肛門そう痒症
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

肛門そう痒症の概要

肛門そう痒症は、肛門に痒みがある状態を指します。
はじめは痒みのみがあり、皮膚の変化はありません。肛門の痒みから、かいてしまい湿疹ができ、更に痒くなりかいてしまうというサイクルを繰り返し症状が悪化します。
慢性化すると、肛門周囲が白くなる、皮膚が厚くなりゴワゴワしてくる、肛門のしわに沿って亀裂が生じるといった皮膚の変化がみられます。かいたときにできた皮膚の細かい傷から細菌感染が起こり、痒みがさらに強くなることもあります。
肛門の痒みは夜寝ることができない程悪化し、患者さんの生活の質を大幅に下げることがあります。肛門からの浸出物による肛門のべとつきや、下着の汚れに悩まされる方もいます。

肛門そう痒症の要因はさまざまです。
便秘や下痢など排便の異常や、肛門の過剰衛生が肛門そう痒症の発生要因になっていることもあります。肛門そう痒症には、特発性肛門そう痒症と、疾患等により起きる続発性肛門そう痒症があります。
続発性肛門そう痒症の場合は、原因疾患の治療を並行して行うことが大切です。

肛門そう痒症の原因

肛門そう痒症は、下痢・便秘などが影響してる場合が多くあります。
下痢や便秘は肛門に負担がかかること、下痢・軟便が肛門部分に付着したり、便が出切らない状態で拭き残しが出やすいといった理由から、肛門そう痒症を起こしやすくなります。

排便後の洗浄が不十分な場合も、肛門に排泄物成分が残り肛門そう痒症を引き起こします。しかし、洗い過ぎも、肛門そう痒症が生じやすくなります。
皮膚を洗い過ぎると、皮脂まで洗い流してしまい皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激を受けやすくなるためです。排便後の温水洗浄や、入浴時に洗浄力の強過ぎる石鹸で洗うことが肛門そう痒症の原因となることもあります。

また、摂取する食品が影響をおよぼしている場合もあります。カフェインやアルコール、トマト、柑橘類など酸味のある食べ物、香辛料などの刺激物が肛門そう痒を悪化させることがあります。
下着の締め付けや、生理用品・おむつなどによるかぶれが原因になることもあります。

肛門の痒みの背景に、疾患がある場合もあります。
肛門の痒みの原因となりうる疾患は、痔核や痔瘻などの直腸肛門疾患、真菌・細菌・蟯虫などの感染症、糖尿病・肝臓病などの全身疾患等、多岐にわたります。また、バジェット病などの皮膚がんにより肛門の痒みが生じていることもあります

肛門そう痒症の前兆や初期症状について

肛門そう痒症は、肛門の痒みから始まり、痒みにより皮膚をかくことで湿疹などを引き起こします。皮膚のバリア機能が低下すると、刺激に反応しやすくなりさらに痒みが出やすくなり、さらにかいてしまうという悪循環が生じます。

肛門そう痒症は、肛門のムズムズするような感じから始まることが多いです。初期のムズムズ感から、かく→湿疹ができる→更にかくということを繰り返すうちに、痒みがどんどんひどくなります。
入浴後や就寝時など、体が温まった時に痒みが強くなる傾向があり、進行すると夜も眠れないくらいの痒みを感じる方もいます。かくことにより皮膚に細かい傷ができ、痛痒くなることもあります。

皮膚の状態は、初期は赤くなり、慢性化するにつれて肛門が白っぽくなる・皮膚が厚くなる・肛門が腫れたようになる・肛門の溝部分に亀裂が生じる・色素沈着などの変化が生じます。肛門そう痒の症状がある場合は、皮膚科または肛門科を受診しましょう。
皮膚科は、皮膚疾患全般を扱うため、肛門部分の皮膚の痒みである肛門そう痒症にも対応しています。肛門科は、肛門疾患全般を扱うため、直腸肛門疾患の確認も合わせてしたい場合に特に適しています。
もし糖尿病や肝臓病などの全身疾患があり、肛門そう痒症の原因として疑われる場合は、受診中の内科で相談しても良いでしょう。

肛門そう痒症の検査・診断

肛門そう痒症に対しては、問診、視診、触診、肛門の痒みと関連する疾患の有無を確認する検査を行います。問診では、痒みの状態、症状の経過、既往歴のほか、排便の状況、入浴時や排便後などの衛生習慣、刺激となる飲食物の摂取状況なども聴取します。

色素脱失(肛門周囲が白くなる)、浮腫状皮膚、苔癬化など、肛門そう痒症でみられる皮膚変化を視診・触診で確認します。
肛門そう痒症の原因となりうる疾患として、まず痔核・裂肛・肛門ポリープなどの直腸肛門疾患がないか確認します。肛門鏡検査や内視鏡検査などを行うことがあります。真菌感染の有無を確認するためには、肛門周囲の皮膚擦過物を顕微鏡で観察します。
真菌・細菌の感染を調べるために、肛門分泌物の培養検査を行うこともあります。

治療を開始しても湿疹がなかなか治らずバジェット病(皮膚がんの一種)などのがんが疑われる場合、肛門組織を採取し生検を行います。特に小児の場合は、蟯虫が原因となるケースもみられるため、テープ型の検査キットを肛門に貼付したものを顕微鏡で観察する蟯虫検査を行います。

上記のような検査で、原因疾患が判明した場合は原因疾患の治療を、原因不明の場合は痒みに対する治療をします。

肛門そう痒症の治療

肛門そう痒症の治療のためには、まず肛門そう痒症を起こす要因をなくしていく必要があります。特に下痢や便秘などの排便の異常を防ぐことが大切です。
また、生活のなかで、肛門への刺激を避けるようにします。肛門を清潔にしながらも、洗い過ぎないようにして皮膚のバリア機能を保ちます。
また、排便後に拭く際もこすらないようにして肛門への刺激を避けましょう。

湿疹の症状が強い場合は、ステロイド外用薬を使用します。ステロイドは長期に漫然と使用せず、徐々にステロイドの強さや塗布頻度を下げてやめていく漸減療法を行います。ワセリンを使用して皮膚の水分蒸発を防ぎ、保湿効果を高めることも有効です。
痒みに対しては、抗ヒスタミン薬を内服することがあります。

肛門そう痒を引き起こす原因疾患がわかっている場合は、原因疾患の治療を行います。真菌感染がある場合は、ステロイド外用薬で悪化する恐れがあるため用いないこととされており、抗真菌薬の内服・外用により治療します。痔核や直腸脱がある場合は、手術をすることがあります。蟯虫症の場合は、駆虫薬を使用します。

肛門そう痒症になりやすい人・予防の方法

生活のなかで、肛門に負担のかかることをしている人は、肛門そう痒症になりやすいと言えるでしょう。
具体的には、座り仕事が多い人、衛生意識が強く肌を洗い過ぎてしまう人、汗をかきやすい人、刺激物を多く摂取する人などです。

座り仕事が多いと、肛門部の血行が悪くなり、肛門そう痒症が悪化しやすくなります。肛門を洗いすぎると、油分が除去されたり常在菌を殺してしまったりすることで皮膚のバリア機能が低下し皮膚の痒みが出やすくなる恐れがあります。痒みが起きやすくなる要因を生活のなかで減らすことが、肛門そう痒症の予防策となります。

肛門の汚れの残存や過剰衛生を防ぐために、適切な方法で洗浄するようにします。洗う時に強くこすらないこと、排便後に強い水圧での洗浄は避けることなどが挙げられます。
石鹸を低刺激のものに変える、刺激を避けるために、ナイロン製のタオルを避けるといった方法もあります。長時間の座位を避けること、汗をかいたらこまめにシャワーを浴びること、通気性の良い下着を選ぶことも、アルコールやカフェインなどの刺激物を避けることも対策になります。

痒みが出たときは、皮膚の状態の悪化予防のためにも、なるべくかかないようにし、患部を冷やすなどして、早めに受診するようにしましょう。


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