

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
心臓病の概要
心臓の構造や機能の異常によって起きる病気をまとめて心臓病と呼びます。具体的には、虚血性心疾患、不整脈、弁膜症、心不全、心筋症、先天性心疾患などの病気を指します。
虚血性心疾患とは、冠動脈という心臓に血液を送る血管が狭くなったり詰まったりする疾患です。狭心症や心筋梗塞、冠攣縮性狭心症のことを指します。心臓の弁に異常が起き、うまく機能できていない状態を弁膜症と呼びます。不整脈は脈が速くなったり遅くなったり、乱れが生じたりすることを意味します。何らかの原因で心臓のポンプとしての働きが低下した状態を心不全と呼びます。心筋症は心臓の筋肉に異常があり、心臓の働きを維持できなくなる病気の総称です。拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症などが挙げられます。先天性心疾患は生まれつきの心臓の病気で、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、動脈管開存症などが挙げられます。
本稿ではその中でも代表的な虚血性心疾患、不整脈、弁膜症、心不全について主に記載します。
心臓病の原因
虚血性心疾患
冠動脈と呼ばれる心臓に血液を送る血管が動脈硬化によって狭くなったり、血の塊である血栓が詰まってしまったりすることで起こります。冠動脈が狭くなる狭心症と、冠動脈が詰まって心筋の細胞が壊れてしまう心筋梗塞に大きく分かれます。狭心症には血管の痙攣によって発作が起きる冠攣縮性狭心症もあります。
不整脈
心臓は通常一分間に60回から100回程度収縮し、全身に血液を送っています。この心臓の拍動のリズムは電気でコントロールされています。心臓の洞結節という場所からはじまる刺激伝導系という道を通って電気が流れますが、この電気の流れのどこかに異常が生じると不整脈が起きます。
弁膜症
心臓は4つの部屋に分かれており、血液が逆流しないように4つの弁(大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁)があります。これらの心臓の弁に異常が起き、うまく機能できていない状態が弁膜症です。弁の通過障害である狭窄症と弁の逆流である閉鎖不全症に大きく分かれます。原因は弁の変性や加齢に伴う硬化、リウマチ熱、感染性心内膜炎、膠原病、血管炎などの疾患、先天的な弁の異常、薬剤、外傷、心筋梗塞や心筋症による心臓の拡大によるものなどさまざまです。
心不全
心不全の原因疾患は、心筋組織が直接障害を受けるもの(心筋梗塞や心筋症など)、心筋組織に長期的に負荷が加わり機能障害を起こすもの(弁膜症や高血圧など)、不整脈によるものなどがあります。サルコイドーシスやアミロイドーシス、甲状腺機能亢進症などの全身に起こる疾患や、抗がん剤などの薬剤、化学物質によって心不全を起こす場合もあります。
心臓病の前兆や初期症状について
心臓病が疑われる場合は循環器内科の受診をお勧めします。以下にそれぞれの疾患の前兆や初期症状を記載します。
虚血性心疾患
胸を圧迫されるような胸痛が特徴的です。胸が締め付けられるような痛みや、放散痛と言われるみぞおちの痛み、のどや歯の痛みなどを訴える方もいます。発作の時間が長くなったり、頻度が増えてきたり、冷や汗を伴うような痛みは危険な兆候です。
不整脈
不整脈では脈の異常が起きます。脈が速くなるもの、遅くなるもの、脈が飛ぶものの3つに大きく分かれます。脈が速くなる場合は心房細動、発作性上室性頻拍、心室頻拍などの疾患が考えられます。心臓がどきどきしたり胸が苦しくなったりすることがあります。致死性不整脈である心室細動が起きると意識を消失し、迅速な救命処置が必要になります。脈が遅くなる場合は房室ブロックや洞不全症候群、徐脈頻脈症候群などが考えられ、気を失ったり眼の前が暗くなったりすることがあります。脈が飛ぶものの多くは期外収縮です。一瞬胸がどきっとするような感じや、胸が一瞬つまる感じを訴える方もいます。不整脈が長く続いて心不全に至ってしまった場合は息切れやむくみの症状が出るときがあります。
弁膜症
弁膜症の初期は無症状ですが、進行すると心不全を合併して、動悸や息切れ、呼吸困難、むくみを自覚することがあります。健康診断で心雑音を指摘され、見つかることがあります。
心不全
心不全の症状はうっ血による症状と低心拍出量による症状(低心拍出症候群)があります。うっ血とは血液の流れが悪くなり滞ることです。うっ血による症状は、動悸、息切れ、呼吸困難、夜間に横になると苦しくて眠れないという起座呼吸の症状、脚のむくみ、体重増加、食欲不振、腹部膨満感や嘔吐があります。低心拍出量とは心臓から全身に送り出される血液が少ないことを指します。低心拍出量による症状で代表的なものは冷や汗、体の冷え、意識障害、乏尿です。一般的に低心拍出症候群に至った場合には入院が必要になることが多いです。
心臓病の検査・診断
虚血性心疾患
虚血性心疾患の場合は心電図検査で特徴的な変化を認めます。安静時の心電図では異常所見がないことがあり、その場合は運動負荷心電図を行うことがあります。心臓の動きを確認するために心エコー図検査を行います。心筋シンチグラフィ検査や心臓MRI検査などの画像検査を行うこともあります。血液検査では心筋梗塞による心筋の壊死を推定することができます。これらの検査で虚血性心疾患を疑った場合は心臓カテーテル検査を行います。カテーテルと呼ばれる管を使って、冠動脈に造影剤を流して冠動脈が狭くなっていないかを見る検査です。造影剤を使った冠動脈CT検査も一般的な検査ですが、動脈の石灰化、肥満、検査時の体動や息止め不良により、冠動脈の内腔がはっきりと見えないときもあるなどの限界があります。
不整脈
主に心電図で診断します。常に不整脈が起きている場合は通常の心電図検査で異常を確認できますが、不整脈が時々しか起きていない場合もあります。通常の心電図検査で不整脈を確認できない場合、ホルター心電図検査という検査を行います。ホルター心電図検査は胸に電極を貼り付けて24時間の心電図を記録する検査です。
弁膜症
聴診器を使って心雑音を聴取するのが発見の第一歩です。弁膜症があるかどうか、どの弁に異常があるかは心エコー図検査で確認します。重症度の判断が悩ましい場合には負荷心エコー図検査を行うこともあります。
心不全
血液検査、胸部X線写真(胸部レントゲン検査)、心電図検査、心エコー図検査などを行います。血液検査では一般的な検査項目に加えてBNPやNT-proBNPという心不全のマーカーを調べます。胸部X線写真では心臓の大きさや肺への水の溜まり具合(肺水腫、胸水貯留)を見ることができます。心電図検査は心不全の原因となる不整脈や虚血性心疾患の所見がないかを調べることができます。心エコー図検査では心臓の動きや厚み、内腔の大きさ、弁膜症があるかないかなどがわかります。血行動態のさらなる把握や虚血性心疾患の精査のために心臓カテーテル検査を行うこともあります。
心臓病の治療
虚血性心疾患
狭くなったり詰まったりした冠動脈を広げるために、カテーテルを用いてバルーンやステント治療を行います。病変によっては開胸して冠動脈バイパス手術を行います。内服治療として、血液をさらさらにする抗血小板剤やコレステロールの値を下げる薬、症状緩和に抗狭心症薬を投与します。
不整脈
それぞれの不整脈によって治療法が変わります。薬物治療としては抗不整脈薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗凝固薬などを用います。非薬物治療としてカテーテル心筋焼灼術、植え込み型除細動器、ペースメーカーなどがあります。
弁膜症
軽症の場合は症状を抑えるために薬物治療を行いますが、弁膜症自体が薬物で治ることはありません。。根本的な治療は手術治療です。手術は主に重症の弁膜症に行い、開胸手術とカテーテル治療の2つがあります。開胸手術は弁そのものを人工弁に取り替える弁置換術や患者さん自身の弁および周囲の形を整える弁形成術などがあります。カテーテル治療は治療できる弁の種類や病態に制限がありますが、侵襲が小さく治療が出来る可能性があります。
心不全
薬物療法ではアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬などの薬剤を用います。呼吸困難や浮腫などのうっ血症状に対しては利尿剤を使います。最近ではHCNチャネル遮断薬、アンギオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)や、糖尿病の薬であるナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬などの新しい薬が心不全治療に使われるようになっています。
非薬物治療として、致死的な不整脈での突然死を予防するために、植込み型除細動器を使うことがあります。重症例には心臓再同期療法などの治療を行うこともあります。
心臓病になりやすい人・予防の方法
心臓病の危険因子として高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、多量飲酒などが挙げられます。これらの疾患の管理や運動、食生活の改善、禁煙や節酒などが予防になります。睡眠不足や過労、ストレスなどで誘発されることもあり、規則正しい生活が理想とされています。
参考文献
- 心臓リハビリテーション学会HP 心臓病のことを知ろう!
- 日本心臓財団 心臓病の知識 心筋症とは
- 日本心臓財団 心臓病の知識 子どもの先天性心疾患(心房中隔欠損症、心室中隔欠損症など)とは
- eヘルスネット 狭心症・心筋梗塞などの心臓病(虚血性心疾患)
- 日本心臓財団 心臓病の知識 虚血性心疾患とは
- 日本心臓財団 虚血性心疾患による心不全
- 日本循環器協会 虚血性心疾患
- 2022 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療
- 日本心臓財団 不整脈とは
- 日本循環器学会 一般のみなさまへ 各疾患のご案内 不整脈
- 健康長寿ネット 高齢者の病気 老年症候群 不整脈
- 日本循環器協会 心臓弁膜症
- 日本循環器学会 一般のみなさまへ 各疾患のご案内 心臓弁膜症
- 日本心臓財団 弁膜症とは
- 日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン 2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
- 日本循環器学会/ 日本心不全学会合同ガイドライン 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
- 日本心臓財団 心不全とは
- 日本心不全学会 心血管病教育推進のための教材




