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神宮 隆臣

監修医師
神宮 隆臣(医師)

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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す

血管性認知症の概要

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって脳細胞が損傷され、認知機能が低下する病気です。
血管性認知症は認知症全体の20%を占め、アルツハイマー型認知症に次いで多くなっています。
また、男性の発症率が高い傾向です。
脳血管疾患の中でも脳出血後の発症リスクがわずかに高い傾向にあります。

血管性認知症の原因

血管性認知症は、脳血管を取り巻くさまざまな関連事項により引き起こされています。ここでは、主な原因について解説していきます。

脳血管障害(脳梗塞や脳出血)

比較的大きな脳梗塞が複数回起こることで、脳の神経細胞が広範囲にわたって損傷を受け、血管性認知症を発症することがあります。
また、くも膜下出血や脳内出血など、脳出血によって神経細胞が損傷を受けることで、出血性認知症を発症することがあります。
基本的には複数回の脳血管障害で発症しますが、記憶に関連する部分を含む脳血管障害の場合は一回の脳血管障害で発症することがあります。

高血圧性脳小血管病

高血圧性脳小血管病とは、高血圧によって脳の小血管が損傷を受け、脳卒中や認知症のリスク因子となる病気です。血管性認知症の原因として代表的な疾患の一つです。
高血圧により、脳の小血管が損傷されるとラクナ梗塞や白質病変などが引き起こされ、結果として血管性認知症を発症します。

遺伝性要因

小さな血管が障害される遺伝性脳小血管病(CADASIL、CARASIL)は、若年性血管性認知症の原因となることがあります。
遺伝子の異常により脳血管が変性し、若年から脳血管障害を繰り返すため、若年より認知機能障害を引き起こす場合があるので注意が必要です。

生活習慣や加齢

血管性認知症のリスク因子である高血圧や糖尿病には、飲酒や喫煙、運動習慣などの生活習慣が大きく関わってきます。
また、血管は加齢とともに老化し、動脈硬化のリスクが高まります。そのため、加齢は血管性認知症の危険因子となります。

血管性認知症の前兆や初期症状について

血管性認知症の前兆や初期症状は、原因となる脳血管障害の種類や場所、大きさによって異なりますが、一般的に現れやすいものには以下のようなものがあります。

  • 意欲・自発性の低下
  • 注意障害
  • 夜間不眠や不穏
  • 偽性球麻痺
  • 感情失禁
  • 抑うつ
  • 血管性パーキンソニズム
  • 歩行障害
  • めまい・ふらつき
  • 言語障害

認知症のなかで最も多い、アルツハイマー型認知症では物忘れが目立つのに対し、血管性認知症では物忘れは目立ちません。かわりに、意欲や自発性の低下や注意力の低下が初期症状として現れることが多くあります。
感情失禁は、感情のコントロールが難しくなる状態をいいます。通常では感情に変化を与えないようなささいなことで急に怒ったり、泣いたりします。周囲の人はその変化に戸惑うかもしれません。このような感情失禁も血管性認知症では発症します。

認知症の症状がある場合は、精神科または神経内科を受診しましょう。高齢者の場合、もの忘れ外来や認知症外来など、専門の診療科を設けている病院もあります。

血管性認知症の検査・診断

血管性認知症の検査・診断について以下に解説していきます。

認知機能検査

問診などで、記憶力、計算能力、言葉の想起能力などの認知機能を評価する検査を行います。通常の認知症検査では、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)などが用いられることが一般的です。
血管性認知症の検査では、Montreal Cognitive Assessment (MoCA)やFrontal Assessment Battery (FAB)などを追加します。これらは遂行機能や注意機能の評価に優れています。

画像検査

頭部MRIやCTなどの画像検査を行い、脳血管障害の有無や種類、場所、大きさなどを調べます。特にMRI検査は、ラクナ梗塞や白質病変、脳微小出血など血管性認知症の原因となる微小な脳血管障害を検出するのに有用です。

また、必要に応じて脳波検査や脳脊髄液検査、血液検査を行い、アルツハイマー型認知症や、てんかんなどの疾患との鑑別をしていきます。

血管性認知症の治療

血管性認知症を根治させる治療法はありません。そのため、治療の目的は、病気の進行を遅らせて症状を改善し、生活の質を維持することです。
治療法は、大きく分けて薬物療法と非薬物療法の2つがあります。

薬物療法

血管性認知症の薬物療法には、主に以下の3つの目的で使用される薬があります。

1.脳血管障害の発症・再発予防
2.認知機能の改善
3.行動・心理症状(BPSD)の改善

血管性認知症の原因は脳血管障害が大部分を占めているため、脳血管障害の発症・再発の予防が重要です。
脳梗塞に対しては、抗血小板薬を主体とした抗血栓療法を行います。

また、認知機能の改善にはアルツハイマー型認知症の治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬が用いられます。血管性認知症の認知機能改善の有効性が報告されています。

血管性認知症に伴って、抑うつ、不安、焦燥、幻覚、妄想、徘徊、睡眠障害、攻撃性などの行動・心理症状(BPSD)が現れることがあります。抗精神病薬や抗不安薬、抗うつ薬などが処方されることがあります。

非薬物療法

薬物療法と並行して、以下の非薬物療法を行うことも重要です。

リハビリテーション

脳血管障害に由来する血管性認知症によって麻痺や言語障害などの後遺症が残った場合、リハビリテーション(理学療法、作業療法、言語聴覚療法など)を行うことで、身体機能やコミュニケーション能力の回復を促します。

生活指導

規則正しい生活習慣やバランスの取れた食事、適度な運動をすることが大切です。

心理療法

回想法やリアリティオリエンテーション、バリデーション療法などを行い、認知症の方が持っている能力を引き出し、機能を最大限に活かした治療を行っていきます。

血管性認知症になりやすい人・予防の方法

血管性認知症の原因として脳血管障害が多く、脳血管障害を予防することが血管性認知症を予防することにつながります。

血管性認知症になりやすい人

血管性認知症になりやすい人とは、脳血管疾患の原因となる生活習慣病を発症している方や予備軍の方が挙げられます。
生活習慣病とは高血圧や糖尿病、脂質異常症などをさします。

血管性認知症の予防方法

血管性認知症予防には、以下の4つのことを心がけるようにしましょう。

1.バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙、節酒など、健康的な生活習慣を心がける
2.高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある場合は、きちんと治療する
3.定期的に血圧、血糖値、コレステロール値などを測定し、自身の健康状態を把握する
4.もの忘れや認知機能の低下を感じたら、早めに医療機関を受診し、専門医の診断を受ける

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