

監修医師:
神宮 隆臣(医師)
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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す
目次 -INDEX-
神経調節性失神の概要
神経調節性失神とは、反射性失神ともよばれる一過性の意識消失です。自律神経による血圧や脈拍の調節が乱れて、脳への血流が一時的に途絶えることで発生します。直接生命に影響する疾患ではありませんが、意識を失ったりしやすいので、生活を制限されることが問題となります。 自律神経は交感神経と副交感神経で構成され、体のさまざまな機能を自動的に調節しています。交感神経はストレスがかかったときに活発になり、心拍数を増加させたり血管を収縮させたりして、血圧を上げるように働く機能を担っています。 副交感神経は心身を休ませる役目があり、血圧や心拍数を下げる働きを持つ神経です。副交感神経の75%程は迷走神経とよばれる神経で、心臓や肺、腹部の臓器に張り巡らされています。これらの自律神経の調節バランスが崩れると、神経調節性失神が起こります。神経調節性失神の原因
神経調節性失神は、原因別に3種類に分けられます。血管迷走神経性失神
迷走神経反射とも呼ばれ、迷走神経からの刺激で起こる失神です。以下のような状況が誘因となります。- 長時間の同じ姿勢(立位、座位)
- 痛みなどの身体的ストレス
- 不眠や疲労の蓄積
- 精神的恐怖や強いストレス
状況失神
日常生活における特定の動作が引き金となる失神です。主な誘因は以下のようなものです。- 排尿
- 排便
- 飲み込み
- 咳
- くしゃみ など
頸動脈洞症候群
首を回したり圧迫したりといった、首への刺激によって起きる失神です。具体的には以下のような動作が誘因となります。- 衣服の着替え
- ネクタイなどによる頸部の圧迫
- 運転中の首の動き
- 重い荷物の上げ下ろし
神経調節性失神の前兆や初期症状について
神経調節性失神が起こる直前には、しばしば以下のような前兆が認められます。- 疲労感・脱力感
- 吐き気
- 冷や汗
- 目の前が暗くなる
- ふらつき など
失神の診療科
失神の診療は、循環器内科や脳神経内科が得意とします。かかりつけ医に相談して紹介してもらうのもおすすめです。 失神外来を訪ねてもよいでしょう。関連する診療科が連携して診察してくれます。 倒れてケガをした場合などは、救急外来でも問題ありません。神経調節性失神の検査・診断
神経調節性失神は、問診や検査で総合的に診断します。心臓や脳の病気が隠れていないか判断することも重要です。問診
問診では、以下を詳しく確認します。- 失神時の状況
- これまでの病歴
- 内服中の薬
- 突然死の家族歴の有無
チルト試験
ヘッドアップチルト試験とも呼び、血管迷走神経性失神を診断するための検査です。台の上に仰向けになって安静にした後、台を徐々に起こして、血圧や心電図を観察します。 チルト試験での陽性率は最大75%程度であり、血管迷走神経失神の患者さんでも陰性となるケースも珍しくありません。この場合は、問診と合わせて総合的に診断します。頸動脈洞マッサージ
頸動脈洞症候群を疑う場合に行う検査です。患者さんの頸部を医師が刺激し、血圧や心拍数の変化が現れるか調べます。心電図検査
状況失神の場合、上記の検査で診断するのが難しい場合も少なくありません。24時間の心電図を継続的に見るホルター心電図を装着すると、診断の参考になることがあります。その他の検査
ほかの原因が隠れていないか調べるために、前もって以下の検査を行うことがあります。 血液検査 電解質のバランス、血糖値、貧血の有無などを確認 頭部CT、MRI 脳卒中などを疑う場合神経調節性失神の治療
神経調節性失神の治療は、今後の失神発生を予防するために行います。3種類のどれであっても、重要なのは生活習慣の見直しです。 重症例では、心拍数の低下をサポートするためにペースメーカ植込みを検討する場合もあります。血管迷走神経性失神の治療
血管迷走神経性失神では以下の事柄を意識し、誘因となる状況を作らないのが大切です。- 十分に水分をとる
- 長時間の立ちっぱなし・座りっぱなしを避ける
- 過度な飲酒を避ける
- 適度に塩分をとる
- ストレス管理
状況失神の治療
状況失神では、排泄や食事など、生活上避けられない動作が誘因となります。なるべく失神を誘発しない動作を身につけましょう。 例えば排泄時に症状が出る患者さんは、以下のような対策が可能です。- トイレでは手すりにつかまる
- 無理に力まない
- 済んだらゆっくり立つ
頸動脈洞症候群の治療
頸動脈洞症候群では首の圧迫や急な動きが誘因となります。具体的には以下のような動作で起きやすいです。- ネクタイを締める時
- 着替え
- 車の運転
- 荷物の上げ下ろし
神経調節性失神になりやすい人・予防の方法
血管迷走神経失神は若い方に多いですが、幅広い年代で発症する可能性があります。男女比は女性がやや多くなっています。頸動脈洞症候群は50歳以上の男性に多いのが特徴です。心疾患を合併している患者さんも少なくありません。 状況失神になりやすい人は誘因ごとに異なります。排尿時の失神は男性、排便時の失神は女性に多いとの報告があります。どちらも中高年の方で起きやすく、排便失神の方が年齢が高くなっています。飲み込みで誘発される失神は男性に多いです。神経調節性失神の発症予防
神経調節性失神の発症予防は、治療についての説明でもお伝えしたように、誘因を避ける対策が有効です。 また、夏場を中心に十分な水分摂取を心がけることや、極端な塩分制限をしないことも予防につながります。多量の飲酒を避けることや、十分な睡眠をとることも大切です。参考文献




