

監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
直腸ポリープの概要
直腸ポリープは、直腸内壁の粘膜にできる隆起性病変の総称です。
ポリープといえばキノコのように内壁から飛び出したものを想像しがちですが、平坦なものや凹んだものなど、さまざまな種類があります。
直腸ポリープを含む大腸ポリープは、多くは無症状です。しかし一部は放置すると大腸がんに進行する可能性がある、注意すべき病変です。
患者さん本人も無自覚なまま進行するため、定期健診を毎年必ず受けることが早期発見、早期治療に繋がります。
直腸ポリープの原因
直腸ポリープの原因は生活習慣から遺伝性まで多岐にわたります。特に注意したいのは遺伝性で、直腸がんリスクが高いのが特徴です。
加齢(50歳以上)
50歳以上の加齢は直腸ポリープや大腸ポリープ発生の最大の原因です。加齢で細胞修復機能が衰え、直腸の修復が間に合わなくなるからと考えられています。
加齢は止めることはできませんが、定期健診や生活習慣の改善で発症リスクを下げ、早期発見につなげることができます。
遺伝性
家族性大腸腺腫症(FAP)、遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)など、遺伝疾患も高いリスクになります。
親子や兄弟など、血縁者に大腸ポリープやがんが発症した場合、大腸がんになるリスクは健康な人の3倍と言われています。もしご家族でポリープが見つかったら、血縁者も早急に内視鏡検査を受けることをおすすめします。
自覚症状がなくても、静かに症状が進行している可能性があります。
食生活
動物性脂肪が多い食品や、動物性タンパク質、特に赤身肉と加工肉をよく食べると、発症リスクを上げると言われています。
食物繊維の摂取不足で便秘になることが、リスクを高める一因とされています。
飲酒も発症リスクを上げる原因です。
肥満、喫煙、運動不足
腸に長時間便が溜まると、ポリープができやすいと言われています。
運動不足は腸の動きが悪くなるため、腸に便が溜まりやすくなります。肥満や喫煙、運動不足は腸の運動を妨げる原因です。
直腸ポリープの前兆や初期症状について
直腸ポリープは無症状なことが多く、初期症状ではほぼ自覚症状はありません。
進行すると、血便や粘液が付着した便が出ることがあります。また、ポリープが肛門から飛び出したり、腸閉塞を引き起こしたりする場合もあります。
自覚症状が出ている時点で、かなり病状が進んでいることが予想されます。早急に消化器内科か肛門科を受診して下さい。できれば内視鏡検査ができる医療機関が理想です。
多くの方は、大腸がん検診の便潜血検査で見つかります。
便潜血検査は進行がんの90%以上、早期がんの約50%、大腸ポリープの約30%を発見できるとされています。
大腸がん検診で要検査と指摘されたら、ただちに医療機関を受診しましょう。
直腸ポリープの検査・診断
直腸ポリープの確定診断は、内視鏡検査で行います。内視鏡検査はその場でポリープ切除もできるため、第一の選択肢になります。
ポリープの位置や大きさを正確に診断するために、補助的に注腸造影検査などを行うこともあります。
問診
まずは患者さんの症状、年齢、生活習慣、家族歴などを詳しく聞き取ります。
- 血便や便秘、下痢などの症状がある
- 便潜血検査で要検査
- 家族に大腸ポリープや大腸がんになった人がいる
これらに当てはまる場合はリスクが高いと判断され、内視鏡検査などが必要になります。
大腸内視鏡検査
最も一般的な検査法です。
内視鏡検査では、肛門から細いカメラ付きの管(内視鏡)を挿入し、直腸や大腸の内部を直接観察します。
内視鏡検査はポリープの数、その大きさや形、位置などを正確に把握できる、最も信頼性の高い検査です。検査中にポリープが見つかった場合、小さいものであればその場で切除することもできます。
切除されたポリープは病理検査に送られ、良性か悪性かを調べます。
内視鏡検査は数日前から食事制限があり、検査当日には大量の下剤を服用します。
患者さんへの負担を軽減するため、事前に鎮静剤を注射することもあります。
直腸ポリープの治療
最も一般的な治療法は内視鏡的切除です。
内視鏡検査の際に発見した小さなポリープは、その場で切除できます。
ポリペクトミー
ポリープの茎に金属の輪(スネア)をかけ、高周波電流で焼き切ります。
EMR
平たい病変に使う方法です。病変に生理食塩水を注入し、盛り上がったところにスネアをかけます。
ESD
大きな病変や、薬液を注入しても持ち上がらない病変に使う方法です。
薬液を注入し、電気メスで病変周囲を剥がします。
身体への負担が少なく、多くの場合、日帰りで行うことができます。切除されたポリープは病理検査に送られ、がん細胞が含まれていないか詳しく調べられます。
直腸ポリープは、将来がんになるリスクがある「腫瘍性ポリープ」と、がんリスクが少ない「非腫瘍性ポリープ」に分かれます。
腫瘍性ポリープは、良性腫瘍(腺腫)と悪性腫瘍(がん)に分類されます。良性腫瘍である腺腫は、時間の経過とともにがん化し、直腸がんへ進行するとされています。
多くのポリープは良性ですが、放置すると一部が大腸がんに進行する可能性があるため、6mm以上のポリープや、がん化が疑われるポリープは早期に切除します。
もしポリープが大きく、がん化している疑いがある場合は、外科手術が必要になることがあります。
手術では、直腸の一部を切除してポリープを取り除きます。
スネアが使えない大きなポリープや複数のポリープがある場合、または遺伝性の疾患(家族性大腸腺腫症など)が原因でポリープが多数発生している場合には、直腸や大腸の広範囲な切除が必要となることもあります。この場合、人工肛門(ストーマ)になることがあります。
すべてのポリープを切除することはありません。
直腸ポリープではよく見られる5mm 以下の白っぽいポリープ(過形成性ポリープ)は、切除せず経過観察を行います。
直腸ポリープになりやすい人・予防の方法
50歳以上(加齢)、遺伝性が最大のリスクです。
たとえ健康な習慣があっても、家族に大腸ポリープや大腸がんになった人がいる場合は、その家族も発症リスクがあります。
特に「家族性大腸腺腫症(FAP)」や「遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)」などの遺伝疾患がある場合は、発症リスクが3倍以上あると言われています。早期発見のため、定期的な検査を行いましょう。
食生活が乱れている人、特に赤身肉や加工肉、脂質を好み、食物繊維をあまり摂取しない人も直腸ポリープが発症しやすくなります。
食物繊維は腸内をきれいにする作用があり、不足すると腸の働きが乱れ、ポリープができやすくなります。普段から野菜、こんにゃく、玄米や全粒粉パンなど全粒粉の穀物など、食物繊維を摂取する習慣を付けましょう。
運動不足や肥満、喫煙、飲酒も発症リスクを高めます。
身体を動かす習慣がないと腸の動きが悪くなり、便が腸内に長くとどまり、腸に負担がかかります。この状態が日常的に続くと、腸の粘膜が刺激され続けてポリープができやすくなります。
肥満になると運動が億劫になりやすく、間接的に運動不足を招きます。適度な運動を続けると発症リスクが下がります。
クローン病や潰瘍性大腸炎など、慢性的な腸の炎症を抱えている患者さんも発症リスクが上がります。炎症で腸の粘膜が何度も傷つき、ポリープができやすくなるためです。
定期的に検査を受け、早期発見に努めましょう。
関連する病気
- 大腸がん
- 遺伝性大腸腫瘍症候群
- クロン病
参考文献