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伊藤 喜介

監修医師
伊藤 喜介(医師)

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名古屋卒業後、総合病院、大学病院で経験を積む。現在は外科医をしながら、地域医療に従事もしている。診療科目は消化器外科、消化器内科。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本腹部救急医学会認定医、がん治療認定医。

輸入脚症候群の概要

輸入脚症候群とは、胃・食道と空腸(小腸)をつなぎ合わせる手術後に発生するまれな合併症の一つです。胃切除術のビルロートII法再建後に発生することが多いといわれていますが、胃切除術Roux-en-Y再建後や、膵頭十二指腸切除術後などにおいても発生することがあります。

ビルロートII再建においては、輸入脚は十二指腸断端、十二指腸、そして胃空腸吻合部の近位側にある短い空腸から構成されます。Roux-en-Y再建では、輸入脚は十二指腸断端、十二指腸、そして空腸-空腸吻合部の近位側にある短い空腸から構成され、いずれもよく似た構造を呈しています。

輸入脚 は胆汁、膵液、近位小腸からの分泌液を吻合部へと運搬します。吻合部より肛門側の部分は輸出脚と呼び、摂取された食物や水分を受け取り、消化管の下流へと送ります。 輸入脚症候群 とは、輸入脚の遠位部に閉塞が生じることで胆汁、膵液、および近位小腸分泌液が輸入脚内に貯留し、腸管の拡張が引き起こされる結果、さまざまな障害を起こす病態となります。

また、輸入脚症候群は治療せず放置していると、輸入脚で腸内細菌が異常増殖した結果吸収障害を呈する盲係蹄症候群(盲管症候群)を起こしたり、輸入脚内圧の上昇に伴い胆汁や膵液がうっ滞することで急性胆管炎や急性膵炎を起こしたりすることがあります。そのため、早期診断や早期の治療介入が重要となります。

輸入脚症候群の原因

先ほども示したとおり、輸入脚症候群の原因は輸入脚の遠位部に閉塞が生じることとなります。輸入脚を閉塞させる原因を以下に示していきます。

がんの再発(転移)

吻合部付近に再発したがんや、リンパ節や腹膜転移を起こしたがんが腸を巻き込むことで閉塞を起こします。

腸管の癒着

手術後は腸同士などが癒着することがあります。癒着によって輸入脚が屈曲したり、捻じれたりすることで閉塞を起こします。

内ヘルニア

手術によっておなかの中に間隙ができることがあります。その間隙に輸入脚が入り込むことで閉塞を起こします。

瘢痕、潰瘍などの炎症による狭窄

輸入脚の吻合部の治癒過程や、潰瘍ができたりした場合にはその後狭窄を起こすことがあります。流れが悪くなった結果、輸入脚の内圧が上昇します。

食物

輸入脚に食べ物が流入(逆流)することで蓋をしてしまい閉塞を起こします。胃切除術後のビルロートII再建では発生リスクが高くなります。

その他

ほかにも腸重積、胆石などにより輸入脚の閉塞が起こることがあります。

輸入脚症候群の前兆や初期症状について

輸入脚症候群は手術の直後に発症する急性期のものと、手術後ある程度時間が経過してから起こる慢性期のものに分けられます。それぞれ症状は異なるため、分けて解説します。

手術の直後から発生する急性期の輸入脚症候群では、突然発生する嘔吐と腹痛がみられます。痛みは上腹部〜右上腹部に局在することが多く、拡張した輸入脚自体を上腹部に触れる場合もあります。閉塞が進行して腸管が壊死・穿孔すると腹膜炎や敗血症性ショックに陥り、重篤な状態となります。

慢性期の輸入脚症候群は手術から数ヶ月~数年後に発症し、症状は急性期に比べて穏やかとなります。食後しばらくしてからお腹が張って痛くなり、胆汁を含む嘔吐をすると症状が改善することを繰り返します。これは食後に胆汁・膵液が輸入脚に貯留することで症状を引き起こし、一定の圧力に達すると内容が残胃へ逆流して嘔吐されることで輸入脚が減圧されるためです。慢性期の方でもときに急性増悪することもあるため注意が必要です。

胃切除後の方でこれらのような症状が見られた場合には外科(消化器外科)、消化器内科あるいは救急外来を受診いただくことをおすすめします。

輸入脚症候群の検査・診断

症状から輸入脚症候群を疑うような場合には以下のような検査を行います。診断やほかの類似するような症状を呈する疾患との鑑別には画像検査が何よりも重要となります。

採血

採血では炎症反応や腎機能、肝機能などを確認します。感染や、脱水の程度を確認します。輸入脚症候群では、輸入脚の内圧が上昇した結果、胆管内圧の上昇をきたし、黄疸を呈することがあります。

腹部超音波検査

外来や病室にて簡便に行うことができる検査です。拡張した輸入脚や腹水の貯留を確認することができます。黄疸を呈するような場合には肝内胆管の拡張も確認することができます。

腹部造影CT検査

輸入脚症候群の診断にもっとも有用な検査となります。拡張した輸入脚を確認できるうえに、閉塞を起こしている部位や閉塞の原因を確認することができます。また、造影剤を使用することで腸管の血流不全の評価も同時に行うことができます。

輸入脚症候群の治療

輸入脚症候群の治療は発生する原因によって異なってきますが、大きく保存治療、内視鏡的治療、手術治療に分けられます。

保存治療

全身状態が落ち着いている場合には保存治療が選択されます。拡張した輸入脚の減圧目的に経鼻胃管もしくはイレウス管を挿入します。また、脱水となっている場合が多いため点滴による補正を行います。さらに、感染を伴っている場合には抗生剤を投与します。 保存治療で改善が見られない場合にはほかの治療へと進んでいきます。

内視鏡的治療

患者さんが手術に耐えられない場合や、閉塞(狭窄)部に内視鏡(胃カメラ)でアプローチ可能である場合に選択されます。閉塞部位をバルーンステントを用いて拡張することで輸入脚を減圧します。

手術治療

輸入脚の閉塞を解除するためには手術治療が効果的な治療方法となります。手術の細かな方法については閉塞の原因、本人の全身状態などによって異なります。 例えば癒着剥離腫瘍の切除再吻合などでは、閉塞の原因を直接的に除去することができます。また、拡張した輸入脚と輸出脚を吻合して新たな消化管の排出経路を作成するバイパス手術を行うこともあります。

輸入脚症候群になりやすい人・予防の方法

輸入脚症候群は、輸入脚が形成されるような手術を受けた方となります。胃や膵臓など、上部消化管の手術を受けた方は注意が必要です。特に、胃切除後ビルロートII再建を行った方では、大量の食事が輸入脚に流入することで閉塞をきたすことがあるため、食事の摂取量には注意していただく必要があります。 また、輸入脚症候群で、感染や腸管の血流障害を起こした場合には重篤な状態となる可能性があります。輸入脚症候群になる可能性がある方は、腹痛や嘔吐といった症状が見られた際に早めに病院を受診し検査を受けることがすすめられます。

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参考文献

  • 医学書院 専門医のための消化器病学 第3版
  • 医学書院 標準外科学 第17版

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