

監修医師:
吉川 博昭(医師)
目次 -INDEX-
髄膜炎菌性髄膜炎の概要
髄膜炎菌性髄膜炎とは「髄膜炎菌」という細菌が髄膜に感染する疾患です。感染症法では5類感染症に指定されており、診断した医師による届出が義務付けられています。
髄膜は脳と頭蓋骨の間に位置する膜で、脳を保護する役割があります。外側から「硬膜」「くも膜」「軟膜」の3層で構成され、くも膜と軟膜の間には栄養の豊富な脳脊髄液が流れています。
髄膜炎は原因によって、細菌性、ウイルス性、真菌性、原虫性にわかれます。このうち、髄膜炎菌性髄膜炎などの細菌性髄膜炎は重症度が高い傾向にあります。
髄膜炎菌性髄膜炎を発症すると、血液中に骨膜炎菌が広がり、頭痛や高熱、吐き気、精神症状などの症状が現れます。重症の場合には症状が急激に進行し「敗血症」やショック状態をきたして死に至るケースもあります。
髄膜炎菌性髄膜炎の死亡率は10〜15%と高く、無治療の場合には50%にも上るといわれています。救命率を上げるためには、早期の診断と適切な治療を受ける必要があります。
また、予防法として髄膜炎菌に対するワクチンがあるため、流行地域へ渡航する予定がある場合にはワクチン接種について検討することも重要です。
国内では終戦前後に4000件以上の発症報告があったものの、戦後は激減し1990年以降の年間発症数は1桁〜2桁台にとどまっています。近年では、2011年に宮崎県の学生寮での集団感染や2015年におこなわれた山口県でのイベントでの集団感染、2017年に神奈川県の全寮制学校での集団感染事例が報告されています。
髄膜炎菌性髄膜炎の原因
髄膜炎菌性髄膜炎は、脳を覆う髄膜に髄膜炎菌という細菌が感染することが原因です。
髄膜炎菌はアフリカ大陸のセネガルからエチオピア・スーダンにかけて広く生息しており、特に12月から6月にかけて流行します。髄膜炎菌の多い地域は地図上で帯状に確認されることから、このような地域は「髄膜炎ベルト地帯」と呼ばれています。
戦後、国内での発症数は激減したものの、散発的に集団感染の事例が報告されています。
髄膜炎菌は、流行地域で人の鼻やのどの粘膜に定着しています。髄膜炎菌が含まれる鼻水や痰などの分泌物に触れたり、咳などのしぶきを吸い込んだりすることで、体内に侵入します。
体内に侵入した髄膜炎菌が鼻やのどの粘膜から血液中に侵入し、髄膜まで到達すると髄膜炎菌性髄膜炎を発症します。
髄膜炎菌性髄膜炎の前兆や初期症状について
髄膜炎菌性髄膜炎では、無菌状態の血液中に細菌が侵入する「敗血症」に伴う初期症状が見られます。
感染後、数日〜10日程度の潜伏期間を経てから皮膚や粘膜の出血斑、高熱、関節炎などが生じます。その後、発疹や吐き気、頭痛、精神症状のほか、首の後ろが硬くなる「頸部硬直」などの髄膜炎症状も見られます。
なかには感染から急激に症状が現れることもあり、高熱や意識障害、けいれんなどが生じたり、ショック状態に陥ったりして死亡するケースもあります。
出典:厚生労働省検疫所 FORTH「疾患別解説 骨膜炎菌性髄膜炎」
髄膜炎菌性髄膜炎の検査・診断
髄膜炎菌性髄膜炎の検査では、問診や病理組織学的検査がおこなわれます。
問診では、症状のほか海外への渡航歴や渡航先での行動などについて確認します。
病理組織学的検査は、採取した脳脊髄液や血液を培養するなどして、顕微鏡で状態を観察し、髄膜炎菌の存在を確認します。
髄膜炎菌性髄膜炎の治療
髄膜炎菌性髄膜炎の治療では、抗菌薬を用いた薬物療法がおこなわれます。
通常、髄膜炎では原因となる細菌やウイルスを特定し、その病原体に有効な薬剤を使用した治療がおこなわれます。しかし、髄膜炎菌性髄膜炎は致命率が高く、早急な治療を必要とすることから、診断結果を待たずに幅広い病原体に有効な薬剤を投与することがあります。検査の結果、髄膜炎の原因が髄膜炎菌によるものと特定された後は、ペニシリンなどの抗菌薬に絞って治療をおこないます。
ショック症状を起こしている場合には、症状の程度や病態に応じて、血液量を維持するための輸液や酸素療法、アドレナリンの投与などがおこなわれます。
髄膜炎菌性髄膜炎になりやすい人・予防の方法
アフリカ大陸など、髄膜炎菌の流行地域に渡航したり、現地で感染者と接触したりすることがある人は髄膜炎菌髄膜炎に発症する可能性があります。髄膜炎菌性髄膜炎は、流行地域で12月から6月の乾季に流行します。そのため、この期間に流行地域へ渡航する予定がある場合には入念な感染対策をおこなうことが重要です。
発症を予防するためには、ワクチン接種や現地での感染対策などの方法があります。
特に海外留学やメッカの巡礼などのためアフリカに渡航する場合は、ワクチン接種が求められます。髄膜炎菌の感染を予防するワクチンは平成27年から国内でも承認されており、以前より幅広い医療機関で接種することが可能になりました。
また、髄膜炎ベルト地帯では、ほこりっぽい風を吸い込んだり、かぜなどの「上気道炎」にかかったりすることで髄膜炎菌に対する抵抗力が弱まるといわれています。現地ではほこりを吸い込まないよう適宜マスクなどを使用するほか、人ごみを避け、かぜをひかないよう十分に体調管理を徹底しましょう。
関連する病気
- ウイルス性髄膜炎
- 細菌性髄膜炎
- 真菌性髄膜炎
- 原虫性髄膜炎
- 敗血症
参考文献




