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五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

ファロー四徴症の概要

ファロー四徴症は、胎内で心臓の形成に異常が生じることによって発症する先天性心疾患です。心臓の先天性疾患には、チアノーゼ(低酸素血症)を伴うものと伴わないものがあります。
ファロー四徴症は、チアノーゼを伴うもののなかで最も症例数が多い先天性疾患です。出生数1万あたり2.8~4.1人がファロー四徴症を発症し、これは約3600人に1人の割合です。
男女比は1:1で、性差はありません。19世紀にフランスの医師ファローが病理形態を解明したことからその名がつけられ、以下の4つの特徴を満たすのがファロー四徴症の定義です。

  • 心室中隔欠損
  • 肺動脈狭窄
  • 大動脈騎乗
  • 右心室肥大

これらの特徴は偶然に4つが揃うのではなく、胎内で心臓が形成される際にねじれが生じて起こると考えられています。それぞれの内容を解説します。

心室中隔欠損

心臓は左右2つの部屋に分かれており、右心室には静脈血が戻ってきて肺へ送られ、左心室から動脈血が全身へ送られます。心室中隔欠損は、2つの部屋を隔てる壁に穴が空いており、動脈血と静脈血が混ざってしまっている状態です。

肺動脈狭窄

静脈を通って右心室に戻ってきた血液は、肺動脈を通じて肺から酸素を取り込みます。肺動脈狭窄は、右心室から肺動脈につながる部分が狭くなっており、肺への血流が不足している状態です。肺動脈が完全に塞がってしまっている場合は、極型ファロー四徴症と呼ばれることもあります。

大動脈騎乗

肺動脈を通って酸素を取り込んだ血液は、左心室から大動脈によって全身に運ばれます。大動脈騎乗は、大動脈が左心室だけでなく右心室にもつながっており、静脈血が大動脈に混ざってしまっている状態です。

右心室肥大

右心室から肺動脈につながる部分が狭くなっていると、右心室が強く拍動しないと肺動脈へ血液を送れません。右心室肥大は、右心室への過負荷により右心室の壁が厚くなり、心臓の機能に負荷がかかる状態です。

ファロー四徴症の原因

ファロー四徴症は胎内で心臓の形成がうまくいかないために起こる先天性疾患で、原因は不明です。一親等の家族内での再発率は3%程度といわれており、遺伝の影響も否定できません。ただし、単一遺伝子で遺伝するのではなく、多因子遺伝であるため、予測は困難です。

眼球突出の前兆や初期症状について

ファロー四徴症は、乳幼児健診時に心雑音によって発見されることがほとんどです。大学病院や大きな総合病院に設置されている小児心臓外科に相談するとよいでしょう。

発見しやすいファロー四徴症の主な初期症状は、以下の3つです。

  • チアノーゼ
  • 低酸素発作
  • ばち指

それぞれの内容を解説します。

チアノーゼ

ファロー四徴症の代表的な初期症状がチアノーゼです。チアノーゼとは、血液中に酸素と結合していないヘモグロビンが増えることによって起こる症状で、唇や指先が青紫色に変色します。ヘモグロビンは酸素と結合すると鮮やかな赤色になり、酸素との結合が外れると青黒い色になります。ファロー四徴症では動脈血に静脈血が混ざっているため、全身が青黒くなる場合も少なくありません。

低酸素発作

チアノーゼによる息苦しさから、乳児が激しく泣いたりいきんだりしたときに心臓に負担がかかり、さらに肺動脈が狭くなると低酸素発作が起きます。けいれんや意識喪失などを起こし、死亡する場合もあります。入浴などで全身の毛細血管が開いたときに、血圧が低下して意識喪失するケースも少なくありません。

ばち指

ファロー四徴症によるチアノーゼを治療しないまま6ヵ月以上経つと、手の指先が太鼓のばちのように丸く膨らむことがあります。慢性的な低酸素状態が続くと、血管新生を促す因子が誘導され、指先の組織が増殖しやすくなるためと考えられています。低酸素状態が改善されれば、ばち指ももとに戻っていくことが大半です。

ファロー四徴症の検査・診断

ファロー四徴症は生後1ヵ月以内に起こるチアノーゼや、心雑音によって発見されることがほとんどです。ファロー四徴症を疑う症状がある場合には、以下のような検査で確定診断を行います。

  • 心臓超音波検査
  • 胸部X線検査
  • 心電図
  • 心臓カテーテル

それぞれの内容を解説します。

心臓超音波検査

胸の上から超音波検査装置をあてて、心臓の形状などを確認します。心室中隔欠損や大動脈騎乗などは超音波検査で確認できるため、ファロー四徴症の確定診断に用いられます。

胸部X線検査

胸部X線撮影装置によって、レントゲン写真を撮ります。肺動脈狭窄など、心臓から肺にかけての範囲で異常の程度を確認する検査です。

心電図

心筋の収縮によって発生する電気信号を測定して、心臓の動く強さやリズムなどを検査します。ファロー四徴症の場合、右心室の動きが異常に強くなっています。

心臓カテーテル

カテーテルといわれる人工の管を心臓に挿入し、心室内の圧力などを測定します。また、カテーテルから心臓内に造影剤を注入し、血管の状態などをより詳しく確認できます。

ファロー四徴症の治療

ファロー四徴症の治療には、心臓手術が必要です。手術の方法は複数あり、新生児は手術に耐えられる身体に成長するまで待つことも少なくありません。手術を行うまでは、対症療法によって悪化を防ぎます。ファロー四徴症には、主に以下のような治療があります。

  • 薬物療法
  • 自己弁温存法
  • 右室流出路パッチ拡大術
  • ラステリ手術
  • BTシャント術

それぞれの内容を解説します。

薬物療法

ファロー四徴症における薬物療法は、チアノーゼや低酸素発作を軽減するための対症療法です。心筋の動きを抑制するβ遮断薬などを用いて、心臓が過剰に動くことを防止します。低酸素状態になると心臓は拍出量を増やして対処しようとしますが、その状態が慢性的に続くと心臓に過度な負担がかかって心不全が悪化します。これを防ぐために、心筋の過度な働きを抑制するのです。

自己弁温存法

ファロー四徴症を治療する手術のひとつで、肺動脈が十分に太い場合には自分の肺動脈弁を活かした治療が可能です。心室中隔を塞いだ後に、肺動脈の狭いところを拡張して縫合します。肺動脈や肺動脈弁の太さが、通常の70~80%以上ある場合には自己弁温存法ができる可能性があります。

右室流出路パッチ拡大術

肺動脈や肺動脈弁の太さが通常の70~80%以下の場合は、肺動脈弁の部分にパッチと呼ばれる膜を縫い付けて拡張する手術を行います。心室中隔欠損を塞いで肺動脈を拡張すれば、血液を肺に送れるようになり、全身の酸素不足は大きく改善します。

ラステリ手術

肺動脈が極めて細かったり、肺動脈が欠損したりしている場合には、人工血管によって右心室と肺動脈をつなぐ手術を行います。右心室と肺動脈の手術は、胸骨を切開して心臓を露出させる手術になるため、1歳程度に成長するまで待ってから行うことがほとんどです。

BTシャント術

心臓を露出させる手術が難しい月齢でも手術をする場合は、腕に向かう動脈と肺動脈を接続する手術を行います。肺動脈が細い場合には肺への血流量が不足するため、手術可能な状態にまで肺が発育しません。このため、早期にBTシャント術を行って肺への血流を確保し、肺の成長を促す必要があります。BTシャント術を行って肺が十分に成長してから、心臓と肺動脈の手術を行います。胸部を切開するため侵襲性の高い手術ですが、手術のリスクと低酸素発作のリスクを評価しながら、慎重に判断しましょう。

ファロー四徴症になりやすい人・予防の方法

ファロー四徴症は原因不明の先天性疾患で、予防や予測は困難です。適切な治療を受ければほとんど支障なく日常生活を送れるようになり、術後30年の生存率は98%と報告されています。

一方で、治療を受けなかった場合は1年生存率は75%・3年生存率は60%・10年生存率は30%といわれており、低酸素発作などによって死亡するケースも少なくありません。手術後にも長期に渡って経過観察が必要であるため、長期に渡って付き合う病気です。

関連する病気

  • 低酸素発作
  • 脳膿瘍
  • 感染性心内膜炎
  • 右心不全
  • ダウン症候群
  • 心室中隔欠損単独
  • 心室性不整脈
  • 肺動脈弁閉鎖不全

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