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急性脳症
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

急性脳症の概要

急性脳症とは、急激で広範囲な非炎症性脳浮腫による機能障害であり、ほとんどの場合感染症に続発し、急性発症して意識障害を主徴とする症候群を指します。急性脳症はあらゆる年齢に生じますが、小児期、特に乳幼児期に最も高頻度です。意識障害が24時間以上持続し、痙攣発作をしばしば伴います。

急性脳症の原因

急性脳症の本体は病理学的には非炎症性の脳浮腫とされます。ここでの非炎症性とは脳炎や髄膜炎がないことを意味します。急性脳症はほとんどが感染症により発症しますが、先天代謝異常によってもおこります。感染症の原因はウイルスが最多で、細菌やマイコプラズマなどでも生じます。ウイルス感染症に続発する脳症として、インフルエンザ脳症、突発性発疹(ヘルペスウイルス6/7型)脳症、ロタウイルス脳症、水痘脳症、麻疹脳症、RSウイルス脳症などがあります。細菌やその他の感染症に続発する脳症として、百日咳脳症、サルモネラ脳症、腸管出血性大腸菌感染症に併発する脳症、猫ひっかき病脳症、マイコプラズマ脳症などがあります。

日本において急性脳症の罹患率は年間400~700人と推定されます。0~3歳児の乳幼児に多く、平均3.5歳、中央値は2歳とされます。インフルエンザウイルス(16%)とヘルペスウイルス6/7型(16%)が最多で、続いてロタウイルス(4%)、RSウイルス(2%)、細菌(2%)、マイコプラズマ(1%)とされています。

臨床病理学的特徴による分類では、代謝異常を主な病態とする病型、サイトカインストーム主な病態とする病型、けいれん重積を伴う病型などがありますが、一部非典型的な特徴を有する脳症もあります。頻度としてはけいれん重積型(二相性)急性脳症(34%)、可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症・脳症(18%)、急性壊死性脳症(3%)の順で多いです。
インフルエンザは可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症や急性壊死性脳症の先行感染として最も多く、ヘルペスウイルス6型はけいれん重積型急性脳症の先行感染として最多です。

急性脳症全体の致死率は5%で、神経学的後遺症の率は36%ですが、病型別で予後は大きく異なります。けいれん重積型急性脳症では死亡は少ないものの、後遺症が多いとされます。急性壊死性脳症や出血性ショック脳症症候群では死亡と神経学的後遺症がともに多いです。可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症では多くが後遺症なく治癒します。インフルエンザ脳症の致死率は近年では6~8%、軽~中等度の後遺症が14%、重篤な後遺症は7%程度とされています。ヘルペスウイルス6/7型による脳症では致死率1%、軽~中等度の後遺症が32%、重篤な後遺症が13%程度とされています。ロタウイルス脳症では致死率は0%、軽~中等度の後遺症が28%、重篤な後遺症が2%とされています。RSウイルス脳症では致死率6%、軽~中等度の後遺症が26%、重篤な後遺症が21%とされています。

急性脳症の前兆や初期症状について

症状の中心は意識障害です。昏迷ないし昏睡が通常24時間以上持続します。痙攣をしばしば伴います。頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔吐、乳頭浮腫、乳児での大泉門膨隆)、意識障害、脳幹圧迫による異常(眼位・眼球運動、瞳孔、姿勢、運動、反射、呼吸、循環の異常)がみられます。

急性脳症の検査・診断

急性脳症を疑った場合、血液検査・尿検査、頭部画像評価(CT、MRI)、脳波検査、髄液検査などを病状に応じて行います。脳浮腫の有無を確認するために髄液検査の前に頭部CTを実施することが多いです。病初期では異常が認められず巣実の経過で症状や検査異常が顕在化する脳症もあることから、判断に難渋する場合は時間間隔をあけて再検査・再評価する必要があります。他疾患との鑑別に備えて、急性期の残検体を保存することも重要です。鑑別を要する疾患として、ウイルス性脳炎、細菌性髄膜炎、自己免疫性脳炎、脳血管障害、外傷、代謝異常、中毒、臓器不全などがあります。けいれん重積型急性脳症では発症直後の数日間は複雑性熱性けいれんと区別できないことも多いです。急性壊死性脳症などサイトカインストーム、全身臓器障害を疑う病型では、重症感染症や熱射病などと鑑別します。先天代謝異常による急性脳症を疑う場合にはそれに応じた適切な検査を追加します。

急性脳症の治療

症状に応じた全身状態の管理を行います。中等度~重症の急性脳症に対してはPALS 2020に準拠した初期蘇生、三次救急医療施設もしくはそれに準ずる医療機関への搬送、必要時には集中治療室への入室などで全身管理を行います。けいれんに対しては、けいれん持続時間に応じた適切な薬物治療を選択します。急性脳症の早期診断ではけいれん後の意識障害を評価する必要があり、必要以上の抗けいれん薬の投与は行わないことが推奨されます。36度を目標体温とした早期(24時間以内)体温管理療法の適応は、発熱に伴い、1)難治けいれん性てんかん重積状態、2)6時間以上続く意識障害、3)多臓器障害を疑わない、の3つのうち、1)または2)を満たし、かつ3)を満たす症例において弱く推奨されています。小児の急性脳症における体温管理療法(脳低温・平温療法)の有効性に関しては小規模な報告のみであり、大規模で明確なエビデンスはありません。国内外いくつかの施設において体温管理療法が導入されています(小児急性脳症の施設アンケートでは国内128施設中48%が体温管理療法を行っている)が、標準的な実施法や安全性は確立されていない現状です。サイトカインストーム型の急性脳症、特に急性壊死性脳症では、副腎皮質ステロイドの投与を行います。ガンマグロブリン投与と血液浄化療法は炎症が病態に関与する病型において理論上効果が期待されますが、エビデンスは確立されていません。先天代謝異常による急性脳症に対しては、病態に応じた治療を行います。

急性脳症になりやすい人・予防の方法

乳幼児期に多く、急性脳症の原因はほとんどが感染症によるものです。急性脳症の確立された予防法はありませんが、原因となるウイルスに対するワクチン接種はウイルス感染症の予防として重要です。手洗い・マスク着用などの標準予防策を行うことにより、ウイルスへの暴露を低減することが重要です。



参考文献

  • 1)小児急性脳症診療ガイドライン改訂ワーキンググループ編集:小児急性脳症診療ガイドライン2023. 第1版. 診断と治療社. 東京. 2023
  • 2)Mizuguchi M, Yamanouchi H, Ichiyama T, et al. Acute encephalopathy associated with influenza and other viral infections. Acta Neurol Scand 2007 ; 115 : 45-56.
  • 3)Kasai M, Shibata A, Hoshino A, et al. Epidemiological changes of acute encephalopathy in Japan based on national surveillance for 2014- 2017. Brain Dev 2020 ; 42 : 508-14.
  • 4)Hoshino A, Saitoh M, Oka A, et al. Epidemiology of acute encephalopathy in Japan, with emphasis on the association of viruses and syndromes. Brain Dev 2012 ; 34 : 337-43.

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