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卵円孔開存症
井筒 琢磨

監修医師
井筒 琢磨(医師)

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江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会

卵円孔開存症の概要

卵円孔開存症(らんえんこうかいぞんしょう)は、心臓の中の卵円孔(らんえんこう)という小さな穴の一部が開いたままで残っている状態のことであり、先天性心疾患の一つに分類されます。

卵円孔とは心臓を左右に隔てている壁の組織が重なり合っている場所にある、小さな穴です。

胎児は母体の中で肺呼吸をしていないため、卵円孔を介して右心房から左心房へ血液を送ることで全身に酸素や栄養を供給しています。通常は生後2〜3日で卵円孔は自然に閉じますが、穴の一部が完全に閉じ切らないことがあります。

卵円孔開存は成人の約25%と決して少なくない頻度でみられ、とくに症状が出現することなく経過するのが一般的です。しかしまれに下肢などで形成された血栓が卵円孔を介して全身の血流に乗り、脳梗塞を招くことがあります。

出典:一般社団法人 日本血栓止血学会「卵円孔開存」

卵円孔開存症は、原因不明の脳梗塞といわれている潜因性脳梗塞との関連が深いとされており、とくに若年者における脳梗塞と関係が示唆されています。

卵円孔開存症

卵円孔開存症の原因

どうして卵円孔が閉じ切らず、穴の一部が開いたままになるのか、詳しいメカニズムは現在のところ分かっていません。

そもそも、心臓は4つの部屋に分けられており、左右上下ともに壁で隔てられています。

卵円孔は右上の部屋である右心房(うしんぼう)と左心房(さしんぼう)を隔てている壁に存在する小さな穴で、胎児期は卵円孔を通じて血液を循環させています。

出生後に左右の心房の圧が変化することで卵円孔は自然に閉じますが、一定の割合で卵円孔が開いたままになることがあります。

卵円孔開存症の前兆や初期症状について

卵円孔開存症は症状が現れないことが多く、無症状のまま成長して、他の病気の検査や定期健康診断などで偶然発見されることがしばしばあります。

卵円孔開存症において、注意を要する合併症は脳梗塞です。卵円孔開存症が関連している脳梗塞を奇異性脳塞栓症(きいせいのうそくせんしょう)といいます。

奇異性脳塞栓症は、開いたままの卵円孔に下肢静脈などで形成された血栓が通過し、血流に乗って脳血管を詰まらせるという病態です。

脳梗塞全体のうち約25%を占める原因不明の脳梗塞は、卵円孔開存症との関連があるとされており、とくに若年層における原因不明の脳梗塞の大部分は、卵円孔開存症との関わりが深いと考えられています。

出典:一般社団法人 日本血栓止血学会「卵円孔開存」

卵円孔開存症の合併症として脳梗塞を引き起こした場合は、片側の手足がしびれる、言葉を発しにくい、身体がふらつくなど、一般的な脳梗塞と同様の症状が現れることがあります。このような症状が現れた際は、一刻も早く医療機関を受診してください。

卵円孔開存症の検査・診断

卵円孔開存症の診断は、数種類のエコー検査を組み合わせて実施します。経胸壁心エコー検査や経食道心エコー検査、経頭蓋ドプラエコー検査などです。

経胸壁心エコー検査とは、胸部から超音波を当てて心臓の状態を観察する検査で、簡便であるため外来などでおこないやすい検査です。

より精度の高い検査方法として、マイクロバブル(気泡)を用いて検査をおこなう方法があります。

これは経胸壁あるいは経食道心エコー検査をおこなう際、静脈からマイクロバブルを注入し、そのマイクロバブルが右心房から左心房へ移動するかどうかを確認する検査です。

マイクロバブルが卵円孔を通過する様子を確認することで、正確性の高い診断が可能となります。

その他には経頭蓋ドプラエコー検査があります。これは側頭部に超音波を当てて脳血管の血流を観察する検査です。

非侵襲的な検査であるため、臨床現場でも実施することが多いです。

このように卵円孔開存症では、心臓の状態を調べるだけでなく脳梗塞も視野に入れた検査が行われます。

卵円孔開存症の治療

卵円孔開存症の治療は、主にカテーテルという細い管を用いて卵円孔を閉じる手術が行われます。

足の付け根からカテーテルを挿入し、心臓まで進めて卵円孔を特殊な器具で塞ぎます。

この治療は胸にメスを入れる開胸手術と比べて身体への負担が少なく、入院期間も短い点が特徴です。

ただしこの手術には適応条件が設けられています。

卵円孔開存症が原因の脳梗塞であると診断された人、60歳未満の人、潜因性脳梗塞の診断基準に合致した人、妊娠していない人あるいは1年以内の妊娠を希望していない人などです。

出典:国立研究開発法人 国立循環器病研究センター「脳梗塞再発予防のための卵円孔開存症に対するカテーテル治療」

抗凝固薬や抗血栓薬などを服用する薬物療法に加えて、カテーテルによる閉鎖をおこなうことで、脳梗塞が発症する可能性が低くなるという報告があることから、有効な治療方法であるといえます。

卵円孔開存症になりやすい人・予防の方法

卵円孔開存症は先天的なものであるため、卵円孔開存症になりやすい人の特徴や予防方法を明示するのは難しいといえます。

卵円孔開存症は脳梗塞を合併するリスクがあるため、 卵円孔開存症と診断されている人は、脳梗塞のリスクを低くすることが重要です。

脳梗塞のリスクが高くなる人の特徴としては、不整脈がある場合や高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を患っている人などです。

これらを踏まえて、脳梗塞の予防のためにまずは食事や運動などの生活習慣を改善しましょう。喫煙している場合は、たばこをやめることも必要です。

卵円孔開存症は無症状で経過するがゆえに、他の病気に関する検査や定期健康診断で発覚するケースが多いです。

定められた健康診断は欠かさず受けるようにし、また、身体の不調を感じた際は早めに医療機関を受診することが大切です。


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