

監修医師:
林 良典(医師)
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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
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目次 -INDEX-
腸管ベーチェット病の概要
腸管ベーチェット病(intestinal Behçet's disease;腸管BD)は、全身性炎症性疾患であるベーチェット病(BD)の特殊型のひとつであり、主に回盲部に円形または類円形の深掘れ潰瘍を認める疾患です。 BDは1937年、トルコ人皮膚科医Behçetによって初めて報告され、再発性口腔アフタ、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍の4主徴が特徴とされます。 腸管BDは全BD患者さんの3〜16%にみられ、日本では指定難病に指定されています。特徴的な腸管病変により、穿孔や大量出血を引き起こす危険があり、重症例では生命予後に影響する場合もあります。腸管ベーチェット病の原因
原因と発症機序
腸管ベーチェット病の正確な原因は不明ですが、遺伝的素因(特にHLA-B51陽性)と環境因子(感染症など)が関与していると考えられています。 免疫異常により腸管粘膜の過剰な炎症が引き起こされ、潰瘍形成に至ると考えられています。発症しやすい地域
トルコ、中東、東アジア(中国、日本など)のシルクロード地帯で高頻度にみられる一方、北米や北ヨーロッパではまれです。腸管ベーチェット病の前兆や初期症状について
初期症状
腸管ベーチェット病の初期症状は、潰瘍の位置や進行度によりさまざまですが、特に以下の症状がみられることが多いです。右下腹部痛
回盲部(小腸と大腸の接合部)に潰瘍が形成されることで、持続的な右下腹部の痛みを訴えることがよくあります。痛みは鈍痛から鋭い痛みまで幅広く、食後に増悪する場合もあります。下血やタール便
潰瘍から出血することで、鮮血便や暗赤色のタール便が出現することがあります。大量の下血を伴う場合は、緊急対応が必要となることもあります。発熱、体重減少
持続する腸管炎症のため、原因不明の発熱や、短期間での体重減少を認めることがあります。特に、体重減少は病態の進行サインとして重要です。消化管穿孔や腹膜炎
潰瘍が深掘り型のため、腸壁を突き破る穿孔に至ることがあり、急激な腹痛、腹膜刺激症状(反跳痛)を呈します。穿孔は命に関わるため、迅速な診断と手術が必要です。 このように、腸管ベーチェット病は軽度の腹痛から始まることもあれば、急速に重篤な合併症へ進展することもあり、症状の変化には細心の注意が必要です。受診する診療科目
腸管ベーチェット病が疑われる場合、受診すべき診療科は以下のとおりです。消化器内科
腸管病変の評価と治療を担当します。血液検査や内視鏡検査(大腸カメラ)を用いて、潰瘍の状態を正確に把握します。膠原病内科・リウマチ科
全身型ベーチェット病の管理を要する場合や、消化管以外(皮膚、眼、関節など)にも症状がある場合は、膠原病内科・リウマチ科との連携が必要になります。特に診断初期や難治例では、総合的な管理が求められます。腸管ベーチェット病の検査・診断
診断基準
腸管BDは下記が必要です。- ベーチェット病の診断基準(完全型・不全型)を満たすこと
- 回盲部を中心とした円形または類円形の深掘れ潰瘍を内視鏡やX線造影で確認すること
- 他疾患(急性虫垂炎、クローン病、腸結核など)を除外すること
検査内容
腸管ベーチェット病を診断するためには、複数の検査を組み合わせて総合的に評価する必要があります。血液検査
- 炎症反応(CRP、血沈):活動性の指標となり、CRPの持続的上昇が認められることが多いです
- 貧血の有無:下血や慢性炎症による鉄欠乏性貧血を認めることがあります
- 栄養状態:アルブミンや総蛋白などを確認し、慢性炎症に伴う低栄養状態を把握します
内視鏡検査(大腸カメラ)
回盲部から盲腸、大腸全域を観察します。腸管ベーチェット病に特徴的な境界明瞭な円形または類円形の深掘り潰瘍が回盲部に見られることが診断の大きな手がかりになります。 潰瘍の数、大きさ、深さを詳しく評価し、狭窄や瘻孔形成がないかも確認します。消化管造影検査
造影剤によって、小腸や回盲部の狭窄、瘻孔、穿孔などを視覚的にとらえることが可能です。内視鏡が通過できない場合や、小腸の全体像を把握したい場合に有用です。CT・MRI検査
腸壁の肥厚、周囲組織への炎症波及の有無を評価できます。CTは緊急時(穿孔・腹膜炎疑い時)に迅速な診断が可能です。 MRI(特にMRエンタログラフィー)は、放射線被ばくなく腸管病変を詳細に評価できるため、若年者では特に有用とされています。 これらの検査を組み合わせて、消化管病変の性状と広がりを把握し、ほかの疾患との鑑別も行っていきます。腸管ベーチェット病の治療
寛解導入療法
- 軽症例:5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、サラゾスルファピリジン
- 中等症例:副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)
- 重症例・既存治療抵抗例:抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ)
寛解維持療法
- 5-ASA製剤継続投与
- チオプリン製剤(アザチオプリン、6-メルカプトプリン)
- 抗TNFα抗体薬の継続
その他の治療
- 栄養療法(成分栄養)
- 難治例にはタクロリムスなどの免疫抑制剤も試みられる
外科手術
穿孔、大量出血、瘻孔形成、高度狭窄など、生命を脅かす合併症では手術が必要になります。ただし、術後再発率も高いため、できるだけ腸切除は小範囲にとどめる工夫がなされています。腸管ベーチェット病になりやすい人・予防の方法
なりやすい人
- HLA-B51陽性者
- ベーチェット病患者(特に口腔内アフタ、外陰部潰瘍を持つ)
- 20〜40歳代の発症が多い傾向
予防の方法
現時点で確立された予防法はありません。 ただし、ベーチェット病と診断されている場合には、腹痛や下血などの消化器症状が出現した際に早期に対応することで、重症化を防ぐことが重要です。 また、すでに腸管病変がある患者さんでは、適切な内科治療とフォローアップによって再発を防ぐ努力がなされています。参考文献
- 久松理一:全身性疾患における腸管病変─腸管ベーチェット病とその鑑別疾患 INTESTINE 2019 Vol.23 No.6
- 小林清典ほか:腸管ベーチェット病と単純性潰瘍 INTESTINE 2014 Vol.18 No.6
- 西田大恭:腸管ベーチェット病 小児科 2024 Vol.65 No.7
- 谷田諭史:全身性疾患における腸管病変─腸管ベーチェット病とその鑑別疾患 INTESTINE 2019 Vol.23 No.6




