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上大静脈症候群
山形 昂

監修医師
山形 昂(医師)

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京都大学医学部医学科卒業。田附興風会医学研究所北野病院 臨床研修。倉敷中央医療機構倉敷中央病院 呼吸器内科、京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科などで経験を積む。現在はiPS細胞研究所(CiRA)で難治性呼吸器疾患の病態解明と再生医療に取り組んでいる。専門は呼吸器疾患。研究分野は難治性呼吸器疾患、iPS細胞、ゲノム編集、再生医療。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、日本内科学会認定内科医。

上大静脈症候群の概要

上大静脈症候群は、何らかの要因によって上大静脈が閉塞したり圧迫されたりすることで心臓への血流が妨げられる状態です。

上大静脈は心臓につながる太い静脈であり、頭や首、上肢を流れる血液が心臓に戻るときに通る静脈です。

上大静脈症候群は大きくなった肺がんや悪性リンパ腫などの悪性腫瘍が上大静脈を圧迫することで引き起こされるケースが多いです。またそれ以外にも、静脈にできた血栓や血管内に留置したカテーテルやペースメーカーなどが原因で起こるケースもあります。

上大静脈症候群の原因疾患は約6割が悪性腫瘍によるものであり、その中で最も多いのが肺がんによるものだと報告されています。

上大静脈は身体の右側にある静脈であり、悪性腫瘍による上大静脈症候群では身体の右側にできた腫瘍が原因となる場合が多いです。

上大静脈症候群の主な症状としては、顔や頸部、上肢、上胸部などのむくみや赤みをともなった腫れなどが挙げられます。
悪化すると呼吸困難や頭痛、意識障害などの症状が現れることもあるため、できるだけ早期の診断・治療が求められます。

上大静脈症候群の治療は、上大静脈症候群を引き起こした原因により異なります。

悪性腫瘍の場合は化学療法や放射線治療、ステント留置術などがあり、健康状態やがんの進行度により適切な治療法を選択します。
悪性腫瘍以外の場合は、服薬による内科治療やカテーテルの抜去などが検討されます。

悪性腫瘍が原因で上大静脈症候群を発症した場合は病気の回復が難しいと言われています。
とくに肺がんの場合では予後が悪いことが多いと報告されています。

上大静脈症候群

上大静脈症候群の原因

上大静脈症候群の主な原因は、悪性腫瘍、上大静脈に近い位置に転移したリンパ節、静脈血栓症などの疾患のほか、カテーテルやペースメーカーなどの体内挿入物に付着した血栓などです。

がんが上大静脈に接する部分まで広がったり、がんがリンパ節に転移して腫れたりすると、上大静脈が圧迫、閉塞され上大静脈症候群をきたします。

上大静脈症候群の原因の約6割が悪性腫瘍であり、非小細胞性肺がんや小細胞肺がん、悪性リンパ腫、転移性乳がんにより引き起こされることが多いです。

またカテーテル、ペースメーカーなどの体内挿入物が体内にあると血栓ができやすくなり、上大静脈症候群を発症するリスクが高まる可能性があります。

上大静脈症候群の前兆や初期症状について

上大静脈症候群を引き起こすと、顔や頸部、上肢、上胸部などにむくみや赤みをともなう腫れが現われたり、血流障害により首や胸部の静脈が浮き出たりすることが特徴的です。

咽頭や喉頭などにむくみが生じると声のかすれや呼吸困難などの症状が現れ、血流量が低下すると心拍出量の低下や頻脈をきたす場合があります。
上大静脈症候群により頭蓋内の圧力が上昇したときには頭痛やめまい、耳鳴り、意識障害が現れることもあります。

上大静脈症候群でみられる症状の重さは、上大静脈の閉塞や圧迫をきたすまでの時間の長さによって大きく異なります。

閉塞や圧迫までの変化が遅い場合には、症状が現われにくいこともありますが、急速に変化した場合には症状が強く現れることが多いです。

上大静脈症候群の検査・診断

上大静脈症候群の診断は、問診や視診、画像検査により行われます。

問診では症状の程度や発症してからの変化、体内に挿入している血管カテーテルの有無などを確認します。
視診ではむくみの症状や首や胸部の静脈の観察、皮膚の色が赤くなったり暗紫色(チアノーゼ)になったりしていないかを確認します。

画像検査では造影CT検査やレントゲン検査が行われます。
レントゲン検査では肺の状態を確認します。
造影CT検査では造影剤の使用し、圧迫や閉塞、血栓形成をきたしている上大静脈の範囲や程度、側副血行路の有無、原因となっているがんや縦隔リンパ節を確認します。

上大静脈症候群の治療

上大静脈症候群の治療は、がんによる場合とがん以外による場合で異なります。

悪性腫瘍による上大静脈症候群の治療

悪性腫瘍による上大静脈症候群の治療法は、がん薬物療法や放射線治療、上大静脈ステント術などがあります。

上大静脈症候群の治療では、原因となる悪性腫瘍の治療を優先に考え、がん薬物療法や放射線治療を検討します。

上大静脈ステント術は、ステントという金属製の網目状の筒を上大静脈に挿入し、圧迫や狭窄をきたした上大静脈を広げる手術です。
上大静脈ステント術は、放射線治療と比較して早急な症状の改善が期待できますが、原因疾患に対する根本的な治療ではないため、他の治療と併用しておこなわれます。
治療の適応は、急激な変化により上大静脈症候群をきたした場合や化学療法による治療効果がみられない場合などとされています。
上大静脈ステント術は、高度な技術を必要とするため、受けることができる施設が限られている治療法です。

非腫瘍性の上大静脈症候群の治療

非腫瘍性の上大静脈症候群の原因には静脈血栓症、血管内に留置したカテーテル、ペースメーカーなどがあります。

体内に挿入したカテーテルやペースメーカーにより発症した上大静脈症候群も静脈血栓症に起因することが多く、いずれも抗凝固療法による治療が行われます。

カテーテルやペースメーカーを体内に挿入している場合は、カテーテルの抜去を検討することもあります。

上大静脈症候群になりやすい人・予防の方法

上大静脈症候群の原因の約6割が悪性腫瘍であり、非小細胞性肺がんや小細胞肺がん、悪性リンパ腫、転移性乳がんなどにより引き起こされます。そのためこれらの原因疾患の患者では、上大静脈症候群を発症するリスクが高いと言えるでしょう。

腫瘍性の上大静脈症候群では大きくなったがんが原因となり発症するため、予防のためにはがんの早期発見・治療が大切です。

日頃から禁煙や節酒、バランスの良い食事、適度な運動、適正体重の維持など、健康管理を心がけ、定期的に健康診断、がん検診を受けることが重要です。


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