

監修医師:
神宮 隆臣(医師)
側頭葉てんかんの概要
側頭葉てんかんは、成人発症の焦点てんかんのなかで頻度が高いタイプであり、特に内側側頭葉(海馬や扁桃体)に起源を持つ場合が多いです。
発作はしばしば薬剤抵抗性を示し、すべてのてんかん患者さんのなかで難治性となる割合も高くなります。
薬物治療が無効な場合でも、外科的治療による発作抑制効果が高いことが特徴で、手術によって70%以上の症例で発作消失が期待できます。
側頭葉てんかんの原因
側頭葉てんかんは、主に側頭葉内の構造異常や損傷によって発症します。代表的な原因は以下のとおりです。
海馬硬化症(hippocampal sclerosis)
最も頻度の高い原因で、海馬(記憶を司る脳の部位)が慢性的な損傷を受け、萎縮し硬化する病態です。
細胞喪失とグリア細胞の増殖が進み、てんかん性放電が起きやすくなります。
限局性皮質異形成(focal cortical dysplasia)
脳の皮質が胎児期に正常に形成されず、一部に異常な細胞や配列が残った状態です。
これが電気的に過敏な焦点となり、発作の原因になります。
低悪性度てんかん原生腫瘍(LEAT)
主に若年発症例でみられる腫瘍群で、神経膠腫や神経膠神経細胞腫などが含まれます。これらの腫瘍は進行は緩やかですが、周囲の脳組織に刺激を与え、てんかん発作を誘発します。
脳炎後瘢痕、外傷後変化
脳炎(特に単純ヘルペス脳炎など)や頭部外傷の後に、側頭葉内に瘢痕組織が形成されることがあります。瘢痕部位では正常な神経回路が破壊されるため、異常な電気活動が起こりやすくなります。
結節性硬化症などの遺伝性疾患
結節性硬化症(TSC)に代表される遺伝性疾患では、脳内に結節状の病変(脳皮質結節)が生じ、焦点てんかんを引き起こすことがあります。
これらの病態はいずれも、側頭葉内側(海馬・扁桃体)やその周囲の組織を障害し、神経細胞の異常興奮を生じやすい環境を作り出します。
結果として、異常な神経放電(てんかん性放電)が持続的に起こり、発作を反復する状態に至ります。
側頭葉てんかんの前兆や初期症状について
側頭葉てんかんの発作は、発作開始を知らせるような特有の前兆(オーラ)を伴うことが多く、以下のような症状が典型的です。
上向性上腹部不快感
胃のあたりから胸に向かってこみ上げるような異様な感覚が生じます。これはとても特徴的な症状で、本人は「気持ち悪さ」「違和感」と表現することが多いです。
デジャヴ(既視感)やジャメヴ(未視感)
以前に見たことがあるような錯覚(デジャヴ)、あるいはよく知っている場所なのに初めて来たように感じる(ジャメヴ)といった認知異常が突然現れます。
恐怖感、不安感などの情動発作
理由のない強い恐怖、漠然とした不安感に襲われることがあります。外からはわからない症状ですが、患者さん本人にとっては印象深い体験となります。
幻嗅、幻味といった感覚異常
焦げ臭い、腐敗臭、あるいは金属的な味がするといった異常なにおい・味を感じることがあります。これも内側側頭葉(海馬・扁桃体)の発作活動に由来する症状です。
前兆に続く発作症状
- 動作停止
- 虚ろな表情で一点を見つめる
- 口部自動症(もぐもぐする、唇をなめるなど)
- 身振り自動症(衣服を触る、指を動かすなど)
発作は通常30秒〜2分程度で自然に収束しますが、発作後には数分間のもうろう状態(意識がぼんやりした状態)が続くことがよくあります。その間、周囲からの呼びかけに対する反応が鈍かったり、本人が発作の内容を覚えていないことが多いです。
受診する診療科目
側頭葉てんかんが疑われる場合、適切な診療科の受診が重要です。
脳神経内科
一般的なてんかん診療を行っている科であり、問診・脳波・画像検査による総合的評価を行います。
てんかん専門外来
難治性が疑われる場合や、外科治療の適応を考慮する場合には、より専門性の高いてんかんセンターや専門外来の受診が推奨されます。
側頭葉てんかんの検査・診断
脳波検査
側頭葉てんかんの診断において、まず中心となるのが脳波検査です。発作中の脳波が記録できれば診断に近づきます。しかし、発作が起きていないとき(発作間欠期)でも、棘波(spike)や鋭波(sharp wave)などの異常脳波が出現することが多く、これが診断の手がかりになります。
また、睡眠中の脳波や、前側頭電極や蝶形骨誘導といった深部電極による記録を行うことで、側頭葉深部からの放電をとらえる感度が高まり、診断精度がさらに向上します。
MRI検査
頭部MRIも側頭葉てんかんの診断において重要な役割を果たします。特に、T1強調画像では海馬の萎縮、T2強調画像やFLAIR画像では海馬の高信号領域がみられることがあり、これは海馬硬化症(hippocampal sclerosis)を示唆します。海馬硬化症は側頭葉てんかんにおける代表的な構造的異常であり、MRIでその有無を評価することは、治療方針の決定にも直結します。
SPECT・PET検査
脳の機能的な情報を得るためには、SPECT(単光子放射断層撮影)やFDG-PET(フルオロデオキシグルコースPET)検査が有用です。発作のない時期には、SPECTではてんかん焦点となる側頭葉での血流低下が、FDG-PETでは糖代謝の低下がみられます。
さらに、発作時にタイミングを合わせて撮影を行う発作時SPECT(ictal SPECT)や、それにMRI画像を融合させて解析するSISCOM(Subtraction Ictal SPECT Coregistered to MRI)を活用することで、発作焦点の同定率が高まり、外科的治療を検討する際の重要な指標となります。
診断のポイント
診断においては、臨床症状、脳波、MRIやSPECTなどの画像検査が三位一体となって一致していることが重要です。これらの情報が整合しない場合、焦点の特定が難しいため、頭蓋内電極(硬膜下電極や深部電極)を用いた精密モニタリングを行い、より詳細な焦点の特定を図ることもあります。
側頭葉てんかんの治療
薬物療法
抗けいれん薬(カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタムなど)が第一選択です。新しいタイプの抗けいれん薬も次々に開発されており、最新情報に注意が必要です。
治療を継続していると、約半数以上が薬剤抵抗性となり、2剤以上の適切な投与でも発作抑制が得られないことが多いです。
外科療法
薬物療法抵抗例では外科手術が考慮されます。代表的な手術は以下のとおりです。
前側頭葉切除術
側頭葉先端から4.5~7.5cmまでの外側皮質を切除し、さらに扁桃体と海馬を摘出します。
選択的扁桃体・海馬切除術
側頭葉外側皮質を温存し、扁桃体と海馬だけを摘出する術式です。記憶障害リスクを減少させる目的で選択されることもあります。
前内側側頭葉切除術
前側頭葉切除よりも切除範囲を限定し、内側構造へのアクセスを確保する術式です。
側頭葉てんかんになりやすい人・予防の方法
なりやすい人
側頭葉てんかんは、脳の側頭葉、特に内側にある海馬を中心とする構造異常や過去の脳障害が原因となることが多く、特定の病歴を持つ方では発症リスクが高まります。
まず、小児期に熱性けいれんを繰り返した経験がある方は、将来的に側頭葉てんかんを発症しやすいとされています。特に長時間持続した複雑型熱性けいれんの既往がある場合、脳に炎症や損傷を残しやすく、後年のてんかん発症と関連があると考えられています。
また、出生時に仮死状態に陥った方や、新生児期に低酸素性脳症を経験した方、あるいは脳炎や髄膜炎などの重篤な中枢神経感染症を起こした既往がある方も、側頭葉の神経細胞に障害が残ることがあり、てんかんのリスク因子となります。
予防の方法
現時点で、側頭葉てんかん自体を完全に予防する方法は確立されていません。
ただし、熱性けいれんや脳炎後の適切な管理により、重症化リスクを低減できる可能性があります。また、発作の早期発見・早期治療によって、進行や難治化を防ぐ努力が求められます。
参考文献
- 加賀谷理紗ほか:側頭葉てんかんの画像診断 臨床画像 2023
- 清水弘之:側頭葉てんかんの外科治療 脳神経 2005
- 海渡信義:てんかんの外科治療 臨床検査 2019
- 藤岡真生:側頭葉てんかん 精神科Resident 2023




