

監修医師:
吉川 博昭(医師)
目次 -INDEX-
片頭痛(偏頭痛)の概要
片頭痛は、頭痛発作を繰り返し、日常生活に支障をきたす有病率の高い脳疾患です。頭痛は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)により、1一次性頭痛(器質的異常のない機能性頭痛)、2二次性頭痛(器質的異常に伴う症候性頭痛)、3 有痛性脳神経ニューロパチー、ほかの顔面痛およびその他の頭痛、に分類されており、片頭痛は一次性頭痛です。片頭痛の特徴を示すPOUNDingとは、Pulsating(拍動性)、duration of 4-72hOurs(4〜72時間の持続)、Unilateral(片側性)、Nausea(悪心)、Disabling(生活支障度が高い)からなり、5つのうち4つを満たせば片頭痛の可能性が高くなります。
また、頭痛の前に起こる「前兆(aura)」症状の有無により、「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」の二つのタイプに分類されます。片頭痛の治療は、急性期治療(頓挫療法)と予防療法の2種類があります。
片頭痛(偏頭痛)の原因
遺伝的要因、ストレス、睡眠リズムの乱れ(睡眠不足や寝過ぎ)、飲酒(アルコール、特に赤ワイン)、外的刺激(強い光、音、におい、気圧や温度の変化など)、月経周期(女性ホルモンの変動)、特定の食品(チョコレート、チーズ、ハム)など、複数の要因が関係していると考えられており、個人差があります。
片頭痛の患者数
日本では約10人に1人は片頭痛に罹っていると言われています。具体的には、男性の3.6%、女性の12.9%が片頭痛を患っているとされており、女性の患者さんが男性の約3.6倍多いと推定されます。人口に換算すると、男性患者さんは約453万人、女性患者さんは1,625万人、合計約2,000万人程度と推定されています。
片頭痛(偏頭痛)の前兆や初期症状について
片頭痛には①予兆、②前兆、③頭痛発作、④後発症状の4つの相(phase)があり、これらがさまざまな組み合わせで複合的に起こり得ることが知られています。予兆期には、食欲亢進、疲労・あくび、感覚過敏(光・音・におい)、むくみなどが起こります。
頭痛の前兆(aura)は、「可逆性の大脳皮質または脳幹に由来する局在神経兆候」と定義されています。片頭痛の前兆には、視覚症状(閃輝暗点、キラキラした光が見える、視野が歪む)が有名ですが、そのほかに、知覚異常(チクチクした感じ、ビリビリした感覚、一部の感覚が鈍くなる)、運動障害(一時的に手足が動かしにくくなる)、めまい・複視・運動失調などの脳幹性前兆、失語症状などがあります。前兆は通常5〜60分間持続します。漠然とした前触れ(気分の変調、食欲変化など)は「予兆(prodromal)」と記載し、前兆には含めません。
片頭痛の経過
片頭痛は多くは40歳を過ぎると軽快に向かいます。しかし、一方で慢性化する片頭痛があります(変容性片頭痛)。それに関与するいくつかの危険因子が同定されています(遺伝、女性、年齢、教育レベル・収入、頭部外傷、発作頻度、カフェイン乱用、肥満、ストレスの多い生活、うつ、いびきなど)。そのなかでも、重視されるのが「薬物乱用」です。特に、複合鎮痛薬やトリプタンは、3ヶ月以上にわたり月に10日以上服用すると、片頭痛の慢性化をもたらす可能性があります。
片頭痛の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、神経内科です。脳神経内科や脳神経外科の診療科で診断と治療が行われています。
片頭痛(偏頭痛)の検査・診断
頭痛の診断には、頭痛分類と診断基準の知識が必要です。現在の頭痛分類は、2018年に国際頭痛学会(HIS)から提案された国際頭痛分類第3版(ICHD-3)が新しい版(日本語版もあり)です。これに基づいて、問診、神経所見、画像所見、採血検査などを行います。一次性頭痛か二次性頭痛かを見分けることが大切です。片頭痛は一次性頭痛に分類されています。
問診では、発症様式(予兆・前兆の有無)、頭痛の頻度、持続時間(4〜72時間)、特徴(片側性、拍動性、中等度〜重度の強さ、日常動作で増悪する)、随伴症状あり(悪心・嘔吐、光過敏・音過敏)、家族歴、既往症、内服薬の使用などを丁寧に聞き取ります。また、プライマリケア医のために片頭痛の簡易診断アルゴリズムがあります。
神経学的診察では、項部硬直や麻痺、感覚障害など身体的な異常の有無を確認します。画像検査では、ほかの原因がありその症状として起こる頭痛(二次性頭痛)を否定するために頭部CTやMRI・MRA検査、頸動・静脈エコーなどを行います。
生化学検査では、採血を行い、頭痛をきたす全身性疾患の鑑別を行います。
片頭痛の簡易診断アルゴリズム
Q1:毎日頭痛がしますか?
→「はい」は片頭痛ではない、「いいえ」はQ2へ
Q2:頭痛は片側だけにありますか?
→「はい」は片頭痛、「いいえ」はQ3へ
Q3:頭痛によって日常の生活に支障を受けますか?
→「はい」は片頭痛、「いいえ」は片頭痛ではない
上記のアルゴリズムを用いると、診断の感度0.86、特異度0.73でした。
片頭痛の分類
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では片頭痛は、2つの主要なタイプに分類できます。それは「前兆のない片頭痛」と「前兆のある片頭痛」です。またグループ(1桁)とタイプ(2桁)は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)を参照下さい。ただし、専門診療、頭痛センターなどの診療では、サブタイプ(3桁)レベルまでの診断が勧められます。
1.1 前兆のない片頭痛
頭痛発作を繰り返す疾患で、発作は4〜72時間持続します。片側性、拍動性の頭痛で、中等度〜重度の強さであり、日常的な動作により頭痛が増悪することが特徴的であり、随伴症状として悪心や光過敏・音過敏(あるいはその両方)を伴います。
1.2 前兆のある片頭痛
数分間持続する、片側性完全可逆性の視覚症状、感覚症状またはその他の中枢神経症状からなる再発発作であり、これらの症状は通常徐々に進展し、また通常それに引き続いて頭痛が生じ、片頭痛症状に関連すると考えています。
1.3 慢性片頭痛
頭痛が月に15日以上の頻度で3ヶ月を超えて起こり、少なくとも月に8日の頭痛は片頭痛の特徴を持ちます。
1.4 片頭痛の合併症
合併症として、前兆のある片頭痛発作により誘発される痙攣発作などがあります。
1.5 片型頭痛の疑い
軽度の片頭痛発作あるいは早期に治療された発作では、片頭痛発作診断に必要とされる特徴のすべてが出揃わないこともしばしばありますが、片頭痛の特異的治療が効果を示します。
1.6 片頭痛に関連する周期性症候群
かつては小児期に起こるとされていましたが、成人にも起こる場合があります。乗り物酔いや夢遊、寝言、夜驚症、歯軋りなどの周期性睡眠障害の症状を合併する場合もあります。
鑑別診断
片頭痛と緊張型頭痛の鑑別方法のポイントは、片頭痛は身体を動かすとひどくなり、緊張型頭痛は身体を動かすと楽になることです。片頭痛は「脳と血管の感作」が病態であるので頭蓋内の痛覚過敏があり、身体を動かすと頭痛がひどくなる動作過敏があります。両者を臨床的に鑑別するには、ジャンプする、頭を振る、階段昇降などの動作で頭痛が誘発される・悪化するのが片頭痛です。
また二次性頭痛には生命予後に影響を及ぼす疾患が多くあります。特に見逃してはいけない疾患として、くも膜下出血、脳出血、髄膜炎・脳炎、脳腫瘍、高血圧性脳症、内頸動脈・椎骨動脈解離、緑内障や側頭動脈炎などがあります。
頭痛をきたす全身性疾患には、膠原病、高カルシウム血症、褐色細胞腫、甲状腺疾患、肝疾患、腎不全、貧血、低血糖、低酸素・高二酸化炭素血症などがあり、これらの鑑別を行います。
片頭痛(偏頭痛)の治療
急性期治療と予防療法の2種類があり、急性期治療(頓挫療法)は、頭痛発作が起こったときに早期に頭痛を鎮めるための治療です。予防療法は、頭痛発作を起こりにくくし、発作が起きても軽度の症状で治まったり、急性期治療薬が効きやすくするための治療です。
また、非薬物療法は、薬物療法以外の治療を希望、副作用などで薬物療法に耐えられない・禁忌がある、薬物乱用頭痛、薬物療法に反応しない、明らかなストレス下にある患者さんなどに対する治療オプションです。
1. 薬物療法
- 急性期治療薬
アセトアミノフェン、NSAIDs、トリプタン、エルゴタミン、制吐薬 - 予防薬
抗CGRP抗体(ガルカネズマブ・フレマネズマブ)、抗CGRP受容体抗体(エレヌマブ)、抗てんかん薬(バルプロ酸やトピラマートなど)、抗うつ薬(アミトリプチリンなど)、βブロッカー(プロプラノロールなど)、Ca拮抗薬(ロメリジン塩酸塩など)、ARB/ACE阻害薬(カンデサルタンなど)、A型ボツリヌス毒素(慢性片頭痛に対して)
*保険適用外の薬剤もあるので、使用前に確認が必要です
2. 非薬物療法
- 行動療法
リラクセーション法、バイオフィードバック療法、認知行動療法、催眠療法 - 理学療法
運動(頭痛体操など)、鍼 - ニューロモデュレーション
経頭蓋磁気刺激、三叉神経刺激、迷走神経刺激 - 健康食品・サプリメント
コエンザイムQ10、ナツシロギク(feverfew)、マグネシウム(Mg)、ビタミンB2(リボフラビン)
前兆の治療
前兆ではトリプタンは無効です。ロメリジン塩酸塩、そのほかにスタチン、バルプロ酸などが前兆を抑制する作用が認められています。
頭痛体操
頭痛体操は片頭痛の軽減に有効です。頭痛体操のコツは、首(頸椎)を動かさない事が大切です。後頸筋を伸ばす腕を振る体操は2分間行います。正面を向き、頭は動かさず、両肩を大きく回します。頸椎を軸として肩を回転させ、頭と首を支えている後頸筋をリズミカルにストレッチします。前向きな明るい気持ちで取り組むことが大切です。ただし、片頭痛の発作中や激しい頭痛がある、発熱を伴う頭痛がある場合は行ってはいけません。
片頭痛(偏頭痛)になりやすい人・予防の方法
片頭痛は家系内発症例が多く、遺伝的素因の存在はほぼみとめられており、複数の遺伝子が関与して発症することが推測されています。
片頭痛の予防には、先ほど述べた予防薬の投与と生活環境での対応があります。日常生活では、人混みや換気の悪い場所を避けたり、サングラスを使って直射日光を遮ったりします。またアルコールを控えたり、睡眠時間を適切に取り、日頃からストレスをため込まないようにします。頭痛体操は片頭痛の予防にも効果があります。
参考文献




