

監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
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佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。
胃肉腫の概要
胃肉腫について触れる前に、肉腫とは何か、がんとは違うのか、といった点についてまずご説明します。 がんも肉腫も、大きな括りでとらえると腫瘍(新生物)と定義されます。腫瘍のうち、身体の表面や管腔組織(消化器、呼吸器、泌尿器、生殖器、乳房など)の表面を覆う上皮細胞に発生する腫瘍を上皮性腫瘍と呼び、この上皮性腫瘍のうち悪性のものをがんと呼びます。 これに対して、上皮細胞以外の身体の組織(筋肉、脂肪、血管、血液、骨、軟骨など)を構成している細胞のことを非上皮性細胞と呼びます。この非上皮性細胞にできた悪性の腫瘍のことを肉腫と呼びます。<腫瘍の分類>
| 上皮性 | 非上皮性 | |
|---|---|---|
| 良性 | 腺腫 乳頭腫 | 筋腫 脂肪腫 軟骨腫 血管腫 |
| 悪性 | がん腫 | 肉腫 白血病 |
胃肉腫の原因
肉腫が発生する原因については、現在のところ明確な理由はわかっていません。遺伝的な要因や外傷、放射線の照射による影響などが可能性として考えられています。 胃への刺激という観点からすると、ヘリコバクターピロリへの感染、暴飲暴食、飲酒、喫煙などの影響も可能性としては考えられます。 胃肉腫のうち悪性リンパ腫はリンパ球の内部で起こった遺伝子異常が原因と考えられており、また、GIST(消化管間質腫瘍)は腫瘍細胞の細胞膜にある特定の蛋白の異常が主な原因であるとされ、その異常にはc-kit遺伝子と呼ばれる遺伝子が関わっていることがわかっています。 ちなみに、リンパ腫のタイプはホジキン型と非ホジキン型に分けられますが、胃にできるリンパ腫の場合は非ホジキン型がほとんどであるとされており、中でもMALTリンパ腫の頻度が高いです。 平滑筋肉腫の原因はいまだ明確ではなく、遺伝的要因が関わっている可能性が考えられています。胃肉腫の前兆や初期症状について
胃肉腫がもたらす症状として、吐き気や腹痛、下血、吐血、またそれに伴う貧血、腹部の膨満感などが挙げられます。これらの症状はほかの病気でも見られるもので、症状から胃肉腫と判断することは難しいといえます。 また、悪性リンパ腫やGIST、平滑筋肉腫などは初期の段階では無症状のことも多く、上記に挙げた症状は病状が進行してから現れることが多いようです。 したがって、前兆や初期症状の兆候をつかむことは難しいかも知れません。普段と何か違う、といった体調の変化や違和感を覚えたら、内科や消化器内科を受診してください。胃肉腫の検査・診断
胃肉腫の検査・診断では、問診で現在の症状を聞き取るほか、CT、MRI、内視鏡などによる画像診断で肉腫の大きさや転移、浸潤の有無などを確認します。また、肉腫の組織の一部を採取し、顕微鏡で観察をする病理診断を行い、診断を確定させます。 胃肉腫において有用とされている検査は内視鏡検査です。腫瘍を直接観察できるほか、検査と同時に病変部の組織の採取も行い、病理検査を行うことができます。 胃粘膜の下にできることの多い平滑筋肉腫の初期の頃は、通常の内視鏡では見逃しが起こることもあり、その際は超音波内視鏡検査(EUS)で病変を調べていきます。EUSは、腫瘍の深達度や内部性状の評価に役立ちます。 また、無症状の悪性リンパ腫が、会社などで行う健康診断で受診した胃透視検査で見つかることもあります。 いずれにせよ、検査の段階では具体的な病気の確定には至らず、手術で切除した組織を検査して病名が確定するケースも珍しくはありません。胃肉腫の治療
胃肉腫の治療法としては、手術や化学療法、放射線治療が一般的です。 GISTにおいては、胃がんなどと比較して周囲の組織への浸潤傾向が少なく、リンパ節への転移もまれであると考えられていることから、外科治療で病変部位の切除が第一候補です。平滑筋肉腫も同様に、手術による切除が重要な治療法です。 病変の起きている範囲が小さい場合は、身体への負担や手術後の胃の機能面を考慮し、腹腔鏡や内視鏡での手術が行われます。性リンパ腫での手術は、範囲に応じて周辺のリンパ節の除去が行われる場合もあります。 肉腫の手術においては、正常な組織を傷つけないように病変部を取り切ること、臓器の機能を温存できるように考慮すること、などに留意して行われます。 手術との併用のほか、発生した部位や肉腫の性質、また患者さんの状態によって手術が適さない場合は、放射線治療や抗がん剤、分子標的薬での治療、ヘリコバクターピロリの除菌などの手法が用いられます。 内科治療に関しては、外科手術後に行う病理検査の結果も見ながら、再発リスクに応じて必要な手法が採用されます。 一般的にGISTに対しては分子標的薬、悪性リンパ腫(主にMALTリンパ腫)には放射線治療やヘリコバクターピロリの除菌が用いられることが多い傾向にあります。 以前までは、GISTの患者さんの予後はあまり芳しくありませんでしたが、分子標的薬の登場によりその予後は大きく改善したといわれています。具体的にはイマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブ、ピミテスピブといった薬剤により、治療の選択肢は広がりを見せています。胃肉腫になりやすい人・予防の方法
概要欄でもお伝えしたように、胃にできる悪性腫瘍の95%は上皮性のがんであることから、胃肉腫を発症する方は少ないと考えられています。肉腫全体で見ても、日本人が罹患する悪性腫瘍のうち約1%といわれており、肉腫自体がいわゆる希少がんにあたります。 したがって、胃肉腫になりやすい方はこのとおりです、といえる確かな根拠までは確立されていないといわれています。 しかしながら、胃肉腫に分類されるいくつかの疾患について、特定の遺伝子が関与していることがわかっています。 GISTではすでに述べたc-kit遺伝子変異のほか、PDGFRA遺伝子の変異も知られています。 これらの遺伝子は突然変異とされ、GISTは基本的に家族間で遺伝するとは考えられていませんが、血のつながった親族にGISTを発症している方が複数存在する場合など、とてもまれですが家系的にGISTになりやすい方も存在するといわれています。また、神経線維腫症1型(NF1)やCarney症候群などの遺伝性疾患ではGISTの発生リスクが高いことも知られています。 胃MALTリンパ腫ではヘリコバクターピロリによる影響が確立されていることから、ヘリコバクターピロリの除菌が予防には有効であると考えられています。特に胃MALTリンパ腫の約90%にピロリ菌感染が認められることから、ピロリ菌陽性者では除菌治療を検討することが推奨されます。 年代的には全年齢で発生する可能性がありますが、40〜60代の年齢で発生例が多いと考えられています。特に悪性リンパ腫は50代以降に多いとされています。 ほかの病気の予防も含め、中年期以降は年に1度の健康診断を受け、自身の健康状態を定期的にチェックすることで、早期発見・早期治療につながる可能性が高まるといえるでしょう。参考文献




