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心臓腫瘍
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

心臓腫瘍の概要

心臓腫瘍とは、心臓やその周囲の組織に発生する腫瘍の総称です。
心臓腫瘍は良性の腫瘍と悪性の腫瘍に区別されます。心臓腫瘍は臓器ごとの腫瘍発生頻度を調べたときに全体の0.1%と稀な疾患です。そのうち約70%は良性腫瘍で、約30%は悪性腫瘍です。症状は腫瘍の種類や大きさによって異なりますが、良性や悪性にかかわらず心臓の機能に影響を及ぼしている場合は積極的な治療が必要です。

心臓腫瘍の種類

心臓腫瘍の大半は良性腫瘍です。良性腫瘍は悪性腫瘍とは異なり、急速に進行することは少なく、転移のリスクもないためそれ自体が命に危険を及ぼすことはありません。しかし、腫瘍の大きさや位置により、周囲の組織に圧迫を及ぼすことがあり、症状が出る場合は治療が必要です。
良性腫瘍の中では粘液腫が最も多く、良性腫瘍全体の約50%を占めます。粘液腫以外の良性腫瘍には、脂肪腫、乳頭状弾性線維腫、横紋筋腫、線維腫、血管腫、奇形腫などがあります。粘液腫の4分の3は左心房に発生し、40〜60歳の女性に発生しやすいです。
合併症には粘液腫の断片や粘液腫の表面に形成された血栓が剥離し、血流に乗り他の臓器に移動し、そこの動脈を詰まらせる可能性があります。これを塞栓といいます。塞栓によって生じる合併症は、どの動脈が詰まるかによって異なります。左心房から生じる塞栓は脳の動脈を詰まらせ、虚血性脳卒中(脳梗塞)を引き起こす可能性があります。右心房の粘液腫から生じる塞栓は肺の動脈を詰まらせ、肺塞栓を引き起こす可能性があります。塞栓は粘液腫の最も一般的な合併症です。

悪性腫瘍には、心臓から発生した原発性腫瘍と、ほかの臓器から発生した腫瘍が心臓に転移した転移性腫瘍に分類されます。どちらも心臓からほかの臓器や組織に転移する可能性があり命に関わることも少なくありません。
原発性の悪性腫瘍の中では肉腫が最も多く、原発性の悪性腫瘍全体の約95%を占めます。肉腫以外に悪性リンパ腫や心膜に発生する悪性中皮腫などがあります。いずれも心タンポナーデや心膜炎といった重篤な症状を引き起こし心不全を合併します。肉腫は左心室に発生しやすくほかの臓器にできる肉腫と比較して若年層に多く見られ、治療に対する成績も悪いことがわかっています。
転移性の悪性腫瘍は、ほかの臓器や組織(肺、乳房、腎臓、血液、皮膚)に発生した腫瘍が心臓に転移したもので、必ず悪性です。転移性の悪性腫瘍は原発性の悪性腫瘍の30~40倍多いとされています。心臓への転移は、肺がんと乳がんでは患者の約10%にみられ、悪性黒色腫の患者さんの場合転移の可能性はさらに上がります。転移性の悪性腫瘍は、原発の悪性腫瘍の終末像であり多臓器転移を生じているため予後不良です。

心臓腫瘍の原因

心臓腫瘍の原因はほとんどの場合不明です。遺伝的要因が一部の腫瘍で示唆されていますが、生活習慣病との関連は明確ではありません。

心臓腫瘍の前兆や初期症状について

心臓腫瘍では良性腫瘍、悪性腫瘍にかかわらず無症状の場合もありますが、軽い症状から生命を脅かすほどの心機能低下を引き起こす場合があります。
初期症状としてめまい息切れ失神動悸などが現れます。腫瘍が心臓の内部を占めると血流が悪くなり症状が現れます。特に立っているときに症状が強く出る場合は、心臓腫瘍の可能性があります。通常、左心房から左心室へと血液は流れますがその経路を心臓腫瘍が塞いでしまうと血液が流れなくなり突然死の可能性もあります。前述の肺塞栓や脳卒中は初期症状なく訪れるものですので症状がないからといって安心できるものではありません。

心臓腫瘍は稀な病気であり、ほかの疾患と類似した症状を示すため、診断が難しいことが多いです。心雑音や不整脈、説明のつかない心不全の症状、さらに原因不明の発熱が見られる場合、心臓腫瘍が疑われます。
症状が現れた際は心臓外科または循環器内科を受診しましょう。

心臓腫瘍の検査・診断

心臓腫瘍の有無については、心臓超音波検査やCT検査、MRI検査などの画像検査が用いられます。
心臓超音波検査は心臓の動きや機能をリアルタイムで観察するのに優れており、CT検査やMRI検査は心臓腫瘍の詳細な特徴を得るのに適しています。

心臓腫瘍の検査には、まず心臓超音波検査が一般的に行われます。この検査は、超音波を放出する機械を用いて心臓の構造を画像化し、腫瘍の有無を確認する検査です。機械を胸に当てる経胸壁心臓超音波検査と、機械を食道に入れ心臓を後ろから観察する経食道心臓超音波検査に分けられます。
特に経胸壁心臓超音波検査は心室の腫瘍の描出に優れており、経食道心臓超音波検査は心房の腫瘍に対して効果的です。
しかし心臓超音波検査のみでは良性腫瘍、悪性腫瘍の鑑別は困難です。その鑑別にはCT検査やMRI検査が重要な役割を果たします。

CT検査では腫瘍の詳細な形態情報が得られますが、良性腫瘍と悪性腫瘍の鑑別にはほかの検査を用いた総合的な判断が必要です。心臓MRIは腫瘍の組織特徴を特定するのに有用で今後の治療に大きくかかわってきます。心電図同期法による核医学検査や造影CTも使用されることもあります。

心臓腫瘍以外の場合、体の中の組織や細胞を採取して、顕微鏡で詳しく調べる生検を行うことが多いですが心臓腫瘍における生検は、他の部位と異なり、通常は行いません。これは、生検が腫瘍のある場所によっては危険を伴うことがあり、画像検査で良性か悪性かを判断できるためです。原発性の悪性腫瘍の場合では、生検によりがん細胞が意図せず広がるリスクもあります。

良性腫瘍の粘液腫では、非特異的な症状が多いため、心臓超音波検査の前に多くの検査が行われることが一般的です。採血から貧血や血小板減少、白血球増加、赤沈の亢進、C反応性タンパク(CRP)の上昇、γグロブリンの増加が見られることが多いです。また、心電図では左房拡大のパターンが観察されることがあります。胸部X線検査では、右房の粘液腫や奇形腫のカルシウム沈着が認められることがあります。

心臓腫瘍の治療

心臓腫瘍の治療は良性腫瘍と悪性腫瘍で大きく異なります。
さらに悪性腫瘍も原発性の悪性腫瘍と転移性の悪性腫瘍とで治療方法が変わります。

良性腫瘍は基本的には外科的手術を行い心臓腫瘍を心臓から切除します。その後は数年間にわたり心臓超音波検査を用いて再発のモニタリングを行います。場所や大きさにもよりますが3年生存率は95%と高く完全に切除できれば、通常の社会生活を送ることが可能です。
良性腫瘍の横紋筋腫は胎児や新生児に多い筋腫で治療なしで自然に消失することがほとんどのため治療の必要はありません。しかし、心臓内で多発的に横紋筋腫や線維腫が生じた場合は外科的手術は効果が薄く、1年以降の予後は不良となります。

原発性の悪性腫瘍は手術をしても根治は難しく、さらに全例が手術適応になるわけではありません。そのため腫瘍の進行を遅らせるための化学療法放射線治療を行い緩和療法を主とします。

転移性の悪性腫瘍は腫瘍の原発巣に依存するため全身の化学療法緩和療法となります。原発巣から心臓以外の臓器や組織にも転移している可能性が高く予後は不良です。
心臓の悪性腫瘍は予後不良のため、今後どのように悪性腫瘍と付き合っていくかの手段を模索していく必要があります。

心臓腫瘍になりやすい人・予防の方法

現時点では、心臓腫瘍になりやすい人は明らかになっていないため予防することは困難です。しかし、健康的な生活習慣を維持し、定期的な健康診断を受け、違和感を感じたらすぐに受診することで早期発見につながります。

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