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和田 蔵人

監修医師
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)

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佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。

好酸球性消化管疾患の概要

好酸球性消化管疾患は、食道や胃・腸など消化管に好酸球という白血球の一種が異常に集まって炎症を起こす病気です。 好酸球は普段、体内でアレルギー反応や寄生虫感染の際に増える免疫細胞ですが、この疾患では消化管の粘膜に好酸球が慢性的に蓄積し、消化管の正常な働きが妨げられてしまいます。炎症が起こる部位によって、食道のみの場合は好酸球性食道炎、胃や腸にも炎症が及ぶ場合は好酸球性胃腸炎と呼ばれます。

患者数は少なく、国内では好酸球性食道炎の成人患者さんが約1万人に2人、小児では報告例が十数人程度と推測されています。一方、好酸球性胃腸炎は日本で報告が多く、数百人規模の患者さんがいると推定されています。いずれのタイプもアレルギー体質の方に生じやすく、近年は世界的に患者数が増加傾向にあることが知られています。

好酸球性消化管疾患の原因

好酸球性消化管疾患は、明確な発症メカニズムが完全には解明されていないものの、多くの場合はアレルギー反応が関与すると考えられています。つまり、特定の食物などに対する免疫の過剰反応によって好酸球が消化管に集まって炎症を起こす食物アレルギーの一種ととらえることができます。実際に、原因となりやすいアレルゲンとしては、小麦製品、牛乳、大豆、ナッツ類、卵、魚介類などが代表的です。これらの食品はアレルギーを起こしやすいことが知られ、好酸球性消化管疾患の患者さんでもしばしば症状悪化の引き金となります。

また食物以外にも、花粉やハウスダスト、カビの胞子など環境中のアレルゲンが関与する例も報告されています。ただし、患者さんごとにどの抗原が原因かは異なり、明確に特定できない場合も少なくありません。なお、この病気は遺伝的な要因よりも環境要因の影響が強いと考えられていますが、好酸球性食道炎は家族内で発症することもあるため、ごく一部に遺伝的素因も示唆されています。

好酸球性消化管疾患の前兆や初期症状について

症状は炎症が起こる部位によって異なります。食道に炎症がある場合は、初期には喉や胸のあたりに食べ物が引っかかる感じや軽い嚥下障害などが見られます。小児ではミルクや食事を嫌がったり、哺乳不良や嘔吐が初発症状となることもあります。進行すると食後に強い胸やけや胸痛、固形物が飲み込みにくい状態になり、最終的には食べ物が食道に詰まるような重症例もあります。

一方、胃や腸に炎症が及ぶ場合は、腹痛や嘔吐から始まり、下痢が続いたり食欲不振になります。初期には胃もたれ程度の軽い不調や断続的な腹痛など非特異的な症状のこともありますが、やがて下痢や血便、体重減少など栄養吸収障害の症状が現れることがあります。乳児ではミルクアレルギーによる激しい嘔吐・下痢という形で発症し、体重増加不良などで気付かれる例もあります。いずれの場合も、これらの症状が繰り返し現れ長引くようであれば、早めに専門医を受診することが大切です。

受診すべき診療科目は、成人であれば消化器内科(胃腸科)、子どもの場合は小児科が適切です。特に、飲み込みにくい、胸やけが続くなどの症状により食事が十分取れないような場合には、我慢せず医療機関を受診しましょう。

好酸球性消化管疾患の検査・診断

診察ではまず症状の経過やアレルギー歴を詳しく問診し、血液検査などを行います。血液検査では血中の好酸球増多が見られます。血液中のIgE抗体(アレルギー検査)値が高くなることもありますが、これらの所見が正常範囲でも本疾患を否定はできません。また腸の炎症が強い場合にはCRPなど炎症反応が高値となることもあります。

確定診断のためには内視鏡検査による消化管粘膜の観察と生検が欠かせません。上部消化管内視鏡では食道や胃の粘膜を直接観察でき、好酸球性食道炎では白い斑点状の滲出物や縦に走る溝、輪状のひだや狭窄などの特徴的な所見がみられることがあります。大腸の症状があれば下部消化管内視鏡も行います。内視鏡検査の際に数ミリ大の組織片を採取し、顕微鏡で調べると、炎症部位の粘膜に通常よりはるかに多い好酸球が浸み込んでいることが確認されます。

病理組織学的にの基準を超える好酸球浸潤が認められ(食道では高倍率視野あたり15個以上)、かつ症状で説明できる場合に好酸球性消化管疾患と診断されます。なお、診断にあたってはほかの疾患を除外することも重要です。例えば、寄生虫感染症や潰瘍性大腸炎などでも好酸球が増加することがあるため、便検査や血液検査でそれらの可能性がないか確認します。

好酸球性消化管疾患の治療

現時点でこの病気そのものを根本的に完治させる特効薬はありませんが、適切な治療によって症状をコントロールし、日常生活を問題なく送ることは可能です。治療の柱は食事療法と薬物療法になります。

食事療法

アレルゲンとなっている食品が判明している場合は、それを避ける除去食が有効です。例えば、牛乳や卵、小麦など特定の食品を除いた食事を続けることで症状が改善し、炎症が治まることがあります。また、原因が特定できなくても、アレルギーを起こしやすい食品を広範囲に除去する低アレルゲン食が試みられることもあります。重症例や小児では、アレルギー反応を起こしにくいアミノ酸ベースの特殊ミルク(元素療法食)に置き換える治療も行われます。ただし、食事療法は栄養バランスに注意が必要なため、医師や管理栄養士の指導のもとで行います。

薬物療法

症状や炎症を抑えるための薬物療法は段階的に行います。まずプロトンポンプ阻害薬(PPI)と呼ばれる胃酸の分泌を抑える薬が、特に好酸球性食道炎で多く使われます。PPIは胃酸による粘膜刺激を減らすだけでなく、何らかの抗炎症作用で好酸球性食道炎の患者さんに有効であることが知られています。 次にステロイド薬は強力な抗炎症作用があり、食道・胃腸いずれのタイプでも中等症以上ではよく用いられます。食道炎の場合、気管支喘息の吸入薬であるステロイド吸入剤を喉にスプレーしてから飲み込む嚥下ステロイド療法を行うと、全身への副作用を抑えつつ食道の炎症を改善できることがわかっています。胃腸に広い炎症がある場合や症状が重い場合はステロイドの内服(全身投与)が必要です。ステロイドで十分な効果が得られない場合やステロイド依存性の場合には、免疫抑制剤(アザチオプリンなど)が併用されることもあります。

免疫の働きを部分的に抑えることで好酸球の集積を防ぐ狙いがありますが、副作用もあるため専門医の管理下で用います。近年では難治例に対し、生物学的製剤による新しい治療法の研究も進んでおり、好酸球の働きを抑える抗体薬などが試験的に導入されつつあります。これらの薬物療法により多くの患者さんで症状が改善しますが、食道が狭く固くなってしまったケースでは内視鏡での拡張術を行い、食べ物の通り道をバルーンで広げる処置が必要になることもあります。

好酸球性消化管疾患になりやすい人・予防の方法

好酸球性消化管疾患になりやすい方としては、背景にアレルギー素因を持つ方が挙げられます。実際、好酸球性食道炎や胃腸炎の患者さんでは、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど何らかのアレルギー疾患を合併している場合が多く報告されています。家族内発症の例もあるため、血縁者に同様の病気の方がいる場合は注意が必要です。さらに、乳児期に重い食物アレルギーがあった子どもでは、その後成長してから好酸球性胃腸炎を発症するケースもあります。

そして、残念ながら、現時点で好酸球性消化管疾患そのものを完全に予防する確立された方法はありません。しかし、アレルギーが主な誘因となることから、日頃からアレルギー対策を心がけると安心です。具体的には、自分が食物アレルギーを持っている場合は原因食品を避ける、花粉症など環境アレルギーがある場合はその季節に注意する、それらへの曝露を減らすといった対策が有効です。

加えて、バランスのよい食事や十分な休養など健康的な生活習慣も身体全体の免疫バランスを保つうえで役立つでしょう。もしご自身や家族がアレルギー体質で、将来の発症が心配な場合には、定期的に健康チェックを受けたり消化器症状に注意を払ったりすることで、万一発症しても早期発見・治療につなげることができます。普段から主治医に相談し、正しい知識に基づいて備えておくことが予防につながるといえます。

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