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転移性脳腫瘍
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

転移性脳腫瘍の概要

転移性脳腫瘍は、がんが脳に転移することで生じる腫瘍です。 原発性脳腫瘍(脳自体から発生する腫瘍)とは異なり、転移性脳腫瘍は体のほかの部位に発生したがんが原因です。特に肺がん、乳がん、腎がん、メラノーマ(悪性黒色腫)は脳に転移しやすいとされており、肺がん転移性脳腫瘍患者の約半数を占めるとされています。転移性脳腫瘍の症状はがんができた部位により多岐にわたりますが、手足の動かしにくさや喋りにくさ、頭痛といった症状をきたします。がんを患っている方でこうした症状があれば早めに主治医とご相談することが肝要です。 治療は患者さんの体力や病気の状態などを総合的に評価したうえで放射線治療や手術、薬物療法などを行いますが、近年では技術の進歩により放射線治療の役割が非常に大きくなってきています。

転移性脳腫瘍の原因

転移性脳腫瘍はがんを持っている方に発症します。がんが最初に発生した部位を原発巣と呼び、原発巣からがん細胞が血液やリンパ液に乗って脳に到達し、そこで増殖することで発生するとされています。脳は通常は血液脳関門という特殊な構造で守られているのですが、それをがんが越えて脳に侵入し、脳の中で腫瘍を形成します。この現象は、がん細胞の増殖能力や免疫回避能力が関係しており、特定のがんでは脳への転移が起こりやすいとされています。

転移性脳腫瘍の前兆や初期症状について

転移性脳腫瘍の症状は腫瘍の大きさや場所によって異なりますが、主に以下のような症状が現れることがあります。

頭痛

腫瘍により頭蓋内の圧が上がることで生じ、特に朝起きたときに強く感じられることがあります。吐き気など他の症状を伴うこともあります。

神経症状

体の片側に麻痺やしびれが生じることがあります。これは腫瘍が脳の運動や感覚を司る部分を圧迫している場合に起こります。言葉がうまく出てこなくなる失語症や、物が二重に見える複視が起こることもあります。

てんかん発作

腫瘍による圧迫などにより、脳の異常な興奮が原因で、突然のけいれんや意識を失う発作が現れる場合があります。

性格や認知機能の変化

例えば、気分が不安定になったり、物忘れがひどくなったりすることがあります。これは前頭葉などの脳の特定の部位が影響を受けるためです。 これらの症状が見られた場合でも、すべてが転移性脳腫瘍に結びつくわけではありませんが、特にがんの治療を受けている方で気になる症状がある場合は脳神経外科などの医師に相談することが大切です。まれに、脳に転移した腫瘍が最初の症状として現れ、その後に原発性のがんが見つかることもあります。

転移性脳腫瘍の検査・診断

転移性脳腫瘍の診断は、画像検査が中心となります。特に近年では放射線治療の技術進歩により小さいうちに見つけて治療を行うことが増えています。以下に主な検査方法を示します。

頭部MRI(磁気共鳴画像診断)

正確な診断のためにガドリニウム造影剤と呼ばれる薬剤を使用することで、腫瘍の大きさや場所、数、正常な神経との位置関係を詳しく調べます。細かな構造まで確認できるため、転移性脳腫瘍の診断には最も有効な検査とされています。検査の際は約30分間、狭いスペースで横になる必要があり、機械から大きな音がします。閉所恐怖症の方は事前に医療スタッフに相談すると、適切な対応を受けられる場合があります。また、検査中に不安を感じた場合は、備え付けのブザーでスタッフに連絡できます。。

CT検査

以前はこちらが主体でしたが、造影MRIの方がより詳しく検査ができますので、近年では転移性脳腫瘍の有無の判定はMRIで行うことが増えています。手術前の骨や血管の位置を確認したり、出血の合併が疑われる場合に役立ちます。MRIが使用できない場合にも行われます。この場合もMRIと同様に造影剤を使うことが望ましいです。

全身検査

原発巣の診断がなされていない場合は原発巣を特定するため、胸部・腹部のCT検査や上部下部内視鏡検査などを行います。ほかの部位の病変の状況を把握することは重要なことです。治療の際には全身の画像も確認して治療方針を決定するためにもCT検査を行う場合があります。

血液検査

血球数や肝臓や腎臓といった重要な臓器の機能などを確認し、薬物療法や手術が安全に行えるかの検討に用います。

組織診断

手術を行う場合には腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べます。特に原発巣が未だわかっていない場合は腫瘍の特徴から原発巣を推測することが可能な場合があります。

こうした多数の検査には複数回の通院が必要な場合もありますが、適切な治療を行うために重要な役割を担っています。スケジュールなど主治医の先生とも相談の上で相談していくとよいでしょう。

転移性脳腫瘍の治療

転移性脳腫瘍の治療は、病変の広がりや種類、患者さんの体力など全身の状態に応じて選択されます。 以下に代表的な治療法を記します。実際にはいくつかの選択肢がある場合もあります。個々人の治療の身体的、精神的な負担なども考慮して行います。

放射線治療

腫瘍の場所に応じて、定位放射線治療(ピンポイントで照射する方法)や全脳照射が選択されます。特にこれまでは全脳照射を多く行ってきましたが、近年は定位放射線治療をできる機器が増えてきており、より高精度で制御率も改善している上、脳に負担の少ない治療を行えるようになってきています。また、手術後に組み合わせて用いられる場合もあります。ただし、サイズが大きい場合などは手術や薬物療法の方がよい場合もあります。

外科治療

手術で腫瘍を直接取り除きます。単発の腫瘍や症状が強い場合に行われることが多いです。また、取りやすい部位にあるかどうかや周囲の重要な神経との位置関係も重要です。最近では、ナビゲーション技術を用いて安全性を高めた手術が可能になっています。

薬物療法

化学療法や免疫療法、分子標的薬など、がんの種類や性質に応じて薬が選ばれます。先述の血液脳関門により従来の抗癌剤は脳に届きにくいとされていましたが、近年では脳に届きやすい新しい薬も徐々に開発されています。

緩和ケア・支持療法

痛みや不安を軽減し、患者さんやご家族の生活の質を高めることを目指します。ステロイドで脳浮腫を軽減したり、抗てんかん薬で発作を予防したりします。これにより症状の緩和を図ります。

転移性脳腫瘍になりやすい人・予防の方法

転移性脳腫瘍は、特に肺がんや乳がん、腎がん、メラノーマを患っている方で起こりやすいとされています。がんになった方の脳転移を予防する方法は確立されていません。このため、生活習慣の見直しによりそもそもがんになりにくくすることや、基礎体力をつけることといったがんにならないための予防が重要です。また、がん治療の方は定期的に画像の検査を主治医と相談の上で受けることや、運動や感覚に異常を感じた場合などは早期に受診することが重要です。 具体的には以下のポイントが挙げられます。 定期検診を受ける 原発巣を早期に発見し、適切に治療を行うことで転移のリスクを下げることが可能です。 生活習慣の改善 禁煙や適度な運動、バランスの取れた食生活を心がけることで、全身のがんのリスクを低下させることが期待されます。 転移の早期発見 原発がんを治療中の方は、定期的な画像診断で脳転移が小さいうちに発見することで治療の選択肢を広げることが重要です。

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