吸収不良症候群
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

吸収不良症候群の概要

吸収不良症候群とは、食事から摂取した栄養素を十分に消化吸収し、体の中へ取り込めない状態を指します。
そのため、栄養不足により体重減少、下痢、だるさ、貧血など、さまざまな症状が現れます。
どの段階で吸収障害が起きているかによって、一部の栄養素だけが吸収されない場合とすべての栄養素が吸収できない場合があります。
栄養が吸収される段階は、3つに分けられます。
以下の段階のいずれかで異常が起きると、十分に栄養素を吸収できなくなります。
①消化
胃や小腸内で栄養素が消化される段階
②吸収
小腸の内側の表面で栄養素を吸収する段階
③輸送
吸収された栄養素が血液の流れにのって全身に運ばれる段階

吸収不良症候群の原因

吸収不良症候群は、その原因により以下のように分類されます。

原発性吸収障害
小腸の粘膜が傷ついて栄養素の吸収が妨げられます
続発性吸収不良症候群
消化酵素の不足や、その他の消化器系の問題によって栄養素の吸収が阻害されます

原発性吸収不良症候群

セリアック病
小麦に含まれるたんぱく質の一種であるグルテンに対する免疫反応が原因で、小腸の内側にある細かい突起(絨毛:じゅうもう)が壊されます。これにより栄養素の吸収が妨げられ、さまざまな症状が引き起こされます。
熱帯性スプルー
慢性的な小腸の炎症により絨毛が壊れ、栄養素の吸収が低下します。
クローン病
口から肛門までの全ての消化管に、長期間にわたる炎症やびらんが発生する病気です。
潰瘍性大腸炎
主に大腸の粘膜に炎症がおき、潰瘍やびらんを生じる病気です。これにより栄養素の吸収が困難になります。
小腸の広い範囲の切除(短腸症候群)
小腸に腫瘍ができたり、大量に小腸を切除することで、栄養素の吸収が不十分になる状態です。

続発性吸収不良症候群

膵臓の機能障害
慢性膵炎、膵臓がんなど、膵臓から分泌される消化酵素の減少で、栄養素の吸収が低下します。膵臓から分泌される消化酵素は、タンパク質、脂肪、炭水化物の3大栄養素の消化に関係します。
肝臓の機能障害
肝炎、肝硬変、肝臓がんなどが原因で、胆汁の量が減少すると一部の栄養素の吸収が難しくなります。胆汁は肝臓で作られ、胆のうに送られます。胆汁は脂肪の消化に関係しており、脂肪を小さな粒に分解して小腸での脂肪の吸収を助けます。
胃の機能低下
胃の手術後、アミロイドーシス、糖尿病性神経障害などが原因で胃の動きが低下すると、食べ物を十分に消化できず、栄養素が吸収されにくくなります。

このほかにも、総胆管結石(そうたんかんけっせき)やがん、急性胃腸炎、ラクトース(乳糖)不耐症、一部の薬剤など、さまざまな要因で続発性吸収不良症候群が発症する可能性があります。

吸収不良症候群の前兆や初期症状について

体が食べ物から必要な栄養素を吸収できないことで、多様な症状があらわれます。出現する症状は、不足する栄養素によって変わります。
以下が吸収不良症候群でみられる症状の一部です。

  • 体重減少
  • 下痢、脂肪便
  • 倦怠感
  • その他の症状:口内炎、筋肉痛、骨の痛み、皮膚の変色、手足のけいれん、うつ、知覚異常、脱毛など

具体的には、以下の各栄養素の不足で次のような症状が現れます。
ビタミンDの不足
骨の痛み、筋肉痛、筋肉のけいれん(テタニー)
ビタミンB12の不足
貧血、うつ、知覚異常
ビタミンAの不足
皮膚の乾燥、夜盲症
鉄分の不足
貧血、疲労感
カルシウムの不足
骨粗しょう症、骨の発育障害、筋肉のけいれん
タンパク質の不足
筋肉の減少、免疫力低下

吸収不良症候群が疑われる場合は、まず内科を受診しましょう。

吸収不良症候群の検査・診断

吸収不良症候群が疑われる場合には以下の検査を行い、検査データと症状から吸収不良症候群を発症した原因を特定します。
ほかの検査も併せて行われることがあります。

血液検査

1. 末梢血液の検査

  • ヘモグロビン
  • ヘマトクリット
  • 白血球数と分画
  • MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)
  • MCV(平均赤血球容積)

2. 血清生化学の検査項目

  • マグネシウム
  • リン
  • カルシウム
  • アルブミン
  • コレステロール
  • 中性脂肪
  • アルカリホスファターゼ

3. その他の血液検査の項目

  • ビタミンB12
  • 葉酸
  • βカロテン
  • プロトロンビン時間(PT)
  • シトルリン
  • メチルマロン酸
  • ホモシステイン
  • 免疫グロブリン

糞便検査

  • ph
  • 脂肪
  • キモトリプシン
  • エラスターゼ

画像検査

  • 腹部超音波検査
  • CTスキャンやMRI
  • 小腸造影

内視鏡検査

  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
  • 小腸内視鏡検査
  • 大腸内視鏡検査

吸収試験

  • ラクトース耐性試験
  • 呼気試験

生検

  • 腸の組織検査

吸収不良症候群の治療

吸収不良症候群の治療は、原因や症状に合わせて行われます。

栄養管理

状況に合わせ、以下の方法で栄養状態の改善を目指します。
経口栄養
口から食事や水分を補給する方法です。不足する栄養を補うため、サプリメントや栄養補助食品を利用することがあります。
経管経腸栄養
鼻や口、皮膚に造った瘻孔(ろうこう)から胃や小腸にチューブを通して栄養を補う方法です。この方法では、栄養液や調整された食品が直接胃や腸に送られます。

末梢静脈栄養法(PPN)
手や腕の血管から針を入れ、点滴で栄養を補給する方法です。
短期間の栄養補給が必要な場合や、経口摂取が困難な場合に使用されます。PPNは、簡単に実施できるため、一時的な栄養管理に適しています。

中心静脈栄養法(TPN)
心臓近くの太い血管にチューブを入れ、高カロリーの点滴を行う方法です。TPNは、腸の機能が著しく低下している場合や、長期間の口からの食事や、経管栄養が難しい場合に選択されることがあります。

原因となっている病気の治療 

吸収不良症候群を引き起こしている病気の治療により、栄養吸収を妨げる根本的な問題を解決します。

【各疾患の治療方法】

セリアック病
グルテンを含む食品を避け、不足する栄養素(ビタミン、ミネラルなど)を補うサプリメントが処方される場合があります。
クローン病
ステロイド剤の投与や食事制限、栄養管理を行い、腸への刺激を減らす治療が行われます。
慢性膵炎
状態により、食事制限や、タンパク分解酵素阻害薬や消化酵素の補充薬、痛みを軽減するための鎮痛薬が処方されます。また、手術や内視鏡による治療が行われます。そのほかにも、禁煙やアルコールの摂取制限など、生活習慣の改善が必要な場合があります。

吸収不良症候群になりやすい人・予防の方法

吸収不良症候群になりやすい人

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