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田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

手根管症候群の概要

腕には正中(せいちゅう)神経、橈骨(とうこつ)神経、尺骨(しゃっこつ)神経という3種類の主要な神経が走行しています。
また、手根管(しゅこんかん)とは字のごとく手首にある狭いトンネルを指し、正中神経と9本の屈筋腱(指を曲げるためのスジ)が納まっています。
手根管症候群とはこの手根管の部分で正中神経が圧迫されることで、手や指に痛みやしびれを引き起こす病態を言います。
手首より先における正中神経の支配(神経が張り巡らされている範囲のこと)ですが、
①感覚
母指(おや指)、示指(人指し指)、中指(なか指)、環指(くすり指)橈側(親指側)の掌側(てのひら)を司ります。
②運動
母指球(母指の付け根にある膨らんだ部分)にある短母指外転筋(たんぼしがいてんきん)に繋がり、母指を内側に倒し、ものを掴んだり摘まんだりする動作に関わります。

これら①②が障害される状態を「手根管症候群」と称します。

手根管症候群の原因

正中神経が挟まる、圧力が加えられ神経における電気活動が妨げられることで手根管症候群の症状を呈します。
手根管の掌側は屈筋腱が脱臼しないようにするための横手根靭帯(おうしゅこんじんたい)で構成されていますが、これが肥厚することで正中神経の周囲にゆとりが無くなり障害を受けます。
手根管症候群にはさまざまな原因が考えられています。

手の使いすぎ

手を頻繁に使う職業や、毎日家事に追われる方などさまざまですが、手を閉じたり開いたりすることで刺激され橫手根靭帯が肥厚すると言われています。また短掌筋(たんしょうきん)という橫手根靭帯の近くの筋肉が発達しすぎることも原因の一つと言われています。

骨折やスポーツによる怪我

怪我をした事で手首の形が変わってしまい、手根管が狭くなることがあります。これも正中神経が圧迫される原因となります。

特発性

原因不明なものです。妊娠・出産期や更年期の女性に多いという特徴があります。女性ホルモンのバランスが崩れることで手根管内を走行する腱が浮腫んでしまい、圧力が高まることで正中神経が障害されると考えられています。しかしこれは未だにはっきりとは証明はされていません。

透析

透析で除去しにくいβ2ミクログロブリンというタンパク質が体内に溜まりアミロイドという物質を作ります。これが屈筋腱や橫手根靭帯に付着することで手根管内が狭くなり、正中神経が圧迫されます。
そのほか、糖尿病や甲状腺機能低下症、また遺伝的素因も指摘されています。

手根管症候群の前兆や初期症状について

手根管症候群の初期は、夜間や起床時に手や指にしびれや痛みを感じることが多い傾向にあります。
母指、示指から始まり中指、環指と広がり、てのひらまでにも昼夜問わずしびれを感じるようになります。
短母指外転筋の筋力が低下することで掴んだり摘まんだりする動作が難しくなり、物を落としてしまうという事に悩まされます。
手根管症候群の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、整形外科です。手根管症候群は手の神経圧迫による症状であり、整形外科で診断と治療が行われています。

手根管症候群の検査・診断

手根管症候群の診断には、症状や痛みしびれの推移と身体診察により判断します。
しびれの範囲を患者さんから問診し、手や指の動きを観察します。
怪我が原因である場合もあるため、単純X線撮影には『手根管撮影』という特殊な撮影方法もあります。
徒手検査は一般的に、正中神経を圧迫することで感覚異常を誘発するか否かを確認するために行います。

Tinel sign(ティネル徴候)

打腱器で神経が圧迫されている部位をたたくと、それ以遠にしびれが放散する事を確認する検査です。手根管症候群の場合、手根部(手首の掌側)を叩く事で母指や示指などに鋭いしびれが響くことを確認します。

Phalen test(ファーレンテスト)

両側の手首を掌側に曲げながら手の甲を合わせ、10-30秒押し付けあいます。これによって手根管が圧迫され母指や示指のしびれなど正中神経の症状を誘発します。手根管症候群ではない場合はしびれを生じません。

Carpal Tunnel Compression test(手根管圧迫テスト)

手根管症候群だと疑う場合、手根部を10-30秒ほど指で強く圧迫します。Phalen testと同様に、手根管内圧が高い場合は母指や示指にしびれを生じます。
次に、指の動作、短母指外転筋が正常に働いているかを確認します。

Perfect O sign(パーフェクトオーサイン)

母指と示指の指先を合わせてきれいな丸、アルファベットのOを作ってもらいます。正中神経が障害されていると短母指外転筋が正常に働かないため母指がしっかり広がらず、潰れた丸しか作れません。
確定診断には神経伝導速度検査を行います。
神経の表面はナトリウムイオンとカリウムイオンの交換によって微弱な電気が流れています。
専用の装置で刺激することで神経での電気の流れる速度を計測することができます。

神経伝導速度検査

母指球部に電極を貼り付けます。肘関節部、手関節部、手根部、と刺激を行います。刺激部と電極部の距離と実際に電気が流れるのにかかった時間から速度が計算されます。手根管で正中神経が圧迫されているので、いずれの検査でも異常値が現れますが、手根部での刺激が正常値と比較して最も低下した結果が得られます。

手根管症候群の治療

保存療法と手術療法があり、症状に合わせて治療方針を組み立てます。

保存療法

症状が軽度な方、妊婦、手術を希望しない方は保存療法が選択されます。サポーターを装着し手首を休ませることや手根部を温めることが勧められます。また、ビタミンB12の内服、ステロイド注射なども行います。

手根管開放術

保存療法で改善を認めない場合、手根管開放術という手術を行います。メスなどで橫手根靭帯を切り開き、正中神経の圧迫を解除します。施設によって異なりますが、通常は日帰り手術です。

母指対立再建術

母指と示指や中指とがものを摘まむように向き合う事を『対立』といいます。短母指外転筋が萎縮してしまい母指がうまく使えない不便さを感じる場合には腱移行による対立再建術を行います。この手術は入院を要することが多い傾向にあります。

手根管症候群になりやすい人・予防の方法

手根管症候群になりやすい人は、デスクワークや繰り返し手を使い手首にストレスがかかる方、妊娠中や産後、更年期などホルモンバランスが崩れやすい時期の女性、透析患者や糖尿病患者、などがなりやすいでしょう。
予防の方法としては、手首に負担をかけない作業環境の整備や適度な休憩、ストレッチ、正しい姿勢の保持が推奨されます。
疾患を有している方の予防法は明らかではありませんが、違和感を覚えた際には早期に受診することを勧めます。

参考文献

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