監修医師:
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
目次 -INDEX-
ウェルシュ菌食中毒の概要
ウェルシュ菌食中毒は細菌の一つであるウェルシュ菌を取り込んだことによって引き起こされる食中毒です。年間を通じて発生しますが、とくに気温が高い季節に多く発生する傾向があります。
ウェルシュ菌は人や動物の腸内、土壌などに広く存在しており、芽胞(がほう)という殻のようなものを作る特徴があります。
芽胞は100℃で1時間にわたる加熱にも耐えられる強い構造をしているため、ウェルシュ菌を通常の加熱で完全に死滅させることは困難といわれています。
また、ウェルシュ菌は12〜50°Cの広い温度帯で増殖し、カレーやシチュー、スープなど一度に大量に作られた食品を常温で放置した際に増殖しやすくなります。
出典:農林水産省「煮込み料理を楽しむために~ウェルシュ菌による食中毒にご注意を!!~」
これらの食品は大人数で食べることが多いため、ウェルシュ菌食中毒は集団発生が起こりやすいともされています。
主な症状は腹痛と下痢で比較的軽症で経過しますが、子どもや高齢者など感染症に対する抵抗力が低い人は、重症化する可能性があるため注意が必要です。
ウェルシュ菌食中毒の発生を予防するためには、調理した食品の適切な保存と温度管理の徹底が重要です。
ウェルシュ菌食中毒の原因
ウェルシュ菌食中毒の原因は食品中に増殖したウェルシュ菌を摂取することです。原因食品として多いのは主にカレーやシチュー、スープや煮物などが挙げられます。
これらの料理は大量に作ってからしばらく放置することが多いため、その間にウェルシュ菌が増殖し食中毒を引き起こすのです。
ウェルシュ菌が増殖する温度帯は12〜50℃程度と幅広く、これは一度調理した食品が徐々に冷める際に達する温度で、放置する時間が長ければ長いほどウェルシュ菌は増殖します。
また、ウェルシュ菌は増殖に適していない環境になると芽胞を形成し、自身を守る特徴があります。
食品が冷蔵保存されている間は芽胞を形成して休眠状態になりますが、再加熱後に食品が冷める過程で再び増殖を始めます。
芽胞は耐熱性が非常に高く、100℃で1時間の加熱にも耐えるとされています。
そのためウェルシュ菌は通常の加熱では完全に死滅しないといわれていますが、60℃で10分間加熱することで毒素は無害化されるため、食べる際は十分に火を通すことが大切です。
ウェルシュ菌食中毒の前兆や初期症状について
ウェルシュ菌食中毒の主な症状は腹痛と下痢で、食事をしてから6〜18時間後、平均で10時間程度で症状が現れます。
ほかの食中毒の症状として多い嘔吐や発熱などが出現することは少なく、比較的軽症で経過します。
多くの場合は1〜2日程度で回復しますが、子どもや高齢者、基礎疾患がある人など抵抗力が低下している人は症状が重症化する可能性があります。
ウェルシュ菌食中毒の検査・診断
ウェルシュ菌食中毒は、主に患者の便を用いてRPLA法やPCR法という検査方法によって調べられます。
ウェルシュ菌は人の腸内にも常在している菌であるため、食中毒の原因となるウェルシュ菌なのか、腸内に常在しているウェルシュ菌なのかを判別することが診断の決め手です。
そのため、患者の便から排出されたウェルシュ菌と食べ物から検出されるウェルシュ菌が同じものであるか確認をするため、双方を検査することもあります。
食中毒が疑わしい場合は、医療機関や施設管理者が24時間以内に保健所へ届け出ることが義務づけられています。
ウェルシュ菌食中毒の治療
ウェルシュ菌食中毒に対する特別な治療はないため、対症療法によって治療します。
多くの場合は1〜2日程度で回復するため、自然と快方に向かうこともあります。
下痢や腹痛による食欲不振から、体内の水分が失われ脱水状態になる可能性もあるため、こまめな水分補給や栄養補給を心がけましょう。
なお、子どもや高齢者、基礎疾患を患っている人は重症化するリスクがあります。注意深く様子を観察し、症状が激しく水分や食事が摂れない場合は、できるだけ早く医療機関へ受診してください。
ウェルシュ菌食中毒になりやすい人・予防の方法
ウェルシュ菌食中毒は食堂で作られた食品や給食、仕出し弁当など大量に調理された食品を摂る機会が多い人がなりやすいです。
ウェルシュ菌は自然界に広く存在している細菌であることから、食品への混入を完全に防ぐことは困難といわれています。
また、食品1g当たり相当な量のウェルシュ菌が増殖しない限り食中毒は発生しにくいとされているため、予防方法としてはウェルシュ菌を増やさないことが大切です。
具体的には、調理した食品は室温で放置せずできるだけ早く食べ切ることや、仮に保存する場合でも底の浅い保存容器に小分けにして、短時間で冷やすことを心がけましょう。
再加熱する際は、鍋底までしっかりとかき混ぜて食品の中心部まで十分に火を通すことも重要です。
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参考文献