目次 -INDEX-

心室細動
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

プロフィールをもっと見る
群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

心室細動の概要

心室細動(ventricular fibrillation:VF)は、心停止の要因となる致死性不整脈の1つであり、もっとも予後不良な不整脈です。リエントリー性の電気活動により、心室内に不安定な回路が複数個発生することで、無秩序な興奮状態となります。いわゆる心臓が痙攣を起こしている状態です。

心室細動が出現した場合は、調和のとれた心臓の収縮が困難となり、必要な心拍出量を維持できず、直後に失神を起こし、心肺停止に陥ります。つまり、心室細動が起こっている状態は、心停止と同義です。心房細動が出現した場合は、ただちに電気的除細動を含む心配蘇生を行わなければ、救命は困難です。

心室細動の原因

心室細動の原因はさまざまです。成人における一般的な原因は、心原性と非心原性の2種類に大別されます。

まず、心原性に分類されるもののなかで、器質的な心疾患があるものと、器質的な心疾患がないものに分かれます。

器質的心疾患があるもの
虚血性心疾患(急性冠症候群、冠攣縮性狭心症、陳旧性心筋梗塞)、弁膜症などの構造的心疾患、肥大型心筋症、拡張型心筋症、心サルコイドーシスやアミロイドーシスなどの2次性心筋症、不整脈原性心筋症、心筋炎、不整脈原性僧帽弁逸脱症候群、先天性心疾患術後など
器質的な心疾患がないもの
QT延長症候群、QT短縮症候群、Brugada症候群、早期再分極症候群、カテコラミン誘発多形成心室頻拍、特発性心室細動、短連結性特発性心室細動、WPW症候群を伴う心房細動、1:1房室電動を呈する心房粗動、徐脈性不整脈(房室ブロック、進行性心臓伝達障害)など

そして、非心原性に分類されるものは、内因性と外因性に分かれます。

内因性
急性肺血栓塞栓症、急性大動脈解離、急性大動脈瘤破裂、気管支喘息、くも膜下出血、てんかん、乳幼児突然死症候群など
外因性
外傷(鋭的外傷、鈍的外傷)、心臓震盪、電撃症、熱傷、偶発性低体温、溺水、窒息、中毒(カフェイン、トリカブトやスイセンなどのアルカロイド)など

心室細動の前兆や初期症状について

心室細動を発症すると多くの場合は、心肺停止や突然死といった状態で発見されます。心室細動が持続せずに2〜5秒起こった場合は、めまいやふらつき、眼前暗黒感などの前失神症状が生じます。心室細動が6秒以上起こった場合は、体位の保持が困難となり失神を起こすと言われています。
動悸などを感じたらかかりつけ医や循環器内科を受診し、失神など危険な症状が出ている場合は救急外来で緊急医療を受ける必要があります。

心室細動の検査・診断

心室細動の検査・診断は、心電図によって行われます。心電図上、基本波形の識別は困難であり、基線が細かく不規則に揺れているだけの波形を示します。

心室細動の治療

心室細動の治療は応急処置、病院到着後どちらも重要です。特に応急処置で生存率が大きく変動します。

発症時の対応

心室細動の治療は、多くの場合において、電気的除細動を含む心配蘇生を速やかに行うことです。
一般的に、心配蘇生が行われない場合には、救命率は1分ごとに10%ずつ低下すると言われています。つまり心肺蘇生が10分間行われなかった場合の救命率は、限りなく0(ゼロ)%に近くなります。心室細動は発生後の短時間であれば電気的除細動を行うことで救命できる可能性が高いです。しかし、時間の経過とともに除細動の閾値は上昇し、蘇生できる可能性は低下し続けます。

総務省消防庁のデータによると、日本では2004年に一般市民による自動対外式除細動器(automated external defibrillator:AED)の使用を含む心肺蘇生が認められました。2017年の心原性心肺停止の時点で目撃された傷病者で、心肺蘇生が行われなかった群と、心肺蘇生のみ行われた郡で1ヶ月後の生存率を比較すると約1.8倍の差があり、さらにAEDも使用された群においては約5.7倍の差があったとのことです。今では市街地に多くのAEDが設置されています。しかし、AEDの使用率自体は5%程度です。AEDの使用率自体は年々上昇していますが、「電気的除細動を含む心配蘇生を速やかに行うこと」の観点から考えると、AEDの存在と使用方法が広く認知されることが課題と言えます。

病院到着後の対応

病院到着後も心室細動が持続している場合は、ACLS(advanced cardiac life sapport)のアルゴリズムに沿って、心肺蘇生を行います。心室細動が除細動に抵抗性の場合や、一時的に消失してもすぐに再発する場合などには、抗不整脈薬を使用します。抗不整脈薬としては、アミオダロン、リドカイン、ニフェカラントがあります。

また、原因疾患の治療も重要になります。例えば、急性心筋梗塞の場合には、経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)を行うなど心室細動の原因を解決することが重要です。

除細動などを行っても心室細動が治らない場合は、経皮的心肺蘇生補助装置(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)の使用が考慮されます。PCPSを含めた心肺蘇生の適応については、「心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)」に記載されていますが、PCPS適応の判断は各施設によって異なります。

PCPSを含めた一般的な心肺蘇生の適応は、下記の通りです。

  • 開始基準:年齢20〜75歳、初回心電図がVF/無脈性VT、標準的ACLSに反応しない
  • 除外基準:ER到着までの時間が45分以上、ER到着後15分間の標準的ACLSに反応、心停止前のADLが不良、家族の同意が得られない

再発を繰り返す場合

一般的治療として、心室細動を繰り返す場合は、薬剤治療に加えて鎮静下の人工呼吸器管理を行うことがあります。それでもコントロールがつかない場合は、正常神経節ブロックや胸部交感神経節切除術、カテーテルアブレーションが考慮されます。

心室細動に対するカテーテルアブレーションは効果が限定的です。しかし、心室細動が特定の心室期外収縮(premature ventricular contraction:PVC)から生じる場合は、PVCに対してカテーテルアブレーションが行われます。特に心筋梗塞後や冠動脈の再灌流後に生じる薬剤抵抗性の心室細動においては、心室細動の引き金となるPVCは心筋梗塞の梗塞領域辺縁のプルキンエ繊維から発生していることが多いです。そのためカテーテルアブレーションによって、治療できる可能性が高いと言えるでしょう。

慢性期の治療

基礎疾患によって予防に用いる薬剤は異なります。
器質的心疾患を有し、新機能が低下している場合はアミオダロンをはじめとしたVaughan Williams 分類Ⅲ群の抗不整脈薬が第1選択となります。器質的心疾患を有さないBrugada症候群やQT延長症候群などの特殊な病態については、それぞれの疾患に特異的な治療法が選択されます。
VT/VFの発生が恒常的に起こる場合は、植え込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)が適応になります。

心室細動になりやすい人・予防の方法

心室細動になりやすい人は、突然死の家族歴がある人や、「心室細動の原因」で紹介した疾患などに該当する人です。

予防の方法で重要なのは、生活習慣の見直し(バランスの取れた食事、適度な運動・睡眠、禁煙など)を行うことです。また、健康診断などで心疾患や不整脈、そのほかの疾患などを指摘された場合は、医師の指示のもとで、それぞれに適した治療や投薬を受けることも予防に効果的です。特に器質的心疾患がある場合には早期発見、早期の介入が非常に重要です。


関連する病気

参考文献

  • 一般社団法人 日本救急医学会 救急診療指針 改訂第5版
  • AHAガイドライン
  • 総務省消防庁 平成30年版 救急救助の現状 2019
  • 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン 2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン

この記事の監修医師