

監修医師:
勝木 将人(医師)
くも膜下出血の概要
くも膜下出血とは、脳を包む硬膜・くも膜・軟膜の3つの層のうち、くも膜と軟膜の隙間にある、くも膜下腔に出血が生じることです。
くも膜下出血を発症すると、突然バットで殴られたかのような非常に激しい頭痛に見舞われ、吐き気や嘔吐を生じ、場合によっては意識を失うこともあります。迅速な治療が求められる緊急事態であり、適切な対処を怠ると生命の危険に直面する可能性があります。
年代別では40歳以降の中高年に発症が多く、特に、高血圧や動脈瘤、家族歴などのリスク要因を持つ人は注意が必要です。ただし、若年層でも発症することがあるので他人事ではありません。また、男性よりも女性に多く発症が見られ、発症率は年齢とともに増加します。
くも膜下出血の原因
くも膜下出血の原因は、8~9割が脳動脈瘤の破裂とされています。脳動脈瘤とは、くも膜下腔にある動脈の一部が風船のように膨らんだ状態のことで、非常に壁が薄いため、血圧が一時的に上昇した時などに破裂するリスクが高まります。破裂すると動脈の血液がくも膜下腔に流れ込み、くも膜下出血を発症します。
喫煙や過度な飲酒などで生活習慣が乱れている人や高血圧の人は、血管に過度な負担をかけているため注意が必要です。喫煙は動脈壁にダメージを与え、動脈瘤の形成を促進します。また、飲酒は血圧を上昇させ、動脈瘤の破裂リスクを増加させる可能性があります。長期間にわたる高血圧は動脈壁を弱め、動脈瘤の形成を促すことが明らかになっています。
くも膜下出血の原因として、脳動脈瘤の破裂の他に挙げられるのが、頭部外傷や血管奇形などです。頭部外傷とは、交通事故やスポーツなどで頭を強く打つこと。衝撃によって血管が損傷し、出血して、くも膜下出血に繋がることがあります。
血管奇形も、くも膜下出血の重要な原因の一つです。動静脈奇形(AVM)や海綿状血管腫など、生まれつき血管に奇形が見られる場合、血管がもろくて破れやすいため、若い世代でも突然の出血を引き起こすリスクがあります。
その他、糖尿病や高脂血症などの慢性疾患、過剰なストレス、運動不足なども、血管の健康を損ない、くも膜下出血の原因になると考えられています。
くも膜下出血の前兆や初期症状について
くも膜下出血の前兆としてよく言われることが、突然起こる軽い頭痛です。これは少量の出血が起きたことで生じる痛みとされており、大きな出血の前に起こることから「警告頭痛」とも呼ばれています。
一方で、くも膜下出血の初期症状として最も多いのが、バットで殴られたような突然の激しい頭痛です。この頭痛は「人生で最悪の頭痛」と表現されることが多く、突然発生し、吐き気や嘔吐を伴い、意識が朦朧とする・意識を失うといった意識障害、視力の喪失や一時的な視力の低下などの視覚障害、手足の麻痺や首のこわばり、言葉が出ないといった神経症状が生じることも少なくありません。これらの症状は、脳内出血による脳圧の上昇や神経への圧迫が原因で発生します。
くも膜下出血の致死率は高く、発症すると3割近くの人がそのまま命を落とすといわれており、適切な治療を受けないと約半数の患者さんが発症後、数週間以内に亡くなると言われています。また、治療を受けて生存した場合でも後遺症が残ることが多く、リハビリが必要となることもあり、発症する前とほぼ変わらずに社会復帰できるのは4人に1人とされています。くも膜下出血の初期症状が現れた場合は、一刻も早く適切な医療を受けることで重大な合併症を防ぐことができます。
くも膜下出血の検査・診断
くも膜下出血が疑われる場合、医師による状況の確認や身体診察を経た後、画像検査が行われます。
ひとつが頭部CTスキャンで、放射線を利用して身体の中を画像化する検査です。頭部CTスキャンは出血の有無を迅速に確認することができ、治療を早く始められるため、初期診断に非常に有用です。出血が確認された場合、出血の部分は白い五角形で映し出されます。また、造影剤を注射して行う血管造影検査(アンギオグラフィー)では、くも膜下出血の原因となる動脈瘤の位置や大きさ、形状を正確に把握することができる他、脳動静脈奇形を見つけることもできます。
MRI検査は、頭部CTスキャンでくも膜下出血とはっきり判断できなかった場合に行われます。脳の詳細な画像を提供し、出血の範囲や脳内の他の異常を確認するために使用されます。MRI検査は頭部CT検査に比べて詳しい情報を得られますが、時間がかかるため一刻を争う状況には向いておらず、全員に行われることはありません。
腰椎穿刺(ルンバール穿刺)も検査の一つとして行われることがあります。こちらも身体への負担が大きいため全員に行われる検査ではなく、他の検査でくも膜下出血を否定できない時にのみ行われます。この検査では背骨の間に針を刺して髄液を採取し、出血の有無を確認します。腰椎穿刺は、脳脊髄液中の赤血球や血性の変化を確認するためのものであり、くも膜下出血の確定診断に役立ちます。
診断が確定した後、患者さんの全体的な健康状態や既往歴、現在の症状などから総合的に個別の治療計画が立てられ、最適な治療が提供されます。
くも膜下出血の治療
くも膜下出血の治療は、「発症直後の再出血を予防する治療」「出血を起こした原因の治療」「リハビリ」の3つがあります。
まずは出血の原因となる動脈瘤を修復します。くも膜下出血は最初の出血の後、再度出血することで知られており、出来る限り防ぐ必要があります。そのためまずは安静にし、麻薬性鎮痛剤で痛みを抑えます。そして再び血圧が上がって血管が破裂しないよう、血圧を適正な値に保ちます。さらに脳の周りの圧力が上昇すると脳にダメージが与えられるため、脳の周りにある髄液を減らして頭蓋骨内の圧力をコントロールします。
脳動脈瘤が破裂していると診断された場合は、再出血を防ぐために脳動脈瘤の治療を行います。治療は発症から72時間以内に行われることが望ましいとされていますが、治療は身体に大きな負担がかかるため、全身状態が治療に耐えられると判断されたときにのみ行われます。
クリッピング術では、頭を開いて破裂した脳動脈瘤の根元を、洗濯ばさみのような医療用クリップで閉じて血流を遮断します。
コイル塞栓術はカテーテル治療で、足の付け根の血管から挿入したカテーテルを脳の血管まで到達させて治療を行います。カテーテルで動脈瘤内にプラチナ製のコイルを詰め、血流を遮断する方法です。頭を開く必要がないので、体への負担が軽くて済むことが特徴です。
手術とカテーテル治療、どちらを選ぶかは患者さんの身体の状態によって異なります。脳動脈瘤のサイズが大きくて根元が広がっている場合は、手術を。脳動脈瘤が脳の奥にある場合や、身体が手術に耐えられない場合には、カテーテル治療が選択されます。
そして、くも膜下出血後のリハビリも重要な治療の一環です。くも膜下出血が起こると、脳細胞が死んでしまい、手足の麻痺やしゃべりにくいなどの症状が現れます。脳細胞は一度死んでしまうと、元に戻ることはありません。新しい身体の動かし方を、脳に学習させることが必要になります。「歩く」「起きる」「座る」といったことから、「食事する」「文字を書く」「着替えをする」といったことまで、一人一人の後遺症に合わせて、患者さんが日常生活に戻るための支援が行われます。
くも膜下出血になりやすい人・予防の方法
くも膜下出血のリスクを高める要因には、高血圧、喫煙、過度の飲酒、家族歴などがあります。特に高血圧は動脈瘤の形成や破裂のリスクを大きく増加させるため、血圧管理が重要です。
予防のためにはまず、生活習慣の見直しが必要です。喫煙をやめ、適度な運動を取り入れることが推奨されます。また、バランスの取れた食事を心がけ、ストレスをためすぎないことも効果的です。
さらに、定期的な健康診断を受けることで、早期にリスク要因を発見し、適切な対策をとることができます。くも膜下出血は遺伝との関係も指摘されているので、家族にくも膜下出血の既往がある場合は、医師と相談しながら適切な予防策を取ることが重要です。
参考文献




