監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
脊髄炎の概要
脊髄炎は、脊髄に炎症が生じる神経系の疾患です。中枢神経系の重要な部分である脊髄に影響が及ぶことで、さまざまな神経学的症状が引き起こされます。脊髄炎の主要な原因に多発性硬化症(MS)が挙げられますが、ウイルスや細菌による感染、薬剤の副作用、自己免疫疾患などによっても起こります。
脊髄炎の主な症状は、運動機能と感覚機能の障害です。筋力の低下や麻痺、感覚異常(しびれや痛み)を発症することがあります。症状の程度や範囲は、炎症の位置や広がりによって異なります。脊髄炎がさらに進行すると、排尿・排泄困難になる可能性があるため、経過には注意が必要です。
脊髄炎の原因
脊髄炎の原因は、明確にはわかっていません。しかし、ウイルス感染や細菌感染、自己免疫疾患などが関係していると考えられています。
ウイルス感染では、ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、サイトメガロウイルスなどによって発症することが多いです。特にサイトメガロウイルス感染症は免疫不全患者に起こりやすいです。これらのウイルスが脊髄に侵入し、炎症反応を引き起こすことで脊髄炎が発症する可能性があります。
細菌感染では、結核菌やライム病の原因菌であるボレリア属細菌などが関与することがあります。これらの細菌が直接脊髄を攻撃したり、免疫系の過剰反応を引き起こしたりすることで炎症が生じます。
多発性硬化症や視神経脊髄炎(NMO)などの自己免疫疾患でも、免疫系が誤って脊髄を攻撃して炎症が生じることがあります。
脊髄炎の前兆や初期症状について
脊髄炎の初期症状は個人差がありますが、いくつかの特徴的な症状が現れます。一般的な初期症状は、頭頸部や背部の痛みで、突然発症することが多く、激しく痛む場合もあります。痛みに加えて、炎症が生じている部位にしびれや違和感を感じることもあります。
下肢の筋力低下も、脊髄炎の重要な初期症状の一つで、片側または両側の足に出現し、徐々に悪化します。日常的な場面では、歩行困難や足のもつれ、バランスの悪さを感じることがあります。
排尿・排泄障害も脊髄炎の初期症状で現れることがあります。脊髄の炎症が膀胱や腸の制御をつかさどる神経に影響を及ぼすことで生じます。
尿意を感じにくくなったり、逆に頻尿になったりして、生活に支障をきたすことが考えられます。
脊髄炎の検査・診断
脊髄炎の正確な診断には、MRI検査や髄液検査、血液検査など複数の検査が必要です。
MRIでは、脊髄の腫脹(むくみ)や炎症の範囲を視覚化でき、病変レベルの推定に役立ちます。さらに、造影剤を用いることで、より詳細な炎症の範囲や活動性を評価することも可能です。
髄液検査では腰椎穿刺によって採取した脳脊髄液を分析することで、炎症の存在や程度を評価します。髄液中の白血球数の増加、タンパク質濃度の上昇、オリゴクローナルバンドの存在などが、脊髄炎を示唆する所見となります。髄液検査は感染性の原因を特定するためにも有効です。
血液検査では、炎症マーカーの上昇や自己抗体の存在を確認し、感染症や自己免疫疾患の可能性を評価します。特に、抗AQP4抗体や抗MOG抗体という自己抗体の存在は、視神経脊髄炎や関連疾患の診断に必要です。
その他に、電気生理学的検査も神経系の機能を評価するために行われることがあります。必要に応じて胸部X線検査や全身CTスキャンなども実施し、腫瘍や感染症などと鑑別を行います。
脊髄炎の治療
脊髄炎の治療は、原因に応じて適切なアプローチを選択することが大切です。治療の主な目的は、炎症を抑制し、神経系の損傷を最小限に抑え、症状の改善を図ることです。
急性期治療の中心となるのは、高用量のステロイド療法です。メチルプレドニゾロンなどの静脈内投与により、強力な抗炎症効果を発揮し、症状の改善を図ります。ステロイド治療の効果が十分に得られない場合や重症例では、血漿交換療法や免疫グロブリン大量静注療法が行われます。
ウイルス感染によって脊髄炎が発症している場合、抗ウイルス薬の投与が行われます。ヘルペスウイルスが感染しているケースではアシクロビルなどが使用されます。細菌感染によって発症している場合は、適切な抗生物質を用いた治療が必要です。
自己免疫疾患に関連する脊髄炎の場合、長期的な免疫抑制療法が必要になることがあります。リツキシマブやアザチオプリンなどの薬剤が使用され、再発予防や症状のコントロールを図ります。
脊髄炎は、急速に症状が進行していたり、脊髄中心部に病変があったりする場合は予後不良のケースが多いです。一方で、発症後3ヶ月以内に症状が改善した場合は長期的な予後が良好だと言われています。
脊髄炎になりやすい人・予防の方法
脊髄炎はさまざまな要因によって引き起こされる可能性があるため、特定の人がなりやすいと一概に言うことは難しいですが、いくつかのリスク因子や予防方法があります。
リスクが高いと考えられる人には、以下のような特徴があります。
- 自己免疫疾患(特に多発性硬化症や視神経脊髄炎)の既往歴がある人
- ウイルス感染や細菌感染のリスクが高い人(免疫系が弱っている人など)
- 特定の薬剤(一部の抗生物質やNSAIDsなど)を長期的に使用している人
- 家族歴に自己免疫疾患がある人
完全に脊髄炎を予防することは難しいですが、以下のような方法でリスクを軽減できる可能性があります。
感染症の予防
手洗いやマスク着用などの基本的な衛生管理を徹底し、ウイルスや細菌感染のリスクを減らします。必要に応じてワクチン接種を受けることも大切です。
健康的な生活習慣
バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠など、全体的な健康管理を行うことで免疫系を強化し、感染や炎症のリスクを減らせる可能性があります。
ストレス管理
慢性的なストレスは免疫系に悪影響を与える可能性があるため、解消法を見つけ、実践することが大切です。
定期的な健康診断
特に自己免疫疾患の家族歴がある場合は、定期的な健康チェックを受けることで、早期発見・早期治療につながる可能性があります。
薬剤の適切な使用
脊髄炎は薬剤が原因となることもあるため、医師の指示に従って適切に使用します。長期的な使用が必要な場合は定期的な経過観察を受けることが必要です。
環境要因への注意
喫煙や特定の化学物質への曝露などが自己免疫疾患のリスクを高める可能性が示唆されています。これらの因子を避けることで、リスクを減らすことが可能です。