FOLLOW US

目次 -INDEX-

心臓
豊島 大貴

監修医師
豊島 大貴(医師)

プロフィールをもっと見る
昭和大学卒業。関東圏の総合病院で勤務。専門は循環器内科・一般内科。心筋梗塞、狭心症、心不全、弁膜症、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの患者さんの診察をしている。
【資格】
日本心エコー図学会 SHD心エコー図認証医
【所属学会】
日本内科学会、日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本超音波医学会、日本心血管インターベンション治療学会など

慢性心不全の概要

心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしています。
心不全とは心臓がポンプの役割を果たせず、心臓が十分に血液を送り出せなくなり、体がうまく機能しなくなる病気です。

慢性心不全とは長期的な心臓の病気によってゆっくりと心臓の機能が低下し、体内に血液が溜まってしまうことで生活に障害をきたした状態を指します。

慢性心不全は発症当初は症状がないことが多く、増悪と改善を繰り返しながら悪化していくことが多い疾患です。
慢性心不全
引用:厚生労働省 急性・慢性心不全ガイドライン(2017年改訂版)

令和2年の日本の死因別死亡率における心疾患の割合は、15.0%と悪性新生物(がん)の次に多く、心疾患のうち41%が心不全です。
(出典:厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」)

中等度心不全患者の1年死亡率は15〜30%、重症患者の死亡率は50〜60%と非常に高いため、早期発見が望ましいでしょう。
(出典:日本内科学会雑誌第106巻第3号「心不全の最新知見」)

慢性心不全

慢性心不全の原因

慢性心不全を引き起こす原因は、心臓の基礎疾患です。
主な原因疾患として、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、心臓弁膜症、高血圧、心筋症などが挙げられます。

虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)

虚血性心疾患とは、心臓の周りを走っている血管が詰まることで、心臓に障害が起こる疾患の総称です。
狭心症とは一過性に血管が詰まる状態、心筋梗塞は詰まった先の血管が壊死してしまう状態と区別されています。
急激な胸の痛みで自覚することが多く、喫煙や肥満がリスク因子として挙げられます。

心臓弁膜症

心臓は本来、心臓の中で血液が一方通行で流れるように、弁が活躍しています。
心臓弁膜症とは、心臓の弁の動きが開きにくかったり閉じにくかったりすることで、心臓内で血液が逆流してしまう疾患です。
全身の血液が停滞することで疲れやすさや息切れを伴うことがあります。
弁の動きが悪くなる原因は、加齢による変性・硬化や感染症などが上げられます。

高血圧

高血圧は正常時の収縮期血圧(上の血圧)が130mmHg以上、拡張期血圧(下の血圧)が80mmHg以上の状態を指します。
(出典:日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会「高血圧治療ガイドライン2019」)
高血圧の原因は、血管が固くなる動脈硬化が原因の1つです。
血圧が高くなりすぎると頭痛やめまい等の症状がでることがあります。
動脈硬化を引き起こす食塩の過剰摂取や肥満があると高血圧になりやすいです。

心筋症

心筋症とは、心臓の筋肉が肥大・拡張し、心臓の働きが落ちてしまう状態です。
心臓の負担が増える狭心症や高血圧、全身の感染症をきっかけに発症します。
心筋症が進行すると致死性の不整脈や失神などの症状を引き起こすことがあるので注意が必要です。
心筋梗塞によって心筋に血液が行き届かない状態が続いたり、ウイルス性の感染症で心筋に負担がかかってしまったりして発症すると言われています。

慢性心不全の前兆や初期症状について

急性心不全は急激な胸痛によって発症しますが、慢性心不全はゆっくりと進行するため症状に気が付かない可能性があります。
例えば、少し動いただけで息切れがする、疲れやすいなどの症状も慢性心不全の前兆の1つです。
他にもドキドキする、不整脈があるなども心不全の初期症状として挙げられます。

また、体内に血液が溜まってしまうことで、体がむくみやすくなります。
ふくらはぎや足の皮膚を手で押しても戻らない場合は体がむくんでいる状態です。
全身のむくみは体重増加を引き起こすため、太ったと勘違いされる方もいるかもしれません。

心不全は重症化すると肺に水が溜まるため、風邪のように咳がでたり、ピンク色の痰がでたりすることがあります。
夜寝ているときだけ呼吸困難が起きたり(夜間発作性呼吸困難)、体を起こしていない苦しかったり(起坐呼吸)する場合は、心不全が進行した状態です。

慢性心不全の検査・診断

慢性心不全の診断基準の1つがフラミンガム(Framingham)基準です。
大項目を2項目、あるいは大項目を1項目および小項目を2項目以上当てはまった場合は慢性心不全と診断されます。

必大項目 小項目
・発作性夜間呼吸困難
あるいは起座呼吸
・足の浮腫
・頸静脈怒張 ・夜間の咳
・ラ音聴取(肺雑音) ・労作時呼吸困難
・心拡大 ・肝腫大
・急性肺水腫 ・胸水
・III音奔馬調律(心雑音) ・肺活量最大量から1/3低下
・静脈圧上昇>16cmH2O ・頻脈(心拍≧120拍/分)
・循環時間≧25秒
・肝頸静脈逆流
大項目あるいは少項目
・治療に反応して5日で4.5kg以上体重が減少した場合

項目において有用な検査は以下の通りです。

問診・視診・聴診

医師の診察によって首の周りの静脈が太くなっていないか(頸動脈怒張)、肺や心臓に変な音が混じっていないかを確認します。
心不全が疑われる場合、肺ではゴロゴロ、ブツブツした音(湿性ラ音)、心臓では馬が駆け足で走るような音(III音奔馬調律)が聞こえます。
爪を5秒間圧迫し、圧迫をやめて赤みが戻るまでの時間が2~3秒以上あるかどうかも心不全の有用な判断基準です。

画像検査

胸部のレントゲン写真では心臓が拡大しているかどうか、胸水が溜まっているかどうかを調べることができます。
正常な場合、心臓の幅は胸の幅の大きさの半分以下です。
胸水が溜まっていると肺の下の方がぼやけて見えます。

MRIではより詳細に心臓や肺の状態が分かったり、レントゲンでは写りにくい肝臓の状態も観察可能です。

心電図

心電図では頻脈・徐脈や不整脈の有無を確認することができます。
心筋梗塞などの診断には有用ですが、心不全特有の所見はないといわれているため、心電図のみでの診断はできず、他の検査との併用が必要です。

心エコー

心エコーは心臓の大きさや心臓の壁の厚さ、弁の動きや心臓のポンプの動きを確認することができます。
聴診で聞いた音の原因を探ることが可能で、弁膜症の診断には必ず必要な検査となります。
心臓が広がる機能が正常に働いているかも調べることができ、心不全の原因を探る検査といっても良いでしょう。

心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査は、プラスチックの管や金属のワイヤーを手首や太ももの血管から心臓に通して心臓の血管を検査します。
X線撮影装置を用いて撮影(造影)することで、心臓の周りの血管のつまり具合が診断可能です。
血管の圧力も測定できるため、心不全の大項目である静脈圧上昇の有無が分かります。

血液検査

血液検査にてBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)を調べると心不全の有無を推定できます。
BNPとは心臓が負担を受けた時に、心臓自らを守るために心臓が出すホルモンの一種です。
病院によってはBNPの副産物であるNT-proBNPを検査する場合もあります。

慢性心不全の治療

慢性心不全の治療は、原因となる心疾患の治療が第一選択になります。

薬物療法

体にたまってしまった水分や塩分を減らすために、利尿剤を使用します。
心臓の負担を減らすために、血圧を下げる薬や脈を調整する薬が使用されることもあります。

運動療法

運動をすることで筋肉の血流を増加、肺機能を改善、炎症物質の低下が促されるため、心臓の負担を減らすことができます。

安静時の心拍数から20-30回/分以上上がらないような状況下で10分×2セット程度の散歩や自転車での有酸素運動が推奨されています。
一回20-30分程度の運動を一日1〜2回、週3〜5回で調整していきます。

ただし、医師の診断のもと、血行動態が落ち着いていることが条件です。

また、筋力の低下が著しい場合はスクワットなどの筋力トレーニングを10〜15回行える程度の強度で一日2〜4セット、週2〜3回並行して行うと良いでしょう。

(出典:循環制御 第38巻 第2号「心不全の病態と運動療法:なぜ必要か?なぜ有効か?どうおこなうか? 」)

生活習慣の見直し

心不全の治療において塩分を控える、禁煙をする、体重管理をするといった生活習慣の見直しは重要です。
ナトリウムは体に水を溜めこむ性質があるため、食塩摂取量は軽症の患者では1日7g、重症の患者では1日3g以下になるように調整します。
(出典:公益財団法人 日本心臓財団 「慢性心不全の生活管理」)

また、心臓の血管に負担をかける喫煙は必ず避けてください。
太っている場合は減量したり、サウナや熱い長風呂等をさけたりする必要もあります。

慢性心不全になりやすい人・予防の方法

慢性心不全にならないためには普段からの生活に気を付ける必要があります。
基本は、心臓の負担を増やしてしまう行動を避けることが大切です。

以下のポイントに注意して慢性心不全の予防を心がけましょう。

  • 既存の心疾患がある場合は服薬を怠らない
  • 塩分の摂りすぎに注意する
  • 喫煙、アルコールを避ける
  • 体重管理を行う、肥満にならないようにする
  • 定期的な運動をおこなう


関連する病気

この記事の監修医師