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新生児・乳児消化管アレルギー
和田 蔵人

監修医師
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)

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佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。

新生児・乳児消化管アレルギーの概要

新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症(新生児・乳児消化管アレルギー)は、主に新生児期から乳児期早期に発症し、嘔吐、下痢、血便、体重増加不良などの症状が見られます。発症時期は生後7日以内が多いとされています。

新生児・乳児消化管アレルギーの原因

新生児・乳児消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)の原因について、以下の点が挙げられます。

  • 主な原因食物 牛乳由来のミルクが大半を占めますが、米や大豆、卵黄などが原因となることもあります
  • 発症時の栄養形態 多くは人工乳や母乳との混合栄養中に発症しますが、完全母乳栄養でも発症することがあります
  • 母乳での発症 母乳を介して乳抗原以外の物質が移行し、アレルギー反応を引き起こす場合もあり、原因の特定が難しいことがあります
  • 卵黄による増加 近年、卵黄が原因となる食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の症例が増加しています
  • 胎内感作の可能性 新生児期早期に発症した場合、胎内での感作が疑われることがあります

新生児・乳児消化管アレルギーの前兆や初期症状について

新生児・乳児消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)は、生後間もない赤ちゃんが特定の食物タンパク質に対してアレルギー反応を示し、消化管症状を引き起こす疾患です。主な症状として、嘔吐、下痢、血便、腹部膨満、体重増加不良などが挙げられます。特に、哺乳に関連してこれらの症状が現れることが多く、生後7日以内に発症するケースが多く見られます。

完全母乳栄養児の場合、発症時期は生後4日から7ヶ月と幅広く、消化器症状に加えて発疹や発熱など多様な症状が現れることがあります。新生児期早期に発症した場合、胎内での感作が疑われ、臍帯血中の好酸球数が高値を示すことがあります。 初期症状の特徴から、以下の4つのクラスターに分類することが提案されています。

  • クラスター1(嘔吐+、血便+) 発症時期が早く、主に早期新生児期に集中します
  • クラスター2(嘔吐+、血便−) 生後3ヶ月未満で発症するグループと、それ以降に発症するグループに分かれます
  • クラスター3(嘔吐−、血便−) 下痢、腹部膨満、体重増加不良などの症状が見られますが、症状の進行が緩やかで気づかれにくい傾向があります
  • クラスター4(嘔吐−、血便+) 食物蛋白誘発アレルギー性直腸結腸炎(FPIAP)と診断されることが多いですが、体重減少や下痢、吸収障害を伴うこともあります

受診するべき診療科目は、小児科、消化器内科、アレルギー科です。

新生児・乳児消化管アレルギーの検査・診断

新生児・乳児消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)の検査診断に関して、以下の点が重要とされています。

特異的な診断検査が存在しない

この疾患には特異的な診断検査がなく、診断は臨床症状やほかの疾患の除外に基づいて行われます。

他疾患の除外

診断に際しては、肥厚性幽門狭窄症、腸回転異常症、中腸軸捻転症、Hirschsprung病、壊死性腸炎、消化管閉鎖などの外科的疾患や、感染症、代謝性疾患、血液凝固異常症などを鑑別する必要があります。

確定診断の手順

原因と考えられる食物を除去し、症状の改善を確認します。 その後、医療管理下で原因食物を再度摂取し、症状が再現されるかを確認します。

補助的検査

  • 末梢血好酸球増多 多くの症例で認められます
  • 便中好酸球検査 便中の好酸球の存在を確認します
  • アレルゲン特異的リンパ球刺激試験(ALST) アレルギー反応の確認に用いられます
  • 特異的IgE抗体検査 特異的IgE抗体検査は多くの症例で陰性だが、一部の症例で陽性となることがあります
  • 便粘液細胞診 便中の細胞成分を調べます
  • 腹部超音波検査 消化管の浮腫や血流増加を評価します
  • 腹部CT検査 壊死性腸炎などの有無を確認します
  • 内視鏡検査・生検 好酸球性消化管疾患が疑われる場合に行い、組織の状態を評価します
  • 臍帯血好酸球検査 新生児期早期に発症した場合、胎内感作の可能性を評価するために行います

新生児・乳児消化管アレルギーの治療

急性期の対応

主に急性型FPIES(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome)で問題となります。原因食物摂取後1~4時間以内に症状が現れることが多いです。 十分な輸液が重要であり、ステロイド投与が効果を示すこともあります。頻回の嘔吐に対しては、5-HT3受容体拮抗薬(オンダンセトロン)の投与が国際ガイドラインで示されていますが、保険適用外です。下痢や血便が著しく増悪する場合は、水分管理が重要となります。

長期的な治療

原因食物の除去が中心となります。重症度に合わせて治療ステップが検討されます。

新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症症状スコア表(20点未満が軽症、40点以上が重症)が、指定難病としての判断のために設定されています。
  • 【軽症】 母乳除去または母体から原因食物の除去
  • 【中等症】 高度加水分解乳を使用します。加水分解乳でも発症する場合は、高度加水分解乳(例:ニューMA-1)が望ましいとされています
  • 【重症】 絶食やアミノ酸乳、成分栄養剤(エレンタールPなど)を使用します。成分栄養剤は13 W/V%程度で開始し、最終的に17 W/V%程度とします。改善しない場合には、エレメンタルフォーミュラへの変更が有効なことがあります
FPIAP(Food Protein-Induced Allergic Proctocolitis)と思われる血便のみの児では、自然軽快もあり、治療介入そのものの必要性が検討されることもあります。FPE(Food Protein-Induced Enteropathy)や慢性FPIESでは、食物除去後も症状改善まで時間がかかる例も多いです。

食物経口負荷試験(OFC)陽性の場合も予後良好な疾患であることから、半年から1年ごとの再検がガイドラインで推奨されています。

新生児・乳児消化管アレルギーになりやすい人・予防の方法

予防法としては、明確な方法は確立されていませんが、以下の点に注意することが推奨されます。

  • 早期の症状に注意 新生児期から乳児期早期に、嘔吐、下痢、血便などの消化器症状が見られた場合は、医師に相談してください
  • 原因食物の特定 症状が見られた場合、原因となっている食物を特定することが重要です
  • 人工乳の選択 人工乳を使用する場合は、医師の指示のもと、適切なミルク(高度加水分解乳など)を選択してください
  • 母乳栄養の場合 母乳栄養の場合でも、母親の食事内容に注意し、必要に応じて除去食を検討してください
  • 胎内感作の可能性 新生児期早期に発症した場合、胎内感作の可能性を考慮し、アレルギー科に相談してください。臍帯血好酸球の検査が高値を示すかどうか確認することが有用です

関連する病気

参考文献

  • 野 村 伊 知 郎:Food Protein-Induced Enterocolitis Syn- drom(e FPIES),臨床,病態のまとめと診断治療指針作 成.日小児アレルギー会誌 23:34-47, 2009
  • 厚生労働省好酸球性消化管疾患研究班日本小児アレル ギー学会/日本小児栄養消化器肝臓学会:新生児・乳児食 物蛋白誘発胃腸症診療ガイドライン
  • Nowak-Węgrzyn A, Katz Y, Mehr SS, et al: Non-IgE-mediated gastrointestinal food allergy. J Allergy Clin Immunol 135:1114-1124, 2015
  • Yamada Y:Unique features of non-IgE-mediated gastro- intestinal food allergy during infancy in Japan. Curr Opin Allergy Clin Immunol 20:299-304, 2020

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