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末梢神経障害
朝山 康裕

監修医師
朝山 康裕(医師)

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金沢医科大学医学部卒業。国立病院機構金沢医療センター、金沢医科大学病院、島根大学医学部附属病院脳神経内科、国立病院機構宇多野病院脳神経内科などに勤務したのち、あさやま内科クリニック 院長に就任。日本内科学会専門医、日本神経学会神経内科専門医。

末梢神経障害の概要

末梢神経は、脳や脊髄などの中枢神経から分かれて、全身の器官・組織に分布する神経のことです。末梢神経は運動・感覚・自律神経の3つに分類されます。運動神経は全身の筋肉を動かす機能を持ちます。感覚神経は痛覚や温冷覚、触覚などの皮膚の感覚と振動覚や位置覚(関節の位置など)に関わる神経です。自律神経は血圧・体温の調節や心臓・腸など内臓の働きを調整する機能を司ります。

これらの末梢神経は、中枢神経からの指令を各器官に伝えたり、逆に各器官からの情報を中枢神経に伝えたりする重要な役割を果たしています。末梢神経障害(ニューロパチー)は、これらの神経障害の総称であり、その症状は手足のしびれや痛み、感覚鈍麻、筋力低下など多様であり、その原因もさまざまです。治療は原因療法と対症療法が主体となります。

末梢神経障害の原因

末梢神経障害にはさまざまな原因があり、適切な診断が重要です。しかし、原因不明の特発性末梢神経障害も一定数認められます。代表的な原因を以下に記載します。

糖尿病
糖尿病は最も一般的な末梢神経障害の原因です。高血糖が神経に直接的な影響を与えます。
栄養障害
ビタミンB12欠乏、チアミン欠乏などの栄養障害が末梢神経障害を引き起こすことがあります。
自己免疫疾患
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーや血管炎などの自己免疫疾患が原因となることがあります。
毒性物質
重金属中毒や薬物中毒などの毒性物質への曝露が末梢神経障害の原因になることがあります。
感染症
ジフテリアなどの細菌感染や、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome :GBS)などのウイルス感染が原因となることがあります。
遺伝性疾患
シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease: CMT)や家族性アミロイドポリニューロパチー(familial amyloid polyneuropathy:FAP)などの遺伝性の末梢神経疾患もあります。
がん
多発性骨髄腫などのがんが神経を直接浸潤したり圧迫したりすることで末梢神経障害を引き起こすことがあります。
圧迫
姿勢や動作による圧迫、外傷や事故、反復動作など長期間または強い力で圧迫されることによって生じる障害です。

末梢神経障害の前兆や初期症状について

  • しびれや痛み
    手足の末端部にしびれや痛みが生じることがあります。これは末梢神経が損傷されたり圧迫されたりした場合に起こる症状です。
  • 筋力の低下
    手足の筋力が低下し、運動が困難になることがあります。
  • 感覚の鈍麻
    手足の感覚が鈍麻し、触覚や痛覚が減弱することがあります。
  • 自律神経の異常
    発汗、血圧、体温の調整などの自律神経の機能が障害されることがあります。
  • 歩行困難
    歩行が困難になることがあります。
  • 立ちくらみ
    立ちくらみや動悸が生じることがあります。

末梢神経障害の病院探し

整形外科や脳神経内科(または神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。

末梢神経障害の検査・診断

(1)問診

家族歴、遺伝性の有無症状の経過(発症時期や進行状況など)を詳しく聴取します。しかし、受診されてすぐに遺伝性の末梢神経障害は、家族歴を伺っても全てを正直に話してくれる患者さん・家族はごく少数です。なかなか言い出しにくいデリケートな分野であるので、次回に仕切り直すなど、時間をかけて聴取することが大切となります。

(2)神経学的診察

脳と脊髄の中枢神経障害の有無や腱反射の異常(低下や消失)、徒手筋力検査(manual muscle testing:MMT)で筋力低下の有無、感覚障害や自律神経障害(起立性低血圧や発汗、排尿障害など)の有無を確認します。また、臨床的な末梢神経障害のタイプ分類(単神経障害や多発性単神経障害、多発性神経障害)にも有用です。

(3)画像検査

M R I画像で脳や脊髄の異常の有無を確認します。場合によってはCT画像も実施します。末梢神経を圧迫している構造がないか、腫脹の有無や炎症による造影増強など検査できます。

(4)生理学的検査

電気生理学的検査は、末梢神経障害の診断において運動神経、感覚神経、あるいはその両方が侵されているのかを判定し、髄鞘障害(脱髄性)、軸索障害(軸索性)またはその両方の障害とその重症度を診断する上で重要な役割を果たします。したがって、末梢神経障害の診断において重要な検査であり、原因の特定や治療方針の決定に不可欠な情報を提供します。

1)神経伝導検査 (Nerve conduction study, NCS)
電極を皮膚に置いて運動・感覚神経を電気刺激し、筋肉の反応を記録することで、神経の伝導速度や活動電位を測定する検査です。神経の機能障害の有無やその重症度を評価できますが、主に大径有髄神経の機能を反映しているため、小径線維優位型の末梢神経障害の評価法としては活用が困難であります。
2)針筋電図検査 (Electromyography, EMG)
筋肉内に針電極を刺して、筋肉の活動電位を記録する検査です。運動神経や筋肉の障害を検出し、その部位を特定できます。

(5)血液検査・髄液検査

血液検査は一般的な血液学的検査、生化学的検査に加え、自己免疫疾患、栄養代謝性疾患の検索を必要とします。脳脊髄液検査は主に脳や脊髄の病気で行われますが、末梢神経も脊髄根にて脳脊髄液に接しているため末梢神経障害でも重要となります。

(6)末梢神経超音波検査

非侵襲的評価法ですが、検査の精度は技術と経験に大きく依存するため、熟練した検査者が行う必要があります。

(7)神経生検

病理組織学的検査として、腓腹神経生検を行い、神経密度を算定する方法やときほぐし法による脱髄や軸索変性の度合いを調べます。

末梢神経障害の治療

原因療法と対症療法が主体となります。適切な治療を組み合わせることで、症状の改善や進行の抑制が期待できますが、症状が完全に改善しない場合もあるため、患者さんの生活の質(QOL)を考慮しながら、長期的な視点で治療とケアを行うことが重要です。

1)原因疾患の治療
糖尿病、栄養障害、自己免疫疾患、中毒性疾患など、末梢神経障害の原因となる基礎疾患に対する治療が重要です。適切な血糖コントロール、栄養状態の改善、免疫抑制療法などが行われます。また、GBSや、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)などの炎症性疾患の場合は炎症を抑えるために、免疫グロブリン大量療法(IVIG療法)やステロイド治療、血漿交換療法などを行います。FAPでは、近年肝移植療法に加え、四量体安定化剤が実用化し、現在もgene silencing療法などさまざまな治験が進められています。手根管症候群や肘部管症候群などは原因となる圧迫を手術などで取り除くことで改善する可能性がありますが、長期間の圧迫や重度の圧迫の場合は、永続的な障害を引き起こす可能性もあります。
2) 対症療法
末梢神経障害に伴う痛みやしびれなどの症状に対する治療が行われます。抗痛風薬、抗うつ薬(デュロキセチンなど)、抗てんかん薬(プレガバリンなど)、NSAIDなどの薬物療法があります。また筋力低下に対しては、リハビリテーションや装具の使用による機能訓練があります。

末梢神経障害患者さんへの生活指導

生活指導も重要です。室内でも靴下を履く、身体を冷やさない、熱いものや鋭利なものに注意する(特に感覚障害がある場合、怪我に気づきにくくなります)ことが大切です。また、転倒予防(筋力低下がある場合)のため、家屋環境の整備も重要となります(室内をバリアフリーにする、手すりをつけるなど)。

末梢神経障害になりやすい人・予防の方法

末梢神経障害になりやすい人は以下のような特徴を持っています。

1) 糖尿病患者
糖尿病は末梢神経障害の最も一般的な原因の一つです。高血糖が神経に直接的な影響を与え、特に長期罹患の場合リスクが高まります。
2) 栄養障害のある人
ビタミンB12欠乏やチアミン欠乏などの栄養障害が末梢神経障害の原因となることがあります。
3) 自己免疫疾患の患者
GBSやCIDP、血管炎などの自己免疫疾患が原因となることがあります。
4) 毒性物質への曝露歴のある人
重金属中毒や薬物中毒などの毒性物質への曝露が末梢神経障害の原因になることがあります。
5) がん患者や抗がん剤で治療中の人
がんが神経を直接浸潤したり圧迫したりすることで末梢神経障害を引き起こすことがあります。また、抗がん剤治療により末梢神経が障害され、運動や感覚に異常が生じることがあります。
6) 遺伝性の末梢神経疾患のある人
CMTやFAPなどの遺伝性の末梢神経疾患があります。

したがって、糖尿病や栄養障害、自己免疫疾患、がんなどの基礎疾患がある人や、毒性物質への曝露歴がある人、遺伝性の末梢神経疾患を持つ人は、末梢神経障害のリスクが高いと言えます。予防は、良好な血糖コントロールや禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事、アルコールの過剰摂取を控えることなどです。早期発見と適切な治療が重要です。

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参考文献

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