監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
徐脈頻脈症候群の概要
徐脈頻脈症候群(じょみゃくひんみゃくしょうこうぐん)は洞不全症候群の一種で、心臓の拍動が正常から逸脱して遅くなる「徐脈」と、早くなる「頻脈」が交互に現れます。
通常、心臓はリズムを作り出す洞結節からの指令により、1分間に60回~100回程度の一定のリズムで拍動しています。
しかし、加齢や心疾患などによって洞結節(心臓の右心房にある脈の速さを支配する組織)の機能が障害されると、正常な心拍リズムを保てなくなることで、徐脈や頻脈につながってしまいます。
心拍のリズムが乱れ、脳虚血(脳に血液が送られない)を引き起こし、一過性の意識消失やめまいなどを引き起こすこともあり、重症な場合は突然死に至ります。
徐脈頻脈症候群は主に高齢者に多く見られ、診断には24時間心電図が必要です。
治療法としてペースメーカーの植え込みなどが選択されます。
徐脈頻脈症候群の原因
徐脈頻脈症候群の原因は洞結節の機能不全です。
洞結節の機能不全は加齢や心疾患が関係しています。
また、薬剤の影響や自律神経の異常が頻脈や徐脈を引き起こしているケースもあります。
加齢
加齢は洞結節の機能不全を進行させる要因の一つです。
洞結節や心房の老化現象が進行し、心臓の細胞数が減少したり、細胞の変性などが起きたりすることで、心臓を動かすための電気信号が伝わりにくくなってしまいます。
心疾患
拡張型心筋症や虚血性心疾患などの心疾患は、洞結節に影響を与えます。
また、高血圧や甲状腺疾患、膠原病なども徐脈頻脈症候群の原因になることがあります。
心疾患などの病気が洞結節やその周辺の組織に対して長期的に負担をかけ、洞結節の機能がより悪化することによって生じます。
薬剤の影響
高齢者は加齢により薬物に対する感受性が増すため、心疾患に対する薬物投与で洞徐脈や洞停止(心臓が数秒間止まってしまう状態)などが引き起こされる可能性があります。
高血圧や虚血性心疾患の治療でよく使用される「β遮断薬」などは、心拍数を低下させることにより、副作用によって徐脈を引き起こすケースがあります。
心臓の負荷を減らす「カルシウム拮抗薬」や、不整脈の治療に使われる「ジキタリス」なども徐脈頻脈症候群の原因になることがあります。
自律神経の異常
自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが変化することで、洞結節の機能不全が進行することもあります。
過度なストレスや睡眠不足などは交感神経と副交感神経のバランスを崩すことで、徐脈や頻脈の誘発につながる可能性があります。
徐脈頻脈症候群の前兆や初期症状について
徐脈頻脈症候群の初期段階では、無症状で経過することもありますが、心拍数の急激な変動により、動悸や息切れ、疲労感などの症状が現れます。
徐脈や洞停止が続くとめまいや失神を引き起こす危険性も高いです。
突然の発作性の症状として現れることが多く、患者の生活や生命に支障をきたすことも少なくありません。
脳塞栓や肺塞栓、深部静脈血栓症の発症によって徐脈頻脈症候群が判明する場合もあります。
動悸 ・息切れ
徐脈から頻脈への移行時に、患者は動悸を感じやすくなります。
特に心拍数が急激に上昇する際に発生しやすく、運動やストレス時に顕著に現れます。
心拍数の変動によって心臓のポンプ機能が不安定になり、少し体を動かしただけでも息切れが生じます。
疲労感
徐脈や頻脈の影響で全身の血流が不安定になると、日常生活において疲れやすくなります。
活動後の体の回復が遅く感じることもあります。
めまい・失神
徐脈によって心拍出量が低下すると、脳への血流が不足し、めまいや失神を引き起こすことがあります。
立ち上がったときや急な体位変換時にこれらの症状が現れやすくなります。
失神する前に感じる「眼前暗黒感」や「ふらつき」などの前兆もあります。
めまいや失神は死亡につながる事故や突然死につながる危険性も高いです。
塞栓症
徐脈や頻脈を繰り返すことで血管内の血液が停滞し、血が固まりやすくなるため、身体のあらゆる場所で塞栓症を引き起こす可能性があります。
脳梗塞によってしゃべりにくさや身体の麻痺、肺塞栓によって急激な息苦しさ、下肢の深部静脈血栓症によって下肢の浮腫や痛みなどの症状が発生します。
徐脈頻脈症候群の検査・診断
徐脈頻脈症候群の診断は、主に心電図(ECG)を使用します。
ただし、症状がない時に通常の心電図検査では異常が見つからない可能性もあります。
心電図検査で異常が見つからない場合は、ホルター心電図、植込み型ループレコーダ(ILR)、心エコー、電気生理学的検査など追加の検査が必要です。
心電図(ECG)検査
心電図は、徐脈頻脈症候群の診断において重要な検査です。
12誘導心電図を用いて、心拍数の変動や不整脈の種類を特定します。
他の洞不全症候群では洞性徐脈(心拍数が50拍/分以下で持続する状態)、洞停止(正常な心拍が突然停止する状態)が見られます。
徐脈頻脈症候群では、頻脈の後に徐脈が見られるのが特徴的です。
ホルター心電図(24時間心電図)
ホルター心電図では、24時間以上にわたり心電図を記録することで、日常生活中の心拍数の変動を評価し、一時的な徐脈や頻脈の波形を記録することが可能です。
徐脈頻脈症候群で発生する発作的な症状を記録できます。
植込み型ループレコーダ(ILR)
植込み型ループレコーダ(ILR)は心臓のリズムを長期間にわたって監視するために使用する6×2cm程度の小型デバイスで、胸部の皮下に埋め込まれます。
徐脈頻脈症候群に発症しやすい2~3秒の洞停止は就寝時に認められる可能性が高く、日中の心電図では記録されにくいため、長時間の心電図記録が必要です。
特に繰り返す失神症状がある患者では失神の原因の特定にILRが有用になります。
エコー心臓検査(心エコー)
心エコー検査を通じて、心臓の構造を評価し、心筋の状態や弁膜症など他の疾患との関連性を調べます。
心臓のポンプ機能や血液の流れを確認し、心不全のリスクを把握するのに役立ちます。
電気生理学的検査(EPS)
電気生理学的検査(EPS)はカテーテルを用いて心臓内の電気信号を直接記録し、洞結節の機能や伝導障害を詳細に評価する方法です。
心電図で明確な診断が得られない場合や、症状と心電図との因果関係が不明な場合に使用されます。
徐脈頻脈症候群の治療
徐脈頻脈症候群の治療では人工ペースメーカーを入れて心臓のリズムを整えたり、薬物療法によって血栓を予防したりする治療がおこなわれます。
人工ペースメーカー
徐脈頻脈症候群は、失神やめまいなどの症状を防ぐために、人工ペースメーカーの植え込みが選択されます。
ペースメーカーは心臓のリズムを調整し、徐脈性の発作時に心停止を防ぐことができます。
手術は約60〜90分で完了し、体への負担は少ないです。
薬物療法
徐脈頻脈症候群では、心房細動などの頻脈性不整脈を伴うことが多く、血栓形成のリスクが高まります。
血栓形成を防ぐために、ワーファリンなどの抗凝固薬が使用されることがあり、効果をモニタリングするために定期的な血液検査もおこないます。
ワーファリンを使用する場合は、日常生活で納豆などの食事制限も必要です。
近年では「DOACs」と呼ばれる直接経口抗凝固薬が普及し、ワーファリンに比べてモニタリングが不要で食事制限も少ないため、患者の負担が軽減されます。
徐脈頻脈症候群になりやすい人・予防の方法
徐脈頻脈症候群は高齢者に起こりやすい病気です。
心疾患を有する人や自律神経の影響を受けやすい人も、リスクが高いとされています。
予防には生活習慣の改善が基本であり、ストレス管理や適度な運動が推奨されます。
心疾患がある方は、医師と相談のうえ不整脈につながりやすい薬剤の投与量を調整することも重要です。
参考文献