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食道非上皮性腫瘍
長田 和義

監修医師
長田 和義(医師)

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2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

食道非上皮性腫瘍の概要

食道の壁は、内側から順に粘膜、粘膜下層、筋層、外膜の4つの層で構成されています。食道非上皮性腫瘍は食道に発生する腫瘍のうち、食道の内腔を覆う粘膜(上皮)以外の組織から発生する腫瘍を指します。すなわち、腫瘍は粘膜下層や筋層から発生しており、粘膜の下に腫瘍が存在する特徴から、粘膜下隆起性病変、あるいは粘膜下腫瘍という呼ばれ方をします。

表面の粘膜は正常ですが、腫瘍からの圧排や浸潤などによる変化がみられる場合があります。これらの腫瘍は、発生する組織の種類や性質により、良性のものと悪性のものがあり、形態や臨床経過が異なります。​

いわゆる食道がんは上皮から発生した腫瘍であり、非上皮性腫瘍は悪性であっても食道がんとは異なります。 ​食道非上皮性腫瘍には、主に下記のような種類があります。

平滑筋腫(へいかつきんしゅ)

​食道の非上皮性腫瘍のなかで、特に多くを占めます。神経鞘腫やGISTとともに、間葉系腫瘍といわれるもののひとつです。平滑筋腫は、食道の筋層を構成する平滑筋から発生する良性腫瘍ですが、ごくまれに悪性の平滑筋肉腫が報告されています。

肉眼的には、白色調で平滑なドーム状の粘膜下隆起性病変を呈します。サイズは小さい場合がほとんどで、基本的には無症状です。ただし、サイズが大きくなった場合は嚥下困難などの症状を引き起こすことがあります。​また、悪性の平滑筋肉腫の場合には、周囲への浸潤やほかの臓器への転移により命に関わることがあります。

神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)

平滑筋腫と同様に、間葉系腫瘍といわれるもののひとつです。神経鞘腫は神経系のSchwann(しゅわん)細胞から発生する腫瘍で、頭頚部や四肢に発生することが多く、食道を含む消化管に発生することはまれです。消化管のなかでは、胃に多いと報告されています。

大半は良性ですが、ごくまれに転移をきたす悪性神経鞘腫の報告もあります。サイズが小さい場合は無症状ですが、大きくなれば嚥下困難などの症状を呈します。肉眼的な特徴は平滑筋腫と同様であり、区別は難しいです。

GIST(じすと)

GIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)は、平滑筋腫と同様の間葉系腫瘍の一種ですが、悪性腫瘍です。GISTは消化管のうち胃に発生することが多く、食道に発生することはまれです。 肉眼的には平滑筋腫と同様ですが、増大して周囲に浸潤すると、腫瘍の表面に潰瘍を作ることもあります。サイズが大きければ嚥下困難などの症状を呈したり、ほかの臓器に転移して命に関わる可能性があります。

顆粒細胞腫

神経鞘腫と同様に、粘膜下のSchwann細胞から発生した腫瘍です。大半は良性で緩やかに増大しますが、悪性の症例も報告されています。 肉眼的には、黄白色調で奥歯のような形態(臼歯状)をとることが特徴です。

悪性リンパ腫

リンパ組織から発生する悪性腫瘍であり、食道を含む消化管に病変が発生する場合があります。リンパ腫の種類により経過が異なりますが、​全身のリンパ節腫大や発熱、体重減少などの全身症状を伴うことがあり、進行すれば命に関わる場合があります。

その他

その他、脂肪腫やfibrovascular polypなどが報告されていますが、極めてまれです。

食道非上皮性腫瘍の原因

食道非上皮性腫瘍の原因は、腫瘍の種類によって異なります。​ しかし、いずれも明確な原因はわかっていません

食道非上皮性腫瘍の前兆や初期症状について

多くの食道非上皮性腫瘍は、腫瘍のサイズが小さい場合には無症状で、内視鏡検査などで偶然発見されることが多いです。 腫瘍のサイズが大きくなると、嚥下困難感や胸部圧迫感などの症状が現れることがあります。これらのような症状で、患者さん自身が食道非上皮性腫瘍を疑って医療機関を受診するケースはあまりないと考えられます。一般的に嚥下困難感が続く場合は、消化器内科で内視鏡検査を受けることがすすめられます。

食道非上皮性腫瘍の検査・診断

食道非上皮性腫瘍の検査・診断には、以下のような方法が用いられます。

上部消化管内視鏡検査

いわゆる胃カメラです。食道・胃・十二指腸の観察が可能です。​食道非上皮性腫瘍は、内視鏡検査で発見されることが多いです。腫瘍を認める場合、形態の特徴や大きさなどを評価します。​ 必要に応じて、専用の鉗子(かんし)で腫瘍をつまんで組織を採取する、生検を行うことがあります。採取した組織を染色し、病理専門の医師が診断します。しかし、非上皮性腫瘍は正常な上皮で覆われているため、診断に必要な腫瘍の組織が得られないこともあります。

超音波内視鏡検査

先端に超音波(エコー)が付いた特殊な内視鏡を用い、粘膜の下に存在する腫瘍を評価できます。また、超音波内視鏡から専用の穿刺針を使って、腫瘍の組織を採取することも可能です。ただし、穿刺針による生検は腫瘍のサイズが小さい場合には困難です。

画像検査

造影CTやMRI、PET-CTなどの画像検査で、腫瘍の形態、サイズ、性状、また悪性腫瘍の場合は周囲への浸潤や転移の有無などを評価します。 また、レントゲンで撮影する胃透視検査を行うことで食道非上皮性腫瘍の位置や形状、通過障害の有無などを評価します。

食道非上皮性腫瘍の治療

食道非上皮性腫瘍の治療法は、腫瘍の種類や大きさ、症状の有無、患者さんの全身状態などを考慮して決定されます。​一般的な治療法には以下のようなものがあります。

経過観察

腫瘍のサイズが小さく無症状である場合、特に頻度が高い平滑筋種として矛盾ない初見(見た目)の場合は、治療の必要はありません。定期的な内視鏡検査で、腫瘍に変化がないか再評価をすすめられる可能性はあります。

内視鏡的切除

顆粒細胞腫は緩徐に進行しますが悪性疾患であり、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で切除します。 サイズが大きな平滑筋種などにより症状が強い場合は、経口内視鏡的粘膜下腫瘍喀出術(POET)で治療する場合があります。しかし、この治療は高度な技術を要するため、可能な医療機関は限られます。また、通常は悪性腫瘍には適応されません。

外科的切除

良性腫瘍でもサイズが大きく​症状がある場合、悪性腫瘍の疑いがあるか確定診断された場合には、外科的に腫瘍を切除することが検討されます。しかし、食道の外科手術は高度で侵襲(しんしゅう)が大きく、患者さんや腫瘍の状態によっては適応できない​場合があります。

化学療法・放射線療法

​悪性腫瘍の場合、腫瘍の種類や状態に応じて、化学療法や放射線療法が行われることがあります。しかし、これらも患者さんや腫瘍の状態によっては、適応できない場合があります。

食道非上皮性腫瘍になりやすい人・予防の方法

食道非上皮性腫瘍のリスクは定かではなく、予防の観点で対策を行うことは通常ありません。

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