監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
けいれん重積型急性脳症の概要
けいれん重積型急性脳症は、突発性発疹やインフルエンザなどの感染症をきっかけに、けいれん発作と脳の傷害を起こす病気です。
特に子どもにみられ、生後6か月から1歳代での発症が多いです。子どもの感染に伴う急性脳症のうち34%がけいれん重積型急性脳症です。患者数は数千人であり、1年ごとに新たに100~200人が発症すると言われています。
(出典:難病情報センター「痙攣重積型(二相性)急性脳症(指定難病129)」)
けいれん発作が15分~1時間以上に及んだり、意識が低下したりする場合は、この病気が疑われます。
けいれん発作が長引くことで脳に酸素が十分行き渡らず、脳細胞が損傷する可能性があります。けいれん重積型急性脳症を発症した患者が亡くなる割合は1%と低いものの、66%には知的障害や運動障害、てんかんなどの後遺症が認められています。
(出典:厚生労働省「129 痙攣重積型(二相性)急性脳症」)
後遺症の程度によっては日常生活で観察を続けたり、介助が必要となったりします。そのため、けいれん発作が始まったら後遺症につなげないために、早急に医療機関で治療を受けることが大切です。
けいれん重積型急性脳症の原因
けいれん重積型急性脳症の原因は明らかになっていません。
ただし、脳梗塞やくも膜下出血などの脳血管障害、急性ウイルス性脳炎や急性ウイルス性髄膜炎などの中枢神経性感染症などが原因ではないかと考えられています。
インフルエンザや風邪の後に発症することもあり、ウイルスや細菌が原因となる場合が多くあります。
他にも、けいれん重積型急性脳症になりやすい原因として、複数の遺伝子の型があることや特定の薬剤(テオフィリン)が病気を悪化させる可能性があると指摘されています。
けいれん重積型急性脳症の前兆や初期症状について
けいれん重積型急性脳症では、突発性発疹やインフルエンザなどの感染症によって発熱しているときにけいれん発作が現れ、その後に意識障害がみられます。
けいれん重積型急性脳症の前兆として、感染症の症状に加え、興奮していたり普段とは異なる様子などがみられたりすることがあります。機嫌の悪さやぐったりした状態も見逃してはいけない重要なサインです。
けいれん発作が始まった際には、発作の時間や様子の観察を記録しておくことが、後の医師の診断に役立つことがあります。
多くの症例では、けいれん発作や意識障害が起こったあと、いったん意識が回復します。
ただし、数日後に再びけいれん発作が起こり、意識障害も現れます。その後、けいれん発作と意識障害が繰り返し生じることもあります。
また、意識の回復がみられても、大脳皮質の機能が低下することにより知能障害や運動障害などの症状が現れることもあります。
特に、時間が経ってもけいれん発作が収まらない場合や反応が鈍くなるなどの異常がみられたときは、すぐに医療機関へ行くことが大切です。初期に適切な対応をすることで、病気の進行を防げる可能性があります。
けいれん重積型急性脳症の検査・診断
けいれん重積型急性脳症の主な検査は、画像診断(MRIやCT)です。この検査では、脳の腫れや出血がないかなど脳の異常の有無を確認します。
病状を把握したり他の病気と区別する目的で、バイタルサイン(血圧や呼吸数など)のモニターや、血液検査、脳波検査をおこなうこともあります。
血液検査では、感染症の有無や代謝の異常を調べます。脳波検査では、脳の電気的な活動を確認し、けいれんがどのように起こっているのか、また広がっているのかを調べます。
診断基準は「子どもで感染症がきっかけで発症する。頭部外傷や脳炎は除外する 」「発熱当日または翌日にけいれんが起こる」が条件であり、これらの検査結果から総合的に診断します。
診断が遅れると脳に大きな負担がかかる恐れがあるため、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
けいれん重積型急性脳症の治療
けいれん重積型急性脳症の治療には、確立された治療法がなく、症状に合わせて薬物治療をおこないます。
症状がでているときは、けいれん発作を抑えて脳への負担を減らすことや、全身の状態を保つことが大切です。副腎皮質ステロイド薬を短期間で大量に投与する「ステロイドパルス療法」がおこなわれることがありますが、この治療法の有効性は確立されていません。
一定の基準を満たしている場合は、体温を36度に管理する「保温管理療法」が効果的であるといった意見もありますが、十分な根拠はないとされています。
けいれん重積型急性脳症の原因に応じた治療もおこなわれます。感染症が原因の場合は、抗生物質を使用します。重症の場合には、人工呼吸器での管理や点滴投与などがおこなわれるため、集中治療室での管理が必要になる場合もあります。
けいれん発作が落ち着き、回復期に入った後は症状をコントロールしながら、知的障害や運動障害などに対してリハビリテーションをおこないます。飲み込みの機能が低下している場合には、必要に応じて食事介助をおこなったり、経験栄養を投与したりします。症状や後遺症の程度は患者によって大きく異なるため、一人ひとりに合わせた治療が必要です。
けいれん重積型急性脳症になりやすい人・予防の方法
けいれん重積型急性脳症になりやすいのは、感染症によって発熱の症状がみられる子どもです。
ウイルス感染がきっかけになることが多いため、手洗いやうがいといった基本的な感染予防を徹底することが大切です。適切な時期に予防接種を受けることも、予防に有効といえます。
ただし、けいれん重積型急性脳症の原因は明らかにされておらず、発症すると後遺症が現れる可能性があります。
そのため、家族や周囲の方が日常的に注意深く子どもを観察し、異変を感じたらすぐに医療機関へ相談することが大切です。けいれんに対する知識を深め、迅速に対応できるよう準備をしておくことで、けいれん重積型急性脳症が発症した際に対応できる可能性が高まります。
参考文献