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十二指腸虫症
長田 和義

監修医師
長田 和義(医師)

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2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

十二指腸虫症の概要

十二指腸虫症は、十二指腸に寄生する寄生虫によって引き起こされる感染症です。​
主に糞線虫(ふんせんちゅう)や鉤虫(こうちゅう)などが原因として挙げられますが、ほかにも多くの種類の寄生虫がヒトの消化管に寄生します。

これらの寄生虫は、幼虫が付着した食物摂取や、土壌中の幼虫が皮膚を通じて体内に侵入するなどして、十二指腸や上部小腸(空腸)に寄生し、さまざまな症状を起こします。
​これらの寄生虫は一般的に熱帯・亜熱帯地域に広く分布しており、衛生環境の改善により日本での感染例は減少しています。しかし、海外渡航者においては感染のリスクがあると考えられ、また今後の気候変動によっては日本において発生する可能性も否定はできません。​

十二指腸虫症の原因

十二指腸虫症の原因となる寄生虫は、それぞれ下記のような生態が報告されています。

鉤虫(アメリカ鉤虫やズビニ鉤虫)

感染型幼虫が皮膚に接触すると、脱鞘して体内に侵入します。その後血管を介して肺に達し、肺胞を破って気管、咽頭、胃を経て上部小腸に至り、脱皮して成虫となります。皮膚侵入後1.5ヶ月ほどで産卵を開始します。または、感染型幼虫が付着した野菜などから経口摂取により感染することがあります。

糞線虫

感染型幼虫が土壌から皮膚を通して感染し、鉤虫と同様の経路で十二指腸から上部小腸に寄生します。産卵された虫卵は便とともに排泄されますが、腸管壁や肛門周囲の皮膚から再度自家感染し、長期にわたって感染が持続する可能性があります。特に、免疫不全状態で重症化する可能性があります。

回虫

虫卵が経口摂取され、幼虫が小腸でふ化した後に鉤虫と同様の経路であらためて小腸に達します。

条虫(サナダムシ)

虫卵を含んだ豚肉、牛肉、淡水魚などの経口摂取により感染し、小腸でふ化して成虫となります。成虫は十二指腸~小腸の壁にしっかりつかまって成長し、産卵します。

ランブル鞭毛虫

シストとよばれる状態のランブル鞭毛虫を経口摂取することで、十二指腸や小腸に感染します。

アニサキス

アニサキスが寄生した魚の摂取で感染し、消化管の壁にかみついて強い腹痛をひきおこします。通常は胃にみられますが、十二指腸や小腸にみられる場合もあります。

十二指腸虫症の前兆や初期症状について

十二指指腸虫症の初期症状は、感染した寄生虫の種類や感染者(宿主)の免疫状態によってさまざまです。症状がないか軽微である場合、宿主は感染を自覚しないこともあります。​
十二指腸や小腸へ寄生虫が感染した場合、以下のような症状が考えられます。特に海外や、国内でも沖縄などの熱帯地域へ渡航したことがある場合、山などの環境で肌を露出して活動した場合、洗浄や加熱が不十分なものを食べた場合などにこのような症状を認める場合は、寄生虫感染の可能性に注意が必要です。

  • 慢性的な下痢
  • 慢性的な腹痛
  • 貧血による倦怠感や労作時の息切れ
  • 食欲不振や体重減少

受診すべき診療科目

これらの症状が見られた場合、内科や消化器内科を受診することが考えられます。これは通常適切ですが、日本においては寄生虫症自体が珍しいため、一般的な診療科では診断が難しい可能性があります。熱帯地域への渡航や山などでの活動後、汚染された食べ物の摂取などに心当たりがある場合は、感染症内科の受診をおすすめします。その際は、心当たりのある内容を詳しく医師に伝える必要があります。

十二指腸虫症の検査・診断

十二指腸虫症を含む消化管への寄生虫感染について、診断のために下記のような検査が行われます。

糞便検査

消化管に寄生する寄生虫の多くは、糞便とともに排泄されます。便を顕微鏡で観察し、成虫や幼虫、虫卵を確認することで診断が可能な場合があります。

血液検査

特定の寄生虫では、血液中の抗体やを調べることで診断の補助をできる場合があります。また、好酸球という白血球の一種が増加していることがあります。

内視鏡検査

条虫やアニサキスなど、肉眼でも視認可能な寄生虫は内視鏡で診断できる場合があります。肉眼で視認できない寄生虫に関しても、感染している十二指腸の組織を採取して顕微鏡で観察することで、診断可能な場合があります。

十二指腸虫症の治療

十二指腸虫症の治療は、寄生虫の種類により異なります。

駆虫薬

​寄生虫に対して有効な内服薬を投与します。一般的に使用される薬剤には、イベルメクチンアルベンダゾールなどがあり、鉤虫、糞線虫、​回虫などで用いられます。条虫に対しては、プラジクアンテルなどが用いられます。

抗菌薬

ランブル鞭毛注に対しては、メトロニダゾールパロモマイシンチニダゾールといった抗菌薬が用いられます。

物理的な摘除(内視鏡、ガストログラフィン)

アニサキスは、内視鏡で摘出することで速やかに症状が改善します。条虫の場合は、ガストログラフィンという造影剤を流すことで、レントゲンで虫体が確認できるだけでなく、そのまま肛門から体外へ排泄させることが可能です。

十二指腸虫症になりやすい人・予防の方法

以下のような状況にある方は、寄生虫に感染しやすいと考えられます。

  • 熱帯・亜熱帯地域で生活している方、または渡航者(これらの地域では寄生虫の感染リスクが高いため、注意が必要です)​
  • 農業従事者やアウトドア活動の多い方(土壌を扱う機会が多いため、感染リスクが高まります)​
  • 免疫力が低下している方(感染の持続や重症化するリスクが高まります)

十二指腸を含む消化管の寄生虫症を予防するためには、以下のような対策が考えられます。

  • 熱帯・亜熱帯地域での生活や渡航を避ける(寄生虫の多くは、熱帯・亜熱帯地域に分布しているため)
  • 衛生管理の徹底(​手洗い、食品や食器類の十分な洗浄や加熱など)
  • 土壌との直接接触を避ける(屋外活動の際は肌を露出しない、水場や湿地は特に避けるなど)
  • 野生動物との接触を避ける(野生動物やその糞便に接触することは、寄生虫感染のリスクが高いため)


関連する病気

  • 回虫
  • ジアルジア症
  • 鉤虫症

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