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副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

髄膜炎の概要

髄膜炎は、脳と脊髄を覆う髄膜に炎症が起こる病気で、命に関わる可能性もある病気です。特に細菌性髄膜炎は、治療が遅れると後遺症が残ったり、死亡することもあるため早期発見・早期治療が重要です。
日本における小児の細菌性髄膜炎の死亡率は0.3〜4.1%であり、治療終了時における後遺症の率は18.8%と報告されています。
細菌やウイルスなどが原因となりますが、この記事では、主に細菌性髄膜炎について解説します。

髄膜炎の原因

細菌が鼻やのどの粘膜にくっつくと、血液に入って菌血症という状態を引き起こし、その後、脳の特別なバリアを通り抜けて、脳のくも膜下腔に感染巣を作り、細菌性髄膜炎を発症します。
細菌が脳の髄液の中で急速に増えると、エンドトキシンなどの細菌の成分が放出されます。これが炎症を引き起こす物質(サイトカイン)の産生を促し、血管の透過性を高め、白血球を活性化させ、髄膜に炎症を引き起こし、脳のバリアの透過性を高めることになります。その結果、脳浮腫(脳がむくむ状態)や脳の血流障害が起こり、脳の組織が損傷を受けます。

髄膜炎の原因となる細菌は、年齢によって異なります。

新生児期

B群溶連菌(GBS)や大腸菌が多い傾向です。リステリア菌も、頻度は低いものの、重要な原因菌です。

新生児期以降

肺炎球菌が多くなります。かつてはHib(インフルエンザ菌b型)が多かったですが、Hibワクチンの普及により、現在はほぼ見られなくなりました。

免疫不全状態

通常の起因菌に加え、黄色ブドウ球菌、クレブシエラ、緑膿菌なども原因となることがあります。
肺炎球菌には多くの血清型が存在し、ワクチンでカバーできない型もあります。そのため、ワクチンを接種していても、肺炎球菌性髄膜炎になる可能性はあります。

髄膜炎の前兆や初期症状について

髄膜炎の年齢ごとの初期症状

髄膜炎の初期症状は、年齢が低いほど非特異的で、典型的な症状が出にくい傾向があります。

新生児
低体温、呼吸困難、無呼吸、腹部膨満、黄疸、筋緊張低下など。
乳幼児
哺乳力の低下、機嫌が悪い、泣き声が弱い、キーキーとした高い泣き声、活動性低下など。
幼児~学童
発熱、嘔吐、頭痛、髄膜刺激症状(項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候など)、意識障害、痙攣、食欲低下など。

「なんとなく元気がない」「いつもと何か違う」と感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。保護者の「いつもと違う」という直感は、重要です。

どの診療科目を受診すればよいか

子どもの場合は、まず小児科を受診しましょう。
夜間や休日の場合は、救急外来を受診してください。

髄膜炎の検査・診断

細菌性髄膜炎が疑われるときは、次のような検査を行います。

頭部CT検査

意識がもうろうとしている、けいれんを起こす、特定の神経の症状があるときに、まず頭のCT検査をします。
これは、急性脳炎や脳腫瘍、脳出血などのほかの病気と区別するためです。また、脳に圧力がかかっていないかを確認します。

頭部MRI検査

MRI検査をすると、脳の膜の周りがはっきりと見えます。

血液検査

血液検査では、血液の中の成分を調べます。
炎症がひどいときは、白血球の数が増えたり、CRPという物質が増えたりします。
小児の細菌性髄膜炎では、血液に細菌が入っていることが多いので、血液の培養も行います。

髄液検査

髄液検査は、細菌性髄膜炎を確定するための重要な検査です。
腰の部分から髄液を少し取り出して調べます。髄液に白血球が多く含まれていたり、糖が減っていたり、たんぱく質が増えていたりすると、細菌性髄膜炎の疑いが強くなります。
髄液を顕微鏡で見て細菌が見つかると、確定診断ができます。

薬剤感受性試験

見つかった細菌がどの抗生物質に効くかを調べる試験も行います。
特に肺炎球菌が見つかったときは、ワクチンがその細菌に効くかどうかも確認します。

PCR検査とメタゲノム解析

髄液の中の細菌の遺伝子を調べる検査もあります。
これにはPCR検査や次世代シーケンサーを使った解析があります。
これらは、普通の方法では見つけにくい細菌を見つけるのに役立ちます。

これらの検査を通じて、細菌性髄膜炎かどうかを判断し、適切な治療を行います。

髄膜炎の治療

細菌性髄膜炎は、早期に適切な治療を行わないと、命に関わったり、後遺症が残ったりする可能性があります。
そのため、治療は一刻を争うものであり、迅速な対応が求められます。

抗菌薬

細菌性髄膜炎の治療では、原因となる細菌を退治するために、治療の第一歩として抗菌薬が投与されます。
抗菌薬は、細菌の種類や年齢、症状の重さなどを考慮して選択されます。

  • 新生児
    生後1か月未満の新生児では、主にB群溶連菌(GBS)や大腸菌による髄膜炎が多い傾向です。
    そのため、これらの菌に効果のある抗菌薬を組み合わせて投与します。リステリア菌も、頻度は低いものの、新生児期にみられる重要な原因菌です。リステリア菌はセフェム系抗菌薬が効きにくいため、効果のある抗菌薬を使用することが重要となります。
  • 生後1か月以降
    この時期以降は、肺炎球菌による髄膜炎が多くなります。
    肺炎球菌の中には、薬剤耐性菌も存在するため、複数の薬を併用することが多い傾向です。抗菌薬による治療は、髄膜炎と診断されたらすぐに開始されます。
    髄液検査の結果が出る前に、医師の判断で抗菌薬の投与が開始されることもあります。

ステロイド薬

細菌性髄膜炎では、炎症によって脳が腫れたり、脳の血管が詰まったりすることがあります。
このような合併症を防ぎ、後遺症を減らすために、ステロイド薬が使われることがあります。

治療期間と注意点

抗菌薬による治療期間は、原因菌や重症度によって異なりますが、通常は10~14日間です。リステリア菌による髄膜炎の場合は、21日間以上の治療が必要となります。
治療中に熱が下がったり、炎症反応が落ち着いたりしても、自己判断で治療を中断してはいけません。医師の指示に従って、決められた期間、抗菌薬をきちんと服用することが重要です。

髄膜炎になりやすい人・予防の方法

髄膜炎になりやすい人

新生児や乳幼児
免疫システムが未熟であるため、感染しやすいです。
免疫不全状態の人
免疫力が低いため、感染症にかかりやすいです。
脳脊髄液漏などの基礎疾患がある人
特定の病状により感染リスクが高まります。

予防の方法

ワクチン接種
Hibワクチン、肺炎球菌ワクチン、髄膜炎菌ワクチンなどがあります。
定期接種をきちんと受けましょう。
手洗い・うがいの励行
感染症予防の基本です。
規則正しい生活
抵抗力を高め、感染症にかかりにくい体作りを心がけましょう。

髄膜炎は早期発見・早期治療が重要です。少しでも気になる症状があれば、ためらわずに医療機関を受診してください。


関連する病気

  • 細菌性髄膜炎
  • ウイルス性髄膜炎
  • 結核性髄膜炎
  • 真菌性髄膜炎
  • 髄膜炎の合併症
  • 脳膿瘍
  • けいれん
  • 聴力障害
  • 視力障害
  • 認知障害
  • 学習障害

参考文献

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