

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
新生児壊死性腸炎の概要
新生児壊死性腸炎(しんせいじえしせいちょうえん)は、新生児期に腸の一部に炎症が起こり、進行すると腸が壊死してしまう重篤な疾患です。
早産や低体重で生まれた赤ちゃんに多くみられ、新生児壊死性腸炎の約80%が出生体重1500g未満の赤ちゃんであることが報告されています。日本国内の調査によると、在胎期間妊娠32週未満または出生体重1500g以下の新生児における新生児壊死性腸炎での発症率は、約2%となっています(2022年時点)。
(出典:周産期母子医療センターネットワークデータベース)
新生児壊死性腸炎の主な症状は、腹部の膨満(おなかの張り)、嘔吐、血便です。また、哺乳量の減少や活動性の低下、呼吸の乱れなどの全身症状をともなうこともあります。重症化すると壊死の範囲が広がり、腸に穴が開く(穿孔)ことがあり、命に関わるケースもあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
新生児壊死性腸炎の原因は完全には解明されていませんが、腸の発達が未熟であることや血流障害、細菌感染などが関与していると考えられています。治療は症状の進行に応じて行われ、まずは絶食と点滴による栄養管理、抗菌薬の投与が基本となります。症状が進行した場合には、外科的な手術が必要になることがあります。
予防策としては、母乳栄養が推奨されています。母乳には免疫成分が含まれており、新生児壊死性腸炎の予防に効果があると考えられています。
新生児壊死性腸炎は深刻な病気ですが、近年の医療の進歩により、適切な治療を行うことで多くの赤ちゃんが生存できるようになっています。

新生児壊死性腸炎の原因
新生児壊死性腸炎の正確な原因はまだ解明されていませんが、複数の要因が重なって発症すると考えられています。主な要因として、腸の未熟性、血流障害、細菌感染などが挙げられます。
とくに早産や低体重で生まれた赤ちゃんは腸が十分に発達しておらず、腸のバリア機能や運動が未熟であるため、細菌が異常に増殖しやすい状態にあります。また、血流障害によって腸の壁に十分な酸素や栄養が供給されないと、腸の粘膜が弱くなり、そこから細菌が侵入しやすくなります。こうした細菌の侵入がきっかけとなり、炎症や壊死が進行すると考えられています。
新生児壊死性腸炎の前兆や初期症状について
新生児壊死性腸炎は、病気の進行にともない症状が変化します。
初期段階ではおなかの張り(腹部の膨満)、嘔吐、食欲の低下(ミルクの飲みが悪い)、活動性の低下(元気がない)、血便などの症状がみられます。また、体温の変動、脈拍の低下、呼吸数の減少といった全身症状があらわれることもあります。これらの症状は、ほかの一般的な疾患でもみられる症状のため、新生児壊死性腸炎と診断するのが難しい傾向にあります。
症状が進行すると、腸の働きの悪化によっておなかの張りが強くなり、炎症や壊死が進むことで明らかな血便がみられるようになります。重症化すると、腸に穴が開き(穿孔)、腹膜炎や敗血症が引き起こされ、全身状態の悪化からショック状態に陥る危険性もあります。
新生児壊死性腸炎のほとんどは、生後30日未満、とくに1週間以内に発症します。しかし、初期症状は新生児にみられる一般的な消化器症状と似ているため、見逃される可能性があります。そのため、上述した症状がみられた場合は、新生児壊死性腸炎の可能性も考え、慎重に経過を観察することが重要です。
新生児壊死性腸炎の検査・診断
新生児壊死性腸炎は、臨床症状や画像検査、血液検査などの結果から総合的に診断されます。
おなかの張り(腹部の膨満)、嘔吐、血便などの症状があり、新生児壊死性腸炎が疑われる場合、画像検査が実施されます。腹部のレントゲン検査や超音波検査、CT検査などにより、腸の状態やガスの溜まり具合を確認します。しかし、初期段階では腸内のガスが正常な範囲内であることも多く、診断が確定しない場合もあります。
新生児壊死性腸炎が進行すると、画像検査で特徴的な所見がみられます。 レントゲン検査では腸内のガスの増加が顕著になり、腸の壁の中や門脈(腸と肝臓をつなぐ血管)にガスが認められることがあります。 さらに重症化して腸に穴が開く(穿孔)と、ガスが腸の外へ漏れ出ている所見が確認できることもあります。 この所見が確認されると、新生児壊死性腸炎の診断がほぼ確定されます。
また、血液検査では白血球数や炎症の値などを調べることで、病状の進行度や全身状態を判断します。
新生児壊死性腸炎の治療
新生児壊死性腸炎の治療は、病状の重症度によって異なります。
軽症の場合は、まず腸を休ませるために経口摂取を中止し、点滴による栄養管理が行われます。同時に、腸内の細菌感染を抑えるために抗菌薬が投与されることが一般的です。また、赤ちゃんの状態に応じて、呼吸や循環をサポートする治療が行われることもあります。
重症例で腸に穴が開いたり(穿孔)、壊死が広がったりしている場合は、、外科的な手術が必要となります。手術では壊死した腸管を切除し、腸の状態に応じて一時的に人工肛門が造設されることがあります。人工肛門を造設した場合は、赤ちゃんの回復状態をみながら、あとで腸をつないで戻す手術が行われます。手術後は、腸の回復に応じた栄養管理が行われます。
治療の経過によっては長期的な栄養管理が必要になったり、腸が狭くなるなどの後遺症が生じたりすることもありますが、近年の医療の進歩により、多くの赤ちゃんが適切な治療によって生存できるようになっています。
新生児壊死性腸炎になりやすい人・予防の方法
新生児壊死性腸炎は、早産や低出生体重で生まれた赤ちゃんに多くみられる疾患です。とくに、出生時の体重が1500g未満の赤ちゃんは腸が未熟であることが多く、発症リスクが高いことが知られています。実際に、新生児壊死性腸炎の約80%が出生体重1500g未満の赤ちゃんで発症しています。また、男児よりも女児のほうが発症率が約2倍高いことが報告されています。
早産児や低出生体重児で発症が多い理由のひとつとして、低酸素状態による血流障害が挙げられます。そのため、新生児仮死、呼吸障害、心臓病などの循環器障害がある赤ちゃんも、発症リスクが高くなると考えられます。さらに、子宮内感染や出生時の感染が加わると、より新生児壊死性腸炎になる可能性が高まるとされています。
また、母乳ではなく人工ミルクを使用している場合も、新生児壊死性腸炎の発症リスクが高くなることが報告されています。そのため、予防の観点では、母乳栄養が推奨されています。母乳には免疫成分が含まれているため、新生児壊死性腸炎の発症予防に効果があるとされています。近年では「母乳バンク」の活用が一部の医療機関で進められており、母乳が十分に得られない場合でも、より安全な栄養管理ができるようになっています。
新生児壊死性腸炎は重篤な疾患ですが、適切な予防策を講じることで、発症リスクを減らすことが可能です。
参考文献




