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てんかん
吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

てんかんの概要

てんかんは、脳の電気的な興奮によって、発作症状が繰り返して発生してしまう病気です。日本には60〜100万人のてんかん患者さんがいるとされ、特に小児と高齢者で発症が多くなります。てんかんの発作には、発作が起こる部位とその症状によって、さまざまな種類があるとされています。例えば、脳の広い範囲で起こる発作では、意識を失って倒れるリスクのある強直間代発作、また突然に短時間の意識喪失を伴ってしまう欠神発作などがあります。一般的に、てんかん発作は一過性で発作後は元の状態に戻ることが多いのですが、発作の頻度や程度は患者さん個々によって異なります。

てんかんの診断には、発作症状の確認が基本とされています。そのため、発作の症状や既往歴、家族歴などの詳細な問診が大切になります。てんかん発作の確認ができれば、脳波の異常を診るために、脳波検査(EEG)やMRIなどの画像検査を用いて診断します。脳波検査では、発作時の異常な脳波を記録し、てんかん発作に関係する波長を検出します。また、MRI検査では、脳の病変を確認し、てんかんが起こっている部分がどのような状態になっているかを検査し、原因の特定に役立てます。

てんかんの治療には、発作をおこさせないように抗てんかん薬の内服で治療します。抗てんかん薬は、神経細胞の過剰な活動を抑え、発作を起こしにくくします。適切に抗てんかん薬で、発作をコントロールし続けることが、てんかん治療の基本となります。もし、薬物治療が効果がない場合には、外科手術や食事療法、ホルモン療法などの治療法が検討されることもあります。

てんかんの原因

てんかんの原因は様々で、大きく「特発性てんかん」と「症候性てんかん」に分類されています。特発性てんかんは、原因不明で検査をしても異常が見つからないとされています。一部、遺伝の可能性も示唆されていますが、明確な遺伝形式は、まだ見つかっていません。一方、症候性てんかんは、脳に何らかの障害や傷があることによって引き起こされるてんかんです。例えば、出生時のトラブルや低酸素、脳炎、髄膜炎、脳出血、脳梗塞、脳外傷、アルツハイマー病などが原因となることがあります。

小児のてんかん

15歳未満の小児に発症するてんかんの原因としては、周産期の障害や脳の構造的な異常によって起こる症候性てんかんと、原因が不明な特発性てんかんがあります。例えば、母体からの出生時、脳に何らかの損傷があって発症してしまうケースもあれば、先天的な脳の奇形や代謝異常によって発症することもあります。これらの多くは、3歳くらいまでに発症するとされています。

高齢者のてんかん

高齢者のてんかんの原因は、30〜40%が脳卒中と最も多く、次いで、神経変性疾患や動脈硬化、外傷などが原因で発生する、症候性てんかんとなります。脳卒中やアルツハイマー病などの病気によって、発病することが高齢者のてんかんの特徴となります。

てんかんの前兆や初期症状について

てんかん発作の前兆症状とは、発作の起こり始めに自覚する症状のことをいいます。発作の起こりはじめに出てくる症状から、発作の初期症状とも呼ばれています。前兆症状は、個々の患者さんによって異なりますが、同一患者さんでは、毎回同じ症状が発症することが多いとされています。そのため、どのような前兆症状が発症するかによって、脳のてんかん発作の部位を特定する重要なサインにもなり得ます。よくある主な前兆症状には、以下の3つがあります。

身体感覚症状

身体感覚症状には、手足がピリピリする、感覚がなくなる、電気が走るような感じがする、手足が熱い、冷たいなどがあります。

視覚症状

視覚症状には、点や円形などの形や色が見える、ぼやけて見える、ゆがんで見える、一部が見えなくなるなどがあります。

聴覚症状

聴覚症状には、ブンブン、カンカンという機械の音がする、人の声が聞こえるなどがあります。

その他の前兆症状

その他の前兆症状には、めまいや身体動揺感、焦げくさい臭い、硫黄の臭いなどの嗅覚症状。苦い、甘い、酸っぱい味がするなどの味覚症状。こみ上げる吐き気や胃腸がゴロゴロするという体や内臓の感覚異常、頭痛、不安感、恐怖感、胸がドキドキする、脈が速くなるなどの症状が見られることがあります。 これらの症状がみられた場合、子どもの場合は小児科、大人の場合は脳神経内科や脳神経外科、精神科などを受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。

てんかんの検査・診断

てんかんの診断には、発作症状の確認が基本となるため、詳細な問診による病歴聴取と身体的診察が行われたあと、各種検査によって診断されます。

問診

問診では発作の様子や既往歴、家族歴などを詳しく聞き取りをします。患者さん自身に発作の記憶や意識がないことも多いため、周囲の人から得られる情報も大切です。発作の頻度や持続時間、発作が起こる状況などを問診で聞き取ります。

脳波検査

次にてんかんの検査で大切なのが、脳波検査(EEG)になります。脳波検査では、脳の神経細胞が出す電流を記録し、てんかん発作発生時の異常な脳波を確認する検査です。脳波検査は、発作時以外でも特徴的な脳波が見られるため、てんかんなのか、もしくは、異なる病気なのかの鑑別診断に用いられることがあります。

画像検査

MRIやCTなどの画像検査も、てんかんの診断において大切とされています。これらの画像検査では、脳の構造的な異常や病変を確認することで、てんかんの原因を特定します。これにより、発作が起こっている原因が他の病気によるものではないかの鑑別にも用いられます。

その他の検査

血液検査や尿検査、神経心理検査などが行われることもあります。血液検査や尿検査では、てんかんに似た症状を引き起こす他の病気を除外するために行われます

てんかんの治療

てんかんの治療は、主に抗てんかん薬を用いた薬物治療が行われます。抗てんかん薬による治療で十分な効果が得られない場合は外科的治療や、その他の治療が選択されます。

薬物治療

抗てんかん薬は、脳の神経細胞の過剰な電気的な活動を抑えることで、てんかん発作を起こしにくくします。てんかんの種類に合わせて適切な薬物治療を行うことができれば、発作をコントロールして、通常の生活を送ることも可能です。抗てんかん薬の選択は、発作の種類や患者さんの年齢、性別、副作用などを考慮して、様々な種類の中から選択をします。

外科的治療

薬物治療が効果を示さない場合には、外科的治療を検討することがあります。外科的治療が可能なてんかんには、以下の5つがあげられます。

  • ・内側側頭葉てんかん
  • ・器質病変が検出された部分てんかん
  • ・器質病変を認めない部分てんかん
  • ・片側半球の広範な病変による部分てんかん
  • ・脱力発作をもつ難治てんかん

いずれも、てんかん発作の原因となっている領域が検査にて診断が可能で、後遺症の許容可能な範囲を検討した上で適用となるか判断されます。

その他の治療法

その他の治療法としては、ケトン食療法やACTH療法、迷走神経刺激術があります。ケトン食療法は、高脂肪・低炭水化物の食事を摂取することで、体内のケトン体を増やすことで、てんかん発作を抑える効果があるとされています。また、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法では、筋肉注射にて投与することで、一部の症候性全般てんかん、特にウエスト症候群の治療に有効とされています。その他にも、電気刺激を発する機器を体内に埋め込み迷走神経を刺激することで、てんかん発作の頻度を減らす、迷走神経刺激療法などがあります。

てんかんになりやすい人・てんかんの予防

てんかんは、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で発症しますが、特に乳幼児期と高齢期に発症率が高いとされています。乳幼児期のてんかんは、周産期の障害や脳の構造的異常、遺伝的素因などが原因となることが多いです。一方、高齢期のてんかんは、脳血管障害(脳卒中)や頭部外傷、認知症などが原因で発症するケースが多いとされています。

そのため、てんかんの予防には、脳の健康を保つことが重要です。例えば、脳卒中の予防のために、適度な運動やバランスの取れた食事、禁煙、体重管理などが推奨されており、これは脳血管を健康に保つことにつながります。認知症の予防においても大切で、手先を使う知的活動、知り合いと交流する社会活動も推奨されています。頭部の外傷を防ぐために、交通事故やスポーツ中の安全対策も必要です。

てんかん発作を予防するには、抗てんかん薬の規則的な服薬、ストレスや睡眠不足とならない生活リズムを守ることも、てんかん発作を起こさせないためには大切です。

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