監修医師:
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)
排便障害の概要
排便障害とは、便秘になって便が出にくくなったり、便失禁により便が漏れたりするなど排便に関する障害が生じている状態です。便秘や便失禁のほかに、排便時に強い痛みを感じたり、排便後にすっきりしなかったりすることも挙げられます。
厚生労働省の「2022(令和4)年国民生活基礎調査」によると、便秘に悩んでいる人は438万9,000人です。また、便失禁の症状がある人は500万人いると推測されており、排便障害に悩んでいる人は珍しくありません。
排便障害は、一時的なものから慢性的なものまであります。特に、高齢者や妊婦の人は排便障害を起こすリスクが高いとされています。これは、お腹にうまく力を入れにくかったり、お腹が圧迫されたり、運動不足になりやすかったりするためです。
排便障害の症状が続くと、栄養状態の悪化や体調不良、さらには社会的なストレスや心理的な負担につながることがあります。そのため、症状がみられた場合は、できるだけ早く医療機関で相談することが推奨されます。
排便障害の原因
排便障害の原因はさまざまです。具体的には過敏性腸症候群や大腸がん、直腸瘤、痔核などの消化器の病気が原因となり症状が引き起こされます。
ほかにも、食事の偏りや運動不足、ストレスの蓄積などの生活習慣が排便障害の原因として挙げられます。食生活により食物繊維が不足した場合は腸の働きが低下し、便秘が生じやすくなります。水分摂取が足りないと便が硬くなり、排便が難しくなることもあります。ストレスが溜まると、自律神経の乱れが生じて便秘や下痢を引き起こすことがあります。
さらに、薬の副作用も排便障害の一因です。特に、抗うつ薬や鎮痛薬などの薬は、副作用として便秘や下痢などの排便障害が現れることもあるため、薬の服用中に排便に関わる異常がみられる場合には注意が必要です。
排便障害の症状が改善しない場合は、医師に相談して適切な治療を受けることが重要です。また、日常生活の中で、食事面に気をつけたり運動を取り入れたりするなどの対策を講じることも大切です。
排便障害の前兆や初期症状について
排便障害の前兆や初期症状には、便の形状や頻度の変化がみられます。
例えば、便が硬くなり、排便時に痛みを感じることがあります。排便回数が極端に減る場合、お腹の張りや不快感が続く場合は、排便障害の初期のサインです。
そのほかにも、便に血が混じっていたり、排便後もすっきりしない感覚が続いたりする場合は大腸がんなどの深刻な病気が隠れていることもあるため注意が必要です。また、痔核の場合は肛門周囲に腫瘤ができたり、腫れ物ができたりするため、排便後トイレットペーパーに血液が付着することもあります。
これらの症状は、身体の異常を示すサインであるため、見過ごさないことが重要です。病状が初期の段階で対応することで、より深刻な状態を防ぐことができます。
排便障害の検査・診断
排便障害の診断は、主に問診と身体検査でおこないます。医師は、排便の回数や便の性状など排便の状況と、運動や食事など生活習慣について詳しく聴取します。また、お腹の張りや痛みの有無などを確認します。
排便障害の原因となる疾患がないかを調べるために、必要に応じて血液検査や大腸内視鏡検査などを実施します。
血液検査では体内の炎症の有無や貧血の状態などを調べることもあります。血液検査の結果、炎症反応がみられる場合は、腸炎や炎症性腸疾患、感染症などが疑われ、さらに詳細な検査が必要です。
大腸内視鏡検査では肛門から大腸内視鏡を入れて、小腸の終わりと盲腸から直腸までを観察して、腸内に悪性腫瘍やポリープ、炎症がないかを確認します。大腸内視鏡検査を受けるためには、前処置が必要であり、前日から食事を制限したり、腸管洗浄剤を飲んだりしなければなりません。
場合によっては、CT検査をおこない、腸の炎症や壁肥厚などを確認することもあります。
症状や腹部所見、検査結果を総合的に判断して、適切な治療につなげます。特に、大腸内視鏡検査は早期発見に役立ち、がんの予防にもつながるため、必要な場合は積極的に受けることが推奨されます。
排便障害の治療
排便障害の治療は、原因によって異なります。
排便障害の原因が病気であれば、その病気に対して治療をおこないます。
過敏性腸症候群の場合は、症状に応じた薬が処方されることが一般的です。大腸がんの場合は手術や放射線療法、化学療法などが行われます。痔核の場合は、手術や薬物療法などで症状の改善を目指します。
一方で、排便障害の原因が生活習慣であれば、生活習慣の改善が基本です。具体的には、食物繊維の摂取や水分補給が推奨されます。食物繊維は野菜や果物、全粒穀物などに多く含まれており、毎日の食事に取り入れることで腸の動きを助けます。
水分摂取も重要で、1日あたり1.5リットル以上の水を飲むことが推奨されます。また、リラックスするために軽いウォーキングや深呼吸、ヨガなどを取り入れることも、自律神経が整うため、排便障害の改善に役立つ可能性があります。
ただし、これらの治療は症状によって異なるため、医師に相談したうえで進めましょう。
必要に応じて、医師から下剤や整腸剤が処方されることもあります。
排便障害の治療は、原因に合わせた治療が必要です。生活習慣の改善を図りつつ、必要に応じて医師の指導を受け正しい治療をおこなうことで、排便障害の症状の改善が期待できます。
排便障害になりやすい人・予防の方法
排便障害になりやすい人は、食事が偏っている方や運動不足の方です。 特に、食物繊維や水分の摂取が不足している人は、便秘のリスクが生じます。ストレスを抱えやすい方も、自律神経の乱れが排便に影響するため注意が必要です。
予防のためには、バランスの良い食事と適度な運動が大切です。水分をしっかり摂り、規則正しい生活を心がけましょう。リラックスできる時間を持つことも、排便障害の予防に役立ちます。
特に、座りっぱなしの生活が続く方は、意識的に体を動かすことが重要です。毎日30分程度の軽い運動を取り入れることで腸の働きが促進されます。
さらに、食物繊維を意識して摂ることで腸内環境が整いやすくなります。ストレスを感じた際には、趣味や友人との会話などで気分転換を図ることも効果的です。適度な生活習慣の見直しをおこない、排便障害を予防することが健康維持につながります。また、腸内環境を良好に保つためにヨーグルトや納豆などの発酵食品を取り入れることも効果的です。これにより、腸の動きが活発になり、排便がスムーズになることが期待できます。
関連する病気
- 大腸がん
- 直腸瘤
- 痔核