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下垂体腺腫
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

下垂体腺腫の概要

下垂体腺腫は、脳の下側にある「下垂体」という小さな器官にできるコブ状の腫瘍です。通常、下垂体は成長や生殖に関わるさまざまなホルモンを分泌していますが、腺腫ができることで、ホルモンのバランスが崩れ、さまざまな症状を引き起こします。

下垂体腺腫は腫瘍がホルモンを出さない「非機能性」と、腫瘍がホルモンを出す「ホルモン産生型(機能性)」にわかれます。ほとんどのケースは良性で、悪性腫瘍のように他の場所に広がることはありません。そのため、適切な治療を受けることで、多くの患者は普通の生活を送れるようになります。

下垂体腺腫の原因

下垂体腺腫が発生する原因は、明確にわかっていません。下垂体の細胞に何らかの変化が生じて腫瘍が形成されます。一部の症例では、遺伝性の病気と関連している場合もあります。

下垂体腺腫の前兆や初期症状について

下垂体腺腫の症状は、腫瘍のタイプと大きさによって異なります。

非機能性の症状

非機能性の場合、初期は症状がないことが多いです。腫瘍が大きくなって近くにある視神経を圧迫すると、両目の外側が見えにくくなります(両耳側半盲)。

さらに大きくなると、下垂体が圧迫されて必要なホルモンを作れなくなり、だるさや顔色の悪化が生じることがあります。男性では性機能の低下、女性では生理不順などの症状があらわれる場合もあります。

ホルモン産生型の症状

ホルモン産生型は、腫瘍が小さくても体に変化があらわれます。

腫瘍が母乳の分泌に関わるホルモン(プロラクチン)を出す場合、女性は生理が止まったり、赤ちゃんがいないのに母乳が出たりします。不妊の原因にもなります。男性では性欲の減少や、乳房の膨らみが生じることがあります。

腫瘍が成長ホルモンを出す場合は、子どもだと異常に身長が伸びる「巨人症」、大人だと手足や顔の骨が大きくなる「先端巨大症」が生じます。顔つきが変わり、指輪がきつくなったり、舌が大きくなっていびきをかきやすくなったりします。また、糖尿病や高血圧になりやすくなります。

腫瘍が副腎を刺激するホルモン(副腎皮質刺激ホルモン)を出すこともあり、その場合は「クッシング病」を発症します。クッシング病では、顔が丸くなったり、お腹だけが太ったり、皮膚に赤い線があらわれたりします。また、高血圧や糖尿病、骨がもろくなるなどの症状も起きやすくなります。

下垂体腺腫の検査・診断

下垂体腺腫の検査では、主に画像検査とホルモン検査が行われます。

画像検査では主にMRI検査が行われ、腫瘍の大きさや場所を調べます。数ミリの小さな腫瘍も見つけることが可能です。

ホルモン検査では、血液や尿を調べて下垂体から出るホルモンの量を測定します。また、特別な薬を使って体のホルモン反応を確かめる検査も行います。

視野が狭く感じる場合は、眼科で視野検査を受けて、見えにくい部分がないか調べます。

また、クッシング病がある場合などは、細い管を脚の静脈に入れて、下垂体の周りにある血管(海綿静脈洞)から血液を採取することもあります。

下垂体腺腫の治療

下垂体腺腫の治療は、腫瘍の種類、大きさ、症状によって変わります。

腫瘍が小さくて症状がない場合は、定期的に検査をして様子を見ることも多いです。しかし、視野障害が出ている場合や、ホルモン分泌の異常がある場合などは治療が必要です。主な治療法として、手術、薬物療法、放射線治療の3つがあります。

手術療法

治療が必要な下垂体腺腫では、手術で腫瘍を取り除くことが第一選択となります。頭を切らずに鼻の穴から細い内視鏡を入れて手術する方法が主流です。体への負担が少なく、術後の回復も早いのが特徴になります。ただし、腫瘍が大きかったり、除去が難しい位置にあったりする場合は、開頭手術が必要になることもあります。

薬物療法

プロラクチンが多く分泌される場合、薬で治療するのが一般的です。多くの場合、薬でホルモン値を正常に戻すことができますが、薬が合わない場合や効果が不十分な場合は手術を検討します。

成長ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンが多く分泌される腫瘍では、手術後もホルモン値が正常にならない場合、薬物治療を追加することがあります。

放射線治療

手術で取りきれなかった腫瘍や、手術が難しい場所にある腫瘍に対して、放射線治療を行うことがあります。放射線を腫瘍に当てて少しずつ縮小させていきます。効果が出るまでに時間がかかりますが、手術が難しい場合の有効な選択肢です。

下垂体腺腫になりやすい人・予防の方法

下垂体腺腫のリスクを高める要因はわかっていないため、予防法はありません。

しかし、早く見つけて適切に治療することで、視野障害やホルモン分泌の異常などの合併症を防いだり、進行を抑えたりすることができます。とくに、頭痛が続く、視野がおかしい、生理不順がある、母乳が出るなどの症状がある場合は、早めに病院を受診しましょう。

また、定期的な健康診断を受けることも、無症状で進行中の下垂体腺腫を早期に発見するきっかけになります。高血圧や糖尿病、骨がもろくなるなどの病気がある方は、下垂体腺腫が関係している可能性もあるため、医療機関を受診してみるとよいでしょう。

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