすくなり、足やお腹が腫れることがあります。
7. 心雑音
心音を聴取すると心雑音が聞こえます。学校検診などで発見の契機となります。
エプスタイン病の検査・診断
上記のように出生前や乳幼児期に指摘を受けた場合も含めて、診断には以下のようなステップが必要です。
1. 問診
患者さんの症状や家族歴、既往歴について詳しく聞き取ります。
2. 身体検査
皮膚の色、心音、浮腫などの異常を確認します。
3. 画像検査
心エコー検査(超音波検査)
心臓の構造や弁の異常を視覚的に評価します。
心電図(ECG)
心臓の電気的活動を記録し、不整脈の有無を調べます。
胸部X線
心臓の拡大や肺の状態を確認します。
心臓MRI
詳細な画像診断を行い、構造の異常を精密に調べます。
エプスタイン病の治療
エプスタイン病は先天性の弁異常なので、基本的な治療法は心臓外科治療ですが、重症度が患者さんごとに大きく異なります。
多くの患者さんは軽症で、無治療ないし定期的な経過観察を続けることで十分です。必要に応じて不整脈や心不全症状に対して内科的治療を行います。
軽症の場合
症状が軽い場合は、定期的な経過観察を行い、必要に応じて薬物療法を行います。
薬物療法
利尿薬
体内の余分な水分を排出し、浮腫や心不全症状を和らげます。
抗不整脈薬
心房細動や粗動といった上室性頻拍に対しては薬物療法を行います。
抗凝固治療
不整脈である心房細動がある場合、血栓形成を予防するためワルファリンやDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)などを投与します。
プロスタグランジン製剤
新生児にチアノーゼがある場合に血流を保つために使われます。
カテーテル治療
WPW症候群を合併して副伝導路が存在する場合は、カテーテルアブレーションが有効です。
外科的治療
重症例では手術療法が必要です。
新生児期に発症する場合、三尖弁を閉鎖するスターンス手術、グレン手術を経て、最終的に単心室循環であるフォンタン手術と複数の手術を時期をおいて行います。
学童および成人期以降に手術が必要となる患者さんでは弁形成術が行われます。具体的には、カルポンティア法やコーン法といった術式が知られています。
弁形成術が困難な場合は、弁置換術(生体弁あるいは人工弁置換)を行います。また、心房の壁に心房中隔欠損や卵円孔があるときは閉鎖術も同時に行います。
エプスタイン病になりやすい人・予防の方法
以下に挙げる人たちは、エプスタイン病の発症リスクが高いとされます。
家族に先天性心疾患の既往がある人
妊娠中に感染や薬物暴露のリスクがあった人
エプスタイン病を完全に予防する方法は知られていませんが、下記はリスク低下に役立つと考えられます。
妊娠中の健康管理と定期健診
妊娠中は妊婦健診や栄養指導を積極的に受診し、指摘事項を遵守しましょう。
禁煙、禁酒、薬物の回避
妊娠中に限らず、また妊婦だけでなく家族が禁煙や不要な薬物を回避することは重要です。
遺伝カウンセリングの活用
妊娠前や妊娠中に不安があれば、遺伝カウンセリングの受診も検討しましょう。
関連する病気
- 伝染性単核症
- 慢性疲労症候群
- リンパ腫