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頭蓋咽頭腫
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

頭蓋咽頭腫の概要

頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)は、主に脳の中の下垂体の近くにできる良性の腫瘍です。良性であるためほかの部位への転移は起こりませんが、重要な脳の構造の近くに位置するため、適切な診断と治療が必要です。頭蓋咽頭腫は中枢神経系に発生する腫瘍の一つで、主に子どもから若年成人に多くみられます。発症頻度は比較的低く、年間10万人に1人程度とされています。

この腫瘍は発生部位の特徴から視覚障害、内分泌異常(ホルモン分泌の問題)、水頭症(脳脊髄液の流れが妨げられる状態)を引き起こすことが知られています。腫瘍の多くは 嚢胞性(液体を含む袋状)と固形性の成分を持ち、これが診断と治療計画に影響を与えます。良性とはいえ、腫瘍の周囲の構造との関係から手術や治療が難しくなる場合があります。

頭蓋咽頭腫の原因

頭蓋咽頭腫は、胎児期の発生過程で視床下部と下垂体を結ぶ領域に異常が生じることが原因と考えられています。この腫瘍は胚上皮(胎児期に一時的に存在する細胞群)が完全に消失せずに残存し、それが腫瘍化することで発生します。遺伝的な要因や家族歴との直接的な関連は確認されておらず、発症を予測することは難しいとされています。ただし、一部の報告では染色体異常や遺伝子変異が関与している可能性が示唆されていますが、明確な発症要因は特定されていません。

頭蓋咽頭腫の前兆や初期症状について

頭蓋咽頭腫の症状は、腫瘍の大きさや周囲の神経などの臓器との位置関係によって異なります。以下は一般的な症状です。

  • 視力低下や視野障害:腫瘍が視神経や視交叉(視神経が交差する部分)を圧迫することで、視力低下や視野の欠損がみられます。子どもの場合、異常に気づきにくいことがあります。
  • ホルモン異常:腫瘍が下垂体や視床下部を圧迫すると、成長ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンの分泌異常が起こり、身長の伸びの遅れや疲労感がみられることがあります。
  • 頭痛と吐き気:腫瘍が脳脊髄液の流れを妨げ、水頭症を引き起こすと頭痛や吐き気が生じます。
  • その他:集中力の低下、体重増加、思春期の遅れや早発、また性格の変化がみられることもあります。
これらの症状が見られた場合でも、すべてが頭蓋咽頭腫に結びつくわけではありませんが、脳神経外科神経内科内分泌内科などで相談することが大切です。

頭蓋咽頭腫の検査・診断

頭蓋咽頭腫の診断は、画像検査が中心となります。以下に主な検査方法を示します。

頭部MRI(磁気共鳴画像診断)

正確な診断のためにガドリニウム造影剤と呼ばれる薬剤を使用することで、腫瘍の大きさや場所、数、正常な神経との位置関係を詳しく調べます。細かな構造まで確認できるため、頭蓋咽頭腫の診断には大変有効な検査とされています。検査の際は30分程度やや狭いスペースで横になる必要があり、機械から大きな音がします。

CT検査

造影MRIの方がより詳しく検査ができる場合が多いですが、骨や腫瘍の石灰化、出血の合併が疑われる場合に役立ちます。石灰化は頭蓋咽頭腫の特徴の一つです。ほかにも手術前の骨や血管の位置関係を確認したり、MRIが使用できない場合にも行われます。この場合もMRIと同様に造影剤を使うことが望ましいことが多いです。

血液検査

下垂体ホルモン(成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモンなど)の異常を調べます。腫瘍の影響による内分泌障害の有無を確認します。ほかにも血球数や肝臓や腎臓といった重要な臓器の機能などを確認し、薬物療法や手術が安全に行えるかの検討に用います。

組織診断

生検術という病変の一部を採取する方法や、手術を行う場合には腫瘍を顕微鏡で詳しく調べます。顕微鏡から腫瘍の特徴や悪性度を推測し、追加の治療の必要の有無などを判断することが可能な場合があります。

視力・視野検査

腫瘍が視神経を圧迫しているかを調べます。特に視野の欠損は早期発見の手がかりとなります。

こうした多数の検査には複数回の通院が必要な場合もありますが、適切な治療を行うために重要な役割を担っています。スケジュールなど主治医の先生とも相談の上で相談していくとよいでしょう。

頭蓋咽頭腫の治療

頭蓋咽頭腫の治療は、病変の広がりや種類、患者さんの体力など全身の状態に応じて選択されます。以下に代表的な治療法を記します。実際にはいくつかの選択肢がある場合もあります。個々人の治療の身体的、精神的な負担なども考慮して行います。

経過観察

良性腫瘍が疑われ、症状が軽い場合はまずは定期的な画像検査で腫瘍の大きさの変化を見ていくことが多いです。特に髄膜腫では経過観察でも問題ないケースが多いとされています。

外科治療

手術で腫瘍を直接取り除きます。病変が取りやすい部位や大きさであるかどうかや周囲の重要な神経との位置関係も重要です。頭蓋咽頭腫のように下垂体付近の腫瘍は鼻の奥のちょうど両眼の間付近にあることから、鼻から器具を挿入して行う経鼻下垂体手術(Hardy手術)と呼ばれる方法が用いられる場合もあります。ほかにも嚢胞性腫瘍に対して嚢胞内の液体を排出するドレナージ治療を行う場合もあります。これは腫瘍の圧迫を解除し、症状を緩和するために行われます。

放射線治療

腫瘍の大きさや手術後の残存の程度に応じて定位放射線治療(ピンポイントで照射する方法)やIMRT(強度変調放射線治療)と呼ばれる高精度で高い技術を必要とする治療方法が選択されます。特にこれまでは定位照射を多く行ってきましたが、近年はIMRTをできる機器が増えてきており、より大きく複雑な病変でも治療ができる場合もあります。脳への負担にも配慮した治療を行えるようになってきています。

薬物療法

ホルモン異常がある場合には、ホルモンを調整する薬が使用されます。手術などを受けた方は内服治療の継続が必要になる場合があります。ホルモン療法の急な中止は血圧低下や意識障害など命にかかわる危険な症状を引き起こし、時に入院が必要になる場合もありますので、主治医と相談しながら治療を継続することが重要です。

頭蓋咽頭腫になりやすい人・予防の方法

頭蓋咽頭腫は発症に個人の生活習慣や環境が大きく影響するものではありません。したがって、特定の人がなりやすいという明確な基準はありません。ただし、小児期や若年成人に発症することが多く、この年齢層では視力検査や成長の遅れなどを注意深く観察することが重要です。ほかにも一般的な健康づくり、体力づくりにより、病気になっても体力を落としにくくできることが知られています。具体的には以下のポイントが挙げられます。
  • 定期検診を受ける:病気を早期に発見し、適切に治療を行うことが可能です。
  • 生活習慣の改善:禁煙や適度な運動、バランスの取れた食生活を心がけることで、体力を強化することが期待されます。

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