監修医師:
神宮 隆臣(医師)
急性硬膜外血腫の概要
急性硬膜外血腫は高い所や階段などからの転倒転落、交通事故などにより強く頭部を打撲し、発症します。多くは、頭蓋骨が骨折することで、硬膜などの血管が切れて硬膜と頭蓋骨の間に血液が溜まる病気です。
高所で作業など社会的にも活発な10〜30代の若者に多い病気ですが、高齢者は転倒が多くなり、発症します。また、小児でも起こりえる病気です。
また、発症すると約10%が命を落とすもしくは後遺症が残るとされており、早期の診断と治療が生命予後を決めるため、とても重要です。
似た病名に急性硬膜下血腫があります。どちらも頭部外傷によって起こる病気ですが、血腫が生じる場所が違います。血腫が硬膜の外側にできるのが急性硬膜外血腫、硬膜の内側にできるのが急性硬膜下血腫です。両者とも重症になる可能性があり、致死率は急性硬膜下血腫が約50%と、急性硬膜外血腫の約10%と比べて高い傾向です。
急性硬膜外血腫の主な症状は意識障害です。急性硬膜下血腫と比べて、急性硬膜外血腫の意識障害は受傷直後は見られないことがあります。この状態は意識清明期といわれ、急性硬膜外血腫に特徴的です。その後にだんだん意識状態が悪くなります。重症化し脳損傷を伴うと一命を取り留めたとしても後遺症が残る可能性があります。後遺症は記憶障害や判断力の低下といった高次脳機能障害、運動麻痺など脳の損傷部位によってさまざまです。ほかにもてんかん発作がみられるケースもあり、これらの後遺障害を引き起こす可能性は決して少なくありません。
急性硬膜外血腫の原因
急性硬膜外血腫の主な原因は、高い所や階段からの転落事故や交通事故などにより起こる頭部外傷です。
頭蓋骨と大脳の間には硬膜、くも膜、軟膜と呼ばれる3つの膜があります。頭部外傷により頭蓋骨を骨折することで、頭蓋骨と硬膜の間にある動脈や静脈などの血管が傷つき、血液が漏れます。血液が漏れた結果、血腫ができ、血腫が大きくなり脳組織を圧迫することでさまざまな症状を引き起こすのです。
急性硬膜外血腫の前兆や初期症状について
急性硬膜外血腫では出血量が多いと、血腫が脳を圧迫しさまざまな症状を引き起こす可能性があります。特に意識障害を認められることがあり、受傷後の意識障害の詳細は次のような流れで起こりえます。
意識混濁
転倒や転落、交通事故により頭部外傷を受傷した直後は、脳震盪(しんとう)の影響などで、意識混濁となることがあります。意識混濁とは意識の清明さが低下した状態です。浅い眠りの状態でぼんやりするケースもあれば、刺激が加わっても覚醒しないなどケースもあり、意識レベルの重症度もさまざまです。急性硬膜外血腫の場合は、後述する意識清明期があることが多く、改善することが多いとされます。
意識清明期
受傷後、数分から数時間の間に意識清明期が認められることが特徴とされます。頭蓋内に出血が十分に溜まり、脳を圧迫するようになるまでの時間は、意識が回復し自覚症状があまりみられません。この期間のことを意識清明期と呼びます。重症の急性硬膜外血腫や急性硬膜下血腫・脳挫傷を合併すれば、意識清明期を認めることなく意識障害を呈することがあります。
意識清明期後の意識混濁
意識清明期後、再び意識混濁となります。
嘔吐や頭痛などの頭蓋内圧亢進症状が認められたり、血腫の反対側の手足に片麻痺を生じる可能性も少なくありません。この時期に、瞳孔のサイズに左右差が出たり、呼吸回数が減り十分な換気が行われなくなったり、異常な姿勢が見られたりといった脳ヘルニア症状がみられます。
最終的に、呼吸停止や心停止に至ることもありえるため、早急に受診し検査を受けることが重要です。
急性硬膜外血腫は受傷直後には意識清明期があり、症状がほとんどない場合もあります。しかし、時間の経過とともに急激に症状が出現することがあります。特に頭部外傷を受傷して6時間以内は注意が必要です。1日以上経過して症状がない場合は、その後の急激な症状の出現はあまりみられません。
重症度や血腫量、症状によっては緊急に手術が必要な病気です。強い頭部外傷を受傷したら速やかに脳神経外科を受診しましょう。
急性硬膜外血腫の検査・診断
急性硬膜外血腫の診断や治療法の選択にはCT検査が必須です。受傷直後には、血腫が形成されていない場合や、あっても少量の場合があります。そのため、繰り返し撮影し経過を追うことで、血腫が増えないか確認することもあります。
CT検査の方法
CT検査はX線を使って身体の断面を撮影します。仰向けに寝た状態で丸い筒状の装置の中に頭を入れて行います。筒の中から、患者さんの頭の周りを一周するようにX線が照射され、コンピューターにより頭の中を輪切りにしたような画像が得られます。CT検査の一般的な検査時間は5〜15分程度です。
CT検査でわかる急性硬膜外血腫の特徴
硬膜と頭蓋骨は密接しているため、血腫は広範囲には広がりません。そのため、CT検査では頭蓋骨と脳の間に凸レンズ型の像が白く写る特徴があります。また、血腫の近接した頭蓋骨に骨折がみられることもあります。
急性硬膜外血腫の治療
急性硬膜外血腫の治療は軽症と重症では異なる特徴があります。軽症の場合は経過観察となる傾向にありますが、重症の場合は頭蓋骨を開け、血腫を取り除く緊急手術が必要です。
軽症の場合の治療
軽症で出血はあっても自覚症状がないまま経過した場合は、1泊2日程度の経過観察入院となり、退院後は外来で経過をみていきます。経過の中で血腫が自然に消失もしくは減少するのを待つこともあります。頭痛や嘔吐の症状が見られた場合、頭蓋内圧の上昇に対処するため、脳圧降下薬を使用することもあります。
重症の場合の治療
意識障害や頭蓋内圧亢進などの症状がある場合や、出血量が多い場合は早急に手術が必要です。手術は全身麻酔を使用後、血腫の範囲より大きめの皮膚切開と頭蓋骨の切除を実施します。大きめに切除する理由は、脳が腫れて手術する視野が確保できなくなることを避け、さらに圧迫によって脳が傷つくリスクを防ぐためです。切除後、ゼリー状に固まった血腫を完全に除去し、破れている血管を止血します。同時に、骨折している頭蓋骨の治療も行うこともあります。
急性硬膜外血腫になりやすい人・予防の方法
急性硬膜外血腫は早期の診断と治療が重要な病気です。昏睡状態の場合、社会復帰できる確率は約62%とされており、社会復帰が困難になる人は決して少なくありません。発症しないためにもなりやすい人の特徴や予防の方法を押さえておくことは大切でしょう。具体的には以下の通りです。
急性硬膜外血腫になりやすい人
急性硬膜外血腫の原因はほとんどが転落事故や交通事故による頭部外傷です。また、社会的活動の多い10〜30代に多いとされていますが、どの世代でも発症する可能性のある病気です。
日常的に転落しやすい環境下で働いている方や、麻痺や筋力低下があり転倒しやすい状況の方は、頭部外傷のリスクがあるため注意が必要でしょう。
急性硬膜外血腫の予防
急性硬膜外血腫は頭部外傷でおこるため、交通事故や転倒転落などの事故を予防することが大切です。
交通事故による頭部外傷の予防には次のようなものがあげられます。
- 車に乗る際は必ずシートベルトを装着する
- バイクに乗る際は必ずヘルメットを装着する
- 車やバイクの機能に異常がないか定期的に点検する習慣をつける
- 事故が起こりやすい場所には行かない
- 飲酒運転は絶対にしない
- 運転中、スマホは見ない
- 法定速度を守って運転する
高齢者の転倒による頭部外傷の予防では、以下について意識しましょう。
- 医師に相談しながら定期的に運動する機会を作る
- 床に物を置かない
- 玄関、廊下、トイレ、風呂などに手すりをつける
- 浴室に滑り止めマットを敷く
- 夜間トイレに行く動線にはセンサーライトをつける
- 眠剤などの薬を使用する際は特に十分に注意を払う
乳児や幼児の場合、ベッドや階段からの転落、公園の遊具や自転車による事故が原因となりやすいです。親がしっかりと注意を払うこと、また危険な場所であると子どもと共有することが、予防につながります。子どもの場合は特に目を離さないようにしましょう。
参考文献
- (書籍)病気が見えるVOL.7 脳と神経 MEDIC MEDIA
- 済生会
- 名古屋市立大学医学部附属東部医療センター
- 慶應義塾大学医学部外科脳神経外科学教室
- 広島大学脳神経外科