

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
三叉神経痛の概要
三叉神経痛は三叉神経という脳神経が支配する領域が短時間の間激しく痛む電撃痛です。三叉神経は顔面の感覚をつかさどる神経で、目の周り、鼻や頬の周り、口の周りをそれぞれ支配する三本の枝に分かれます。発症すると、片方のみの痛みが繰り返しおこります。
三叉神経痛は、本来痛みを生じないような刺激で誘発されるのが特徴です。明らかな原因が認められない場合と、ほかの疾患が原因となる場合に分類されます。
痛みが強い場合、痛む側の顔面の表情筋の収縮を生じることがあります。三叉神経痛の頻度は、年間に10万人当たり約4人〜27人の割合です。
一方、何らかの病気や外傷で神経が傷つき、三叉神経の一枝以上の領域が痛むことがあります。持続性の焼けつくような顔面痛で、三叉神経痛とは別の病態と考えられています。これが有痛性三叉神経ニューロパチーです。
三叉神経痛の原因
三叉神経痛は原因により以下の3つに分類されます。
典型的三叉神経痛
典型的三叉神経痛は血管による神経の圧迫で生じます。圧迫された神経の一番外側の部分、髄鞘が障害されることにより(脱髄)、神経が異常に過敏な状態になり痛みが生じると考えられています。
三叉神経の第二枝、第三枝に多く生じ、まれに両側が痛むこともあります。MRIか手術中の観察により、血管による三叉神経の圧迫と三叉神経根が変形している所見を認めることが診断に必要です。
二次性三叉神経痛
三叉神経痛の中で原因となる疾患がある方が分類されます。
原因疾患となるのは、小脳橋角部腫瘍、動静脈奇形、多発性硬化症などです。
特発性三叉神経痛
電気生理学的検査やMRI検査で明らかな原因が指摘されない三叉神経痛です。
三叉神経痛の前兆や初期症状について
三叉神経痛は突然発症することが多く、必ずしも前兆をともないません。しかし、初期の典型的三叉神経痛では、「前三叉神経痛」と呼ばれる病態がある場合があります。
前三叉神経痛では、痛みの性状が鈍痛だったり、持続時間が長かったりするうえに歯磨きで誘発されることもあり、歯痛だと勘違いされ歯科受診されるケースがあります。
このように、三叉神経痛の診断がつかないまま歯科治療を行われてしまい、本来の病態の初期治療が遅れることがあります。
三叉神経痛で初期から現れる特徴的な症状は、下記のとおりです。
- 突然顔面に生じる、突き刺さるような激痛が起きる
- 痛みの持続時間は短く、痛みを感じた後、間歇期と呼ばれる発作の起こらない時間がある
- 激しい痛みで日常生活がままならない場合がある
- 自律神経症状を伴う場合、唾液がでたり、涙がでたり、鼻水が出たりすることがある
このような症状がある場合には、脳神経外科や神経内科が専門のクリニックや病院を受診するとよいでしょう。
三叉神経痛は顔面の神経痛であり、神経内科で診断と治療が行われています。
三叉神経痛の検査・診断
三叉神経痛の特徴的な症状により診断します。
診断基準
診断基準は以下のとおりです。
A 三叉神経枝の一つ以上の支配領域に生じ、三叉神経領域を越えて広がらない一側性の発作性顔面神経痛を繰り返し、BとCを満たす。
B 痛みは以下のすべての特徴を持つ
①数分の1秒から2分間持続する
②激痛
③電気ショックのような、ずきんとするような、突き刺すような、または鋭いと表現される痛みの性質
C 障害されている神経領域への非侵害刺激により誘発される
D ほかに適切なICHD-3の診断がない
※ICHD-3:国際頭痛分類第3版
診断基準Cにあげられている特徴として、75〜80%の患者さんに痛み刺激を誘発する領域(トリガーゾーン)があることがあげられます。
トリガーゾーンは三叉神経の第二枝、第三枝の領域、つまり唇や鼻、頬の周囲にあります。
したがって、「顔を洗う」「歯を磨く」「食事をする」「ひげをそる」などの動作で痛みが誘発され、日常生活が阻害されます。
三叉神経痛の検査
三叉神経痛の診断と原因の分類のためには検査が重要です。
典型的三叉神経痛は、神経が血管に圧迫されている所見があり、ほかに三叉神経痛を引き起こす原因がない場合に分類されます。
一方、特発性三叉神経痛は電気生理学的検査でもMRI検査でも明らかな異常を認めません。
MRIによる診断には、血管と三叉神経が接触している所見だけでなく、圧迫により三叉神経の萎縮や位置異常を引き起こしている所見が重要です。
二次性三叉神経痛の診断には、多発性硬化症やほかの病変の診断のため、MRI検査やCT検査などの画像診断が必要になります。
三叉神経痛の治療
薬物療法
第一選択は特効薬として知られてきた、Naチャネル阻害薬であるカルバマゼピンです。しかし、三叉神経痛は進行性の病変のため、服用を続けると次第に効果が減弱する可能性があります。
また、カルバマゼピンには注意すべき副作用があります。中程度の重篤な副作用としておこりやすいものは、めまいや眠気、ふらつきのほか、薬疹、肝機能異常です。
さらに生命にかかわる副作用として薬剤過敏症症候群などの重症薬疹、血液障害があります。
副作用などの影響で薬物療法が困難になった際は、神経ブロックやガンマナイフ治療、外科治療が行われます。
ほかに、バクロフェン、バルプロ酸、フェニトイン、ラモトリギンといった薬剤が使用されることもあります。
三叉神経末梢枝ブロック
痛みが強く、薬物治療のみでは効果が不十分な場合、三叉神経ブロックが適応となります。局所麻酔薬や神経破壊薬を注射したり、高周波熱凝固を使用したりして感覚神経を遮断します。
局所麻酔薬による神経ブロックの効果は通常数時間ですが、ブロック治療が有効であることの確認のために第一に使用されます。神経破壊薬や高周波熱凝固による治療の持続期間は数ヶ月から数年です。
ブロックする部位として、ガッセル神経節ブロック、眼窩上神経節ブロック、上顎神経ブロック、眼窩下神経ブロック、下顎神経ブロック、おとがい神経ブロックがあります。ただし、頻回のブロックにより正常な三叉神経をいため、新たな神経障害性疼痛を引き起こしてしまい、病態が複雑化するリスクもあることに注意が必要です。
外科治療
薬物療法で痛みのコントロールがつかない場合、外科手術の適応です。典型的三叉神経痛では、血管による神経の圧迫が明らかとなっているため、微小血管減圧術で根治的に治療します。
ただし、手術後には10〜20%で症状が再発するといわれ、手術後に再び周囲の組織と癒着してしまうことによる神経の圧迫や別の血管による新たな圧迫が原因として考えられます。
ガンマナイフ治療
ガンマナイフ治療は低侵襲の治療です。そのため、全身状態の悪い高齢者にも行うことができ、長期入院が不要というメリットがあります。
しかし正常の三叉神経に高線量の放射線を当てることによる顔面のしびれや感覚障害を10〜30%でおこすといわれています。
三叉神経痛になりやすい人・予防の方法
女性に多く、年齢によって増加します。
発症時の平均年齢は典型的三叉神経痛で53歳、二次性三叉神経痛で43歳です。
加齢とともに増加する理由として、動脈硬化により血管の壁が固くなったり、血管の蛇行や屈曲が強くなったりすることにより神経の圧迫が起こりやすくなるためと考えられます。
三叉神経痛と診断された場合、痛みを誘発する動作をできるだけ控えるようにし、触ると痛い部分を避ける方がよいでしょう。
予防の難しい病気ですが、典型的三叉神経痛では動脈硬化が病気の一因のため、食事のバランス、適度な運動、規則正しい生活に気を付けることで予防できる可能性があります。
参考文献




